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第16話: 兄の来訪
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第16話: 兄の来訪
王宮到着の前日、アプリリアたちは王都郊外の別邸で最後の準備をしていた。
朝の陽光が庭を照らす中、突然、門番が慌てて駆け込んできた。
「アプリリア様! お客様です!
ロズウェル家の……ゼスト様が!」
アプリリアの顔が、ぱっと明るくなった。
「お兄様!?」
庭園に出ると、そこに兄ゼスト・フォン・ロズウェルが立っていた。
金色の髪を短く整え、騎士のような凛々しい姿。
公爵家の跡取りとして、王宮で活躍しているはずの兄が、なぜここに。
「アプリリア!」
ゼストは妹を見つけると、駆け寄って強く抱きしめた。
「お兄様……どうして?
王宮から抜け出してきたの?」
ゼストは少し照れくさそうに笑い、妹の頭を撫でた。
「当たり前だ。
お前が王宮に戻るって聞いたら、放っておけないだろう。
父上には内緒でな」
二人は庭のベンチに座り、リオがお茶を運んできた。
ガイアとカイルも、少し離れた場所で控えていた。
ゼストは、声を潜めて話し始めた。
「王宮の状況を、詳しく伝えておく。
お前が戻る前に、知っておくべきことだ」
アプリリアは真剣な目で頷いた。
「エテルナの偽りの力が、ほぼ完全にバレかけている。
最近、彼女の『治癒』はほとんど効果がなく、重臣たちの間では疑念が広がっている。
ルキノ殿下は苛立ってばかりで、政務も滞りがちだ。
王妃様は、お前の力を期待しているが……父上は、まだ掌返しを迷っている」
アプリリアは静かに聞いた。
父、レオンハルト公爵。
婚約破棄の時、沈黙を守り、娘を見捨てた人。
「父上は……後悔しているの?」
ゼストは苦笑した。
「しているさ。
お前の領地が繁栄している噂を聞いて、顔面蒼白だよ。
『あれを捨てたのは、俺の失策だった』って、独り言を漏らしてるのを聞いた」
アプリリアの胸に、複雑な感情が湧いた。
後悔か。
でも、それだけで許せるほど、甘くない。
ゼストは続けた。
「それと、エテルナの陰謀。
刺客の一件は、すでに王妃様の耳にも入っている。
お前の飛脚が、うまく証拠を届けたな。
エテルナとヴェゼルは、焦ってさらに手を打とうとしている」
アプリリアの予知が、ぼんやりとそれを裏付ける。
魔物の大規模な誘導計画。
王都近郊に、魔物の群れを呼び寄せる装置を、複数設置するつもりらしい。
「お兄様……ありがとう。
詳しく教えてくれて」
ゼストは妹の手を取った。
「アプリリア。
お前は、もう昔のお前じゃない。
聖女の力で、領地を豊かにした。
民から愛されている。
王宮に戻っても、胸を張れ。
俺が、必ず味方だ」
アプリリアの目が、熱くなった。
「お兄様……私、強くなったよ。
もう、泣かない」
ゼストは優しく微笑み、妹の額にキスをした。
「知ってるさ。
お前は、ロズウェル家の誇りだ」
その時、ガイアが近づいてきた。
「ゼスト様。
アプリリアの護衛は、俺が務めます」
ゼストはガイアをまっすぐ見て、頷いた。
「騎士団長ガイア・ヴァルハルトか。
噂は聞いている。
妹を、よろしく頼む」
二人の男は、固く握手を交わした。
ゼストは、少し照れながら言った。
「それと……お前たちの仲も、聞いている。
アプリリアを幸せにしてくれよ」
ガイアの耳が、わずかに赤くなる。
「……もちろんです」
リオとカイルが、遠くでニヤニヤしている。
ゼストは、隠し持っていた袋をアプリリアに渡した。
「父上の名義で、支援物資だ。
