婚約破棄された公爵令嬢は真の聖女でした ～偽りの妹を追放し、冷徹騎士団長に永遠を誓う～

第24話: 恋の試練

第24話: 恋の試練

王宮での騒動が一段落した翌日、アプリリアとガイアは王都郊外の静かな湖畔を散歩していた。

朝の霧が湖面を覆い、木々の葉が優しく揺れる。  
二人は手を繋ぎ、ゆっくりと歩いていた。  
エテルナの追放が決まり、王国は平穏を取り戻しつつあった。

アプリリアが、ガイアの横顔を見上げた。

「ガイア。  
あなたとこうして歩けるのが、夢みたい」

ガイアは、優しくアプリリアの手を握り返した。

「俺もだ。  
お前がいなければ、こんな穏やかな朝はなかった」

二人は湖畔のベンチに座り、肩を寄せ合った。

しかし、ガイアの表情に、わずかな影が差していた。

アプリリアは、それに気づいた。

「どうしたの？  
何か、気になること？」

ガイアは、静かに目を伏せた。

「……昨日、魔物の大襲撃で、  
あの群れの中に、似た奴がいた」

アプリリアの胸が、締めつけられた。

ガイアの家族を皆殺しにした魔物。  
あの時のトラウマが、再び蘇ったのだ。

「ごめんなさい……  
私のせいで、あなたの傷を、えぐってしまった」

ガイアは首を振った。

「違う。  
お前のせいじゃない。  
お前の光がなければ、俺はもっと苦しんでいた」

しかし、ガイアの声は、少し震えていた。

「でも……夜、夢を見た。  
家族が、魔物に食い殺される夢を。  
また、守れなかったって……  
自分を、許せない」

ガイアの瞳に、深い闇が宿る。

アプリリアは、ガイアの両手を取った。

「ガイア。  
あなたは、もう十分守ってきた。  
王国を、民を、私を……  
過去の自分を、責めないで」

ガイアが、苦しげに目を閉じた。

「俺は、剣しか持っていない。  
家族を失った時、誓った。  
二度と、大切な人を失わないって。  
でも、もしお前に何かあったら……  
俺は、また壊れる」

その言葉に、アプリリアの目から涙がこぼれた。

恋の試練。

ガイアの過去の傷が、再び影を落とす瞬間。

アプリリアは、ガイアの胸に顔を埋めた。

「そんなこと、させない。  
私が、あなたを守るわ」

彼女は、そっと両手をガイアの胸にかざした。

眩い光が、優しくガイアを包む。

心の傷を、癒す光。

前世から持つ、特別な治癒。

光が、ガイアの体を巡る。

過去の記憶が、フラッシュバックする。

――幼いガイア。  
家族と笑い合う日々。  
魔物の襲撃。  
血と炎。  
一人残された少年の、絶望。

しかし、今度は違う。

光の中に、アプリリアの姿が浮かぶ。

辺境での出会い。  
共同の戦い。  
夜のキス。  
「俺はお前を愛している」

家族の記憶が、優しく包まれる。

新しい光で。

ガイアの目から、涙がこぼれた。

「……アプリリア」

光が収まると、ガイアの表情は、穏やかになっていた。

闇が、薄らいでいる。

「温かい……  
お前の光が、俺の過去を、優しく覆ってくれた」

アプリリアは、涙を拭きながら微笑んだ。

「あなたは、もう一人じゃない。  
私たちがいる。  
家族みたいに、ずっとそばに」

ガイアが、アプリリアを抱きしめた。

強く、優しく。

「ありがとう……  
お前がいれば、俺はもう、壊れない」

二人は、湖畔で長い時間、抱き合っていた。

風が、霧を払う。

太陽が、湖面を輝かせる。

ガイアのトラウマは、  
完全に癒されたわけではない。

だが、アプリリアの光と愛で、  
乗り越えられるものになった。

恋の試練は、  
二人の絆を、さらに深めた。

ガイアが、アプリリアの額にキスをした。

「これからは、過去に囚われない。  
お前と、未来を生きる」

アプリリアが、頷く。

「ええ。  
一緒に、幸せになろう」

二人は、再び手を繋いで歩き始めた。

湖畔の道を、ゆっくりと。

リオとカイルが、遠くから見守っていた。

リオが、涙を拭く。

「アプリリア様とガイア様……ほんとに、お似合いです」

カイルが、笑う。

「団長、ようやく笑顔になったな。  
聖女様、すげえよ」

試練を乗り越えた二人は、  
より強く結ばれた。

王宮での出来事は、終わった。

これからは、  
甘い日々だけ。

ガイアの過去の影は、  
アプリリアの光で、優しく溶けた。

湖の水面に、二人の影が映る。

永遠の誓いの、予感とともに。

恋の試練は、  
感動的に幕を閉じた。

アプリリアの心は、  
完全にガイアで満たされていた。