婚約破棄された公爵令嬢は真の聖女でした ～偽りの妹を追放し、冷徹騎士団長に永遠を誓う～

第17話: 魔物の大襲撃

第17話: 魔物の大襲撃

王宮到着の当日朝。

アプリリア、ガイア、リオ、カイル、そしてゼストが密かに加わった一行は、堂々と王宮の正門をくぐった。

民衆が道の両側に集まり、ざわめいていた。

「聖女様だ……！」  
「本当に戻ってきた……！」

アプリリアの黒髪が風に揺れ、穏やかな微笑みを浮かべる。  
ガイアが馬で隣を守り、凛とした姿。

王宮の広間では、王妃イザベラ、重臣たち、そしてルキノとエテルナが待っていた。

ルキノの顔は憔悴し、エテルナは青ざめていた。

アプリリアが一礼する。

「王妃様、召喚に応じました。  
アプリリア・フォン・ロズウェルです」

王妃が、静かに頷いた。

「よく来てくれた、アプリリア。  
王国は今、危機に瀕している。  
魔物の大規模な襲撃が、王都を包囲しようとしている。  
あなたの力が必要だ」

その言葉と同時に――

王宮の外から、轟音が響いた。

ゴオオオオオオッ！

大地が震え、窓ガラスが鳴る。

魔物の咆哮。

王都の城壁の外に、無数の魔物が押し寄せていた。  
フォレストウルフ、巨大なオーク、飛竜さえ混じっている。  
数千頭を超える大群。

重臣たちが悲鳴を上げる。

「来たぞ！ 魔物の大軍だ！」  
「城壁が持たない！」

エテルナが、慌てて前に出た。

「私が……私が聖女の力で！」

手を掲げるが、光は弱々しく、すぐに消える。

ルキノが、エテルナを睨む。

「……お前では、無理だな」

エテルナの顔が、絶望に歪む。

アプリリアは静かに広間を進み、王妃の前に立った。

「王妃様。  
私に、お任せください」

王妃が頷く。

「頼む、アプリリア。  
あなたが、真の聖女だ」

アプリリアはガイアと視線を交わした。

ガイアが、剣を抜く。

「俺たちも、行く」

カイルとゼストも、頷く。

一行は、王宮のバルコニーへ向かった。

下を見下ろすと、城壁の外は黒い魔物の海。

騎士団が必死に防戦しているが、押され始めている。

アプリリアは、両手を広げた。

――今、すべてを見せる。

聖女の力、全開。

眩い光が、王宮全体を包んだ。

純白の、圧倒的な光。

光は城壁を越え、王都全体を覆う巨大なバリアとなった。

魔物たちが、光に触れて苦しみ、後退する。

「これは……！」  
「神の奇跡だ……！」

民衆が、歓声を上げる。

だが、魔物はまだ多い。

アプリリアは、さらに力を集中。

浄化の光の雨を、魔物の群れに降らせる。

弱い魔物は瞬時に消滅。  
強い魔物も、力が抜けて動きが鈍る。

ガイアが、騎士団に叫ぶ。

「今だ！ 反撃を！」

ガイア、カイル、ゼストが城壁へ飛び降り、剣を振るう。

ガイアの剣が、魔物を薙ぎ払う。

「アプリリアの光を、無駄にするな！」

騎士たちが奮起し、反撃を開始。

アプリリアはバルコニーから、光の矢を連発。

予知で魔物の動きを読み、的確に弱点を狙う。

飛竜が王宮に向かってきた瞬間、  
光の矢が翼を貫き、墜落させる。

リオが、横で応援する。

「アプリリア様、すごいです！  
無敵です！」

戦いは、数時間に及んだ。

アプリリアの力が、魔物を次々に弱体化。  
ガイアたちの剣が、確実に仕留める。

ついに、魔物の群れは総崩れとなった。

残った魔物は、森へ逃げ散る。

王都は、救われた。

広間に戻ったアプリリアは、汗だくだったが、立派に立っていた。

民衆の歓声が、王宮に響く。

「聖女様！ 聖女様！」

王妃が、アプリリアの手を取った。

「ありがとう、アプリリア。  
あなたが、王国を救った」

ルキノが、震える足で近づいてきた。

「アプリリア……お前が……」

エテルナは、床に崩れ落ちていた。

アプリリアは、静かにルキノを見た。

「ルキノ殿下。  
この魔物の大襲撃……自然発生ではありません」

重臣たちが、ざわつく。

アプリリアは、予知で得た情報を明かした。

「魔力を誘導する装置が、王都近郊に複数設置されていました。  
刺客の供述と一致します。  
エテルナとヴェゼル侯爵令嬢が、関与している可能性が高いです」

エテルナが、顔を上げて叫ぶ。

「違う！ そんな……私は……！」

だが、誰も信じない。

王妃が、冷たく言った。

「調べる。  
徹底的に」

その時、ガイアがアプリリアの元に戻ってきた。

肩に軽い傷を負っていた。

アプリリアは即座に、光で癒す。

ガイアが、小声で言った。

「……お前、無茶しすぎだ」

アプリリアは微笑んだ。

「あなたこそ。  
トラウマが、再燃したでしょう？」

ガイアの家族を殺した魔物。  
今日の群れに、似たものがいた。

ガイアは、静かに頷いた。

「少しな。  
だが……お前の光が、あったから、大丈夫だった」

アプリリアは、ガイアの手を取った。

淡い光を、心に送る。

ガイアの瞳が、優しく細められる。

「ありがとう、アプリリア」

二人は、皆の前で手を繋いだまま。

ゼストが、誇らしげに笑う。

王妃が、宣言した。

「アプリリアを、真の聖女として迎える。  
婚約破棄の件も、再調査する」

ルキノが、膝をついた。

「アプリリア……すまなかった……」

エテルナは、衛兵に連れていかれそうになる。

「待って！ ルキノ殿下！ 助けて！」

だが、ルキノは目を伏せた。

大襲撃は、撃退された。

アプリリアの力で、王国は救われた。

ガイアのトラウマも、アプリリアの光で癒された。

二人の絆は、さらに深まった。

広間の外で、民衆の歓声が続く。

「聖女様！ 万歳！」

アプリリアは、バルコニーに出て、手を振った。

ガイアが、隣に立つ。

真実の兆しが、完全に現れた。

エテルナの偽りは、もう隠せない。

復讐の序曲は、  
クライマックスへ向かう。

アプリリアの瞳に、  
静かな勝利の光が宿っていた。