金貨と、護衛の騎士も少し。
お前の領地のために、使え」
アプリリアは、袋を受け取りながら首を振った。
「ありがとう。
でも、もう領地は自立してるわ。
このお金は、王国を救うために使う」
ゼストは、誇らしげに笑った。
「さすが、俺の妹だ」
昼食を共にし、ゼストは夕方には王宮へ戻らなければならなかった。
別れの時。
「アプリリア。
明日、王宮で会おう。
俺は、お前の味方だ。
どんな時も」
アプリリアは兄を抱きしめた。
「お兄様、ありがとう。
私、絶対に負けない」
ゼストは馬に乗り、去っていった。
アプリリアは、門の外でしばらく兄の背中を見送った。
ガイアが、そっと肩を抱く。
「いい兄だな」
「ええ。
家族が、味方になってくれて……嬉しい」
リオが、涙を拭きながら言った。
「アプリリア様、ほんとに強くなりましたね。
明日、王宮でエテルナ様たちを、びっくりさせてあげましょう!」
アプリリアは、静かに頷いた。
――父上の掌返し。
それは、予想通り。
でも、今の私には、もう必要ない。
自分の力で、立つ。
兄の支援は、ありがたく受け取るけど。
夜、アプリリアは一人で部屋に戻り、手紙を書いた。
領地の村長へ。
村人たちへ。
『皆さん、明日から少し留守にします。
でも、必ず戻ります。
皆さんの笑顔を守るために。』
予知の力が、また閃く。
大規模な魔物の襲撃。
エテルナの最後の策略。
王都を、魔物の群れが包囲する。
――来るなら、来なさい。
私は、もう準備ができている。
アプリリアは、窓から月を見上げた。
兄の来訪で、心がさらに強くなった。
家族の絆。
ガイアの愛。
領地の民の信頼。
すべてが、彼女の背中を押す。
王宮での戦いは、もうすぐ。
エテルナの陰謀を、完全に暴く時。
アプリリアの瞳に、静かな炎が灯った。
復讐の序曲は、
さらに高らかに響き始める。
明日、王宮へ。
華麗なる逆転の、舞台が整う。
王宮到着の前日、アプリリアたちは王都郊外の別邸で最後の準備をしていた。
朝の陽光が庭を照らす中、突然、門番が慌てて駆け込んできた。
「アプリリア様! お客様です!
ロズウェル家の……ゼスト様が!」
アプリリアの顔が、ぱっと明るくなった。
「お兄様!?」
庭園に出ると、そこに兄ゼスト・フォン・ロズウェルが立っていた。
金色の髪を短く整え、騎士のような凛々しい姿。
公爵家の跡取りとして、王宮で活躍しているはずの兄が、なぜここに。
「アプリリア!」
ゼストは妹を見つけると、駆け寄って強く抱きしめた。
「お兄様……どうして?
王宮から抜け出してきたの?」
ゼストは少し照れくさそうに笑い、妹の頭を撫でた。
「当たり前だ。
お前が王宮に戻るって聞いたら、放っておけないだろう。
父上には内緒でな」
二人は庭のベンチに座り、リオがお茶を運んできた。
ガイアとカイルも、少し離れた場所で控えていた。
ゼストは、声を潜めて話し始めた。
「王宮の状況を、詳しく伝えておく。
お前が戻る前に、知っておくべきことだ」
アプリリアは真剣な目で頷いた。
「エテルナの偽りの力が、ほぼ完全にバレかけている。
最近、彼女の『治癒』はほとんど効果がなく、重臣たちの間では疑念が広がっている。
ルキノ殿下は苛立ってばかりで、政務も滞りがちだ。
王妃様は、お前の力を期待しているが……父上は、まだ掌返しを迷っている」
アプリリアは静かに聞いた。
父、レオンハルト公爵。
婚約破棄の時、沈黙を守り、娘を見捨てた人。
「父上は……後悔しているの?」
ゼストは苦笑した。
「しているさ。
お前の領地が繁栄している噂を聞いて、顔面蒼白だよ。
