エアコン魔法、全自動チョコレート製造魔法、魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ

鷹 綾

文字の大きさ
17 / 40

第17話 並ばない自由と、待つ自由は、等しく存在しますわ

しおりを挟む
第17話 並ばない自由と、待つ自由は、等しく存在しますわ

 朝。

 エオリア・フロステリアは、窓際のソファで紅茶を飲みながら、ぼんやりと外を眺めていた。

「……今日は、列が短いですわね」

「はい。半分ほどでしょうか」

 エレナが静かに答える。

 それを聞いて、エオリアは少しだけ満足そうに頷いた。

「よろしいですわ」

「……短い方が、ですか?」

「ええ。人が減るということは、“必要な人だけ残った”ということですもの」

 



 

 この数日、屋敷の前の行列は、微妙に変化していた。

 以前のような“様子見”の人間はいなくなり、
 噂を確かめに来る者も減った。

 残ったのは――
 買うと決めて来る者だけ。

 



 

 エオリアは、それを非常に良い状態だと判断していた。

「行列が長いのは、管理が面倒ですわ」

「……ですが、人気がある証拠でもあります」

「人気など、重たいだけです」

 即答だった。

「人が増えれば、期待が生まれます。
 期待が生まれれば、不満が発生します」

「私は、そこまで面倒を見られませんわ」

 



 

 正午。

 販売開始。

 今日も条件は同じ。

 ・一日一回
 ・時間固定
 ・購入は一人一回
 ・量は制限なし
 ・説明なし
 ・質問対応なし

 それを知っている者だけが、黙って列に並ぶ。

 



 

 途中、ひとりの男が列から離れた。

「……今日はやめておくか」

 それを見て、エレナが小さく息を飲む。

「……離脱されました」

「そうですの」

 エオリアは、まったく気にしなかった。

「それも、自由ですわ」

 



 

 並ばない自由。
 買わない自由。

 それを否定しないからこそ、並ぶ意味が生まれる。

 



 

 別の女性が言った。

「明日でもいいわよね。急いでないし」

 そう言って、微笑んで帰っていく。

 エオリアは、その報告を聞いて、わずかに口元を緩めた。

「……正しい判断ですわ」

 



 

 午後。

 販売は、いつもより少しだけ長く続いた。

 列が短いため、購入量が増え、一人あたりの時間もかかった。

「……あの方、箱を十個以上購入されています」

「それでも、一回ですわ」

「はい……」

 



 

 エオリアは、淡々とした声で言う。

「何度も並ばれる方が、よほど迷惑ですもの」

「一度で済むなら、その方が楽です」

 



 

 売り切れ。

 今日も、きっちり同じ時間ではなかった。

「……時間、少しずれました」

「構いませんわ」

 彼女は、まったく気にしない。

「売り切れた時点で、終わりですもの」

 



 

 屋敷に戻り、エオリアはソファに深く腰を下ろした。

「……今日は、少し疲れましたわ」

「お嬢様は、何もしていませんが……」

「判断をしていません」

 きっぱりと言い切る。

「それが、いちばん楽です」

 



 

 エレナは、少し考えてから言った。

「……皆、“並ぶ価値がある”と言っています」

「それは、私の評価ではありません」

「ですが……」

「価値があるかどうかは、並んだ人が決めることです」

 エオリアは、チョコを一粒、口に含んだ。

「私は、置いているだけです」

 



 

 夜。

 静かな部屋で、エオリアは帳簿も見ず、明日の予定も確認しない。

 確認する必要がないからだ。

「……明日も、同じですわ」

 それが、わかっている。

 



 

 ベッドに入る前、彼女は小さく呟いた。

「並ばない自由も、待つ自由も……」

 少しだけ、考えてから続ける。

「どちらも、同じ重さですわね」

 だからこそ、選ばせる。

 選ばせた結果に、責任を持たない。

 それが、エオリア・フロステリアの流儀だった。

 彼女は今日も、
 人を急がせず、
 人を縛らず、
 ただ“選択肢だけを置いた”まま、
 静かに一日を終えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。

金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。 前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう? 私の願い通り滅びたのだろうか? 前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。 緩い世界観の緩いお話しです。 ご都合主義です。 *タイトル変更しました。すみません。

婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

処理中です...