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第六話 話を聞いてくれない人達
しおりを挟む「ヴィンセント様!」
「……」
「ヴィンセント様!! 聞いてます!?」
「聞いてるよ。さぁ、馬車に着いたよ。横になって?」
「ですからー」
馬車に着くなり私を横に寝かせたヴィンセント様は、自分も中に乗り込むと流れる様な動作で私の頭を持ち上げ自分の膝の上にそっと乗せた。
「……?」
(……んん? これって?)
どこからどう見ても膝枕されているじゃないの!
私はガバッと起き上がる。
「あああああの!」
「どうかした? ほら、駄目だよ。ちゃんと寝ていないと」
そう言われてやんわりと再び寝かし付けられた。
もちろん、私の頭はヴィンセント様の膝の上。
「い、いえ、そ、そうではなく! ひ、ひ……」
動揺した私はうまく喋れずにいる。
そんな私を見たヴィンセント様は悲しそうな顔で言った。
「あぁ……うまく喋れないくらい具合が悪いんだね? 本当にごめん、アイリーン」
「違っ」
「そうだ! 少しの時間だけでも眠った方がいい。安心して? 着いたら起こすから」
「そ……」
「うん?」
何故なの。笑顔なのに圧がすごい……
駄目だわ。これはもう話を聞いてもらえそうにない。
そう悟った私は、開き直って人生初の膝枕を堪能する事にした。
そして、何故かヴィンセント様の膝枕は心地よくて……本当に眠ってしまったのだから我ながらどうかと思う。
*****
「……」
「さて、説明を求める。アイリーン」
困ったわ。お父様の目が怖い……
「五百歩譲って、ヴィンセント殿と二人で出かけた事はまぁ……いいだろう。訪問の連絡は受けていたからな」
「ごひゃっぽ……」
そんなに譲