『あれを捨てたのは、俺の失策だった』って、独り言を漏らしてるのを聞いた」
アプリリアの胸に、複雑な感情が湧いた。
後悔か。
でも、それだけで許せるほど、甘くない。
ゼストは続けた。
「それと、エテルナの陰謀。
刺客の一件は、すでに王妃様の耳にも入っている。
お前の飛脚が、うまく証拠を届けたな。
エテルナとヴェゼルは、焦ってさらに手を打とうとしている」
アプリリアの予知が、ぼんやりとそれを裏付ける。
魔物の大規模な誘導計画。
王都近郊に、魔物の群れを呼び寄せる装置を、複数設置するつもりらしい。
「お兄様……ありがとう。
詳しく教えてくれて」
ゼストは妹の手を取った。
「アプリリア。
お前は、もう昔のお前じゃない。
聖女の力で、領地を豊かにした。
民から愛されている。
王宮に戻っても、胸を張れ。
俺が、必ず味方だ」
アプリリアの目が、熱くなった。
「お兄様……私、強くなったよ。
もう、泣かない」
ゼストは優しく微笑み、妹の額にキスをした。
「知ってるさ。
お前は、ロズウェル家の誇りだ」
その時、ガイアが近づいてきた。
「ゼスト様。
アプリリアの護衛は、俺が務めます」
ゼストはガイアをまっすぐ見て、頷いた。
「騎士団長ガイア・ヴァルハルトか。
噂は聞いている。
妹を、よろしく頼む」
二人の男は、固く握手を交わした。
ゼストは、少し照れながら言った。
「それと……お前たちの仲も、聞いている。
アプリリアを幸せにしてくれよ」
ガイアの耳が、わずかに赤くなる。
「……もちろんです」
リオとカイルが、遠くでニヤニヤしている。
ゼストは、隠し持っていた袋をアプリリアに渡した。
「父上の名義で、支援物資だ。
金貨と、護衛の騎士も少し。
お前の領地のために、使え」
アプリリアは、袋を受け取りながら首を振った。
「ありがとう。
でも、もう領地は自立してるわ。
このお金は、王国を救うために使う」
ゼストは、誇らしげに笑った。
「さすが、俺の妹だ」
昼食を共にし、ゼストは夕方には王宮へ戻らなければならなかった。
別れの時。
「アプリリア。
明日、王宮で会おう。
俺は、お前の味方だ。
どんな時も」
アプリリアは兄を抱きしめた。
「お兄様、ありがとう。
私、絶対に負けない」
ゼストは馬に乗り、去っていった。
アプリリアは、門の外でしばらく兄の背中を見送った。
ガイアが、そっと肩を抱く。
「いい兄だな」
「ええ。
家族が、味方になってくれて……嬉しい」
リオが、涙を拭きながら言った。
「アプリリア様、ほんとに強くなりましたね。
明日、王宮でエテルナ様たちを、びっくりさせてあげましょう!」
アプリリアは、静かに頷いた。
――父上の掌返し。
それは、予想通り。
でも、今の私には、もう必要ない。
自分の力で、立つ。
兄の支援は、ありがたく受け取るけど。
夜、アプリリアは一人で部屋に戻り、手紙を書いた。
領地の村長へ。
村人たちへ。
『皆さん、明日から少し留守にします。
でも、必ず戻ります。
皆さんの笑顔を守るために。』
予知の力が、また閃く。
大規模な魔物の襲撃。
エテルナの最後の策略。
王都を、魔物の群れが包囲する。
――来るなら、来なさい。
私は、もう準備ができている。
アプリリアは、窓から月を見上げた。
兄の来訪で、心がさらに強くなった。
家族の絆。
ガイアの愛。
領地の民の信頼。
すべてが、彼女の背中を押す。
王宮での戦いは、もうすぐ。
エテルナの陰謀を、完全に暴く時。
アプリリアの瞳に、静かな炎が灯った。
復讐の序曲は、
さらに高らかに響き始める。
明日、王宮へ。
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