「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜

第14話 呪いの跳ね返り 〜フィオナの苦しみと、王太子の土下座決断〜

第14話　呪いの跳ね返り　～フィオナの苦しみと、王太子の土下座決断～

王都オルティアの王宮は、魔物の咆哮と市民の悲鳴に包まれていた。  
城壁はすでにいくつかの箇所が崩れ、衛兵たちは血まみれで戦っていた。  
街中では火事が広がり、逃げ惑う人々が次々と魔物に襲われていた。

謁見の間では、ヴァレンティン王太子が玉座に座り、顔を青ざめさせていた。  
使者が戻ってきて、震える声で報告した。

「王太子殿下……アリシア様は、条件を変えられないと。  
契約金1000万ゴールドと、謝罪文の全国公開……それがなければ、助けないと」

ヴァレンティンは、拳を握りしめ、玉座の肘掛けを叩いた。

「くそ……プライドが、許さない」

フィオナ・セレナは、玉座の足元に跪き、顔を覆っていた。  
彼女の体は、呪いの跳ね返りで黒い斑点が浮かび、息が荒かった。

「ヴァレンティン様……もう、限界ですわ。  
私の癒しの力が、完全に失われて……」

フィオナは、震える手でドレスの袖をまくり上げた。  
腕に、紫色の呪文のような模様が広がっていた。  
それは、アリシアの「連鎖の呪い」が、フィオナ自身に跳ね返った証だった。

「アリシア様の呪いが……私を蝕んでいるのです。  
体が、焼けるように痛くて……」

ヴァレンティンは、フィオナを見て、目を逸らした。

「フィオナ……お前は、本物の聖女のはずだったのに」

フィオナは、涙を流しながら、必死に訴えた。

「ヴァレンティン様……もう、彼女を呼ぶしかありません。  
王都が滅ぶ前に……」

ヴァレンティンは、立ち上がり、窓辺へ歩いた。  
外では、魔物が城壁を越え、街を蹂躙していた。  
子供の泣き声が、遠くに聞こえる。

「俺は……王太子として、土下座などできない」

だが、その言葉は、空しく響いた。  
心の奥で、後悔が爆発していた。

『アリシア……俺は、お前を誤解していた。  
お前は、無能なんかじゃなかった』

ヴァレンティンは、ゆっくりと振り返り、使者に言った。

「もう一度、使者を送れ。  
……俺が、自らルミナス領へ行く。  
土下座して、条件を飲む」

謁見の間に、静寂が広がった。  
貴族たちが、息を呑む。  
フィオナの顔が、驚きと絶望で見開かれた。

「ヴァレンティン様……そんな、屈辱を……」

ヴァレンティンは、静かに言った。

「国が滅ぶなら、俺のプライドなど、どうでもいい。  
アリシアを、呼ぶ」

使者は、深く頭を下げ、すぐに馬を飛ばした。

一方、ルミナス領の村。  
アリシアは、シルヴァン・レイヴンと丘の上に立っていた。  
ガレン・ブライトが、村の警備を終えて戻ってきた。

「アリシア様……王都から、また使者が来るようです」

シルヴァンが、冷たく笑った。

「今度こそ、土下座させる」

アリシアは、静かに首を振った。

「シルヴァン様……みんなの命がかかっているわ。  
助けに行きたい」

シルヴァンは、アリシアの肩を抱いた。

「わかっている。  
だが、条件は絶対だ。  
お前を傷つけた代償を、払わせる」

アリシアは、シルヴァンの胸に寄りかかった。

「ありがとう……シルヴァン様」

村人たちが、丘の下で祈るように見守っていた。  
子供が、アリシアに手を振る。

「アリシアお姉ちゃん、気をつけてね！」

アリシアは、優しく手を振り返した。

「みんな、待っていて。  
すぐに戻るわ」

その夜、王都のフィオナは、部屋で一人、鏡の前に座っていた。  
鏡に映る自分の顔は、呪いで醜く変形し始めていた。  
黒い斑点が広がり、髪が抜け落ち、肌が乾燥してひび割れていた。

「アリシア……あなたが、こんなことに……」

フィオナは、鏡を叩き割った。  
ガラスの破片が散らばる中、彼女は泣き崩れた。

「許さない……絶対に、許さないわ」

嫉妬と絶望が、フィオナの心を焼き尽くしていた。

王宮では、ヴァレンティンが一人、玉座に座っていた。  
彼は、静かに呟いた。

「アリシア……俺は、間違っていた」

使者が、馬を飛ばし、ルミナス領へ向かう。  
夜の闇に、土下座の影が迫っていた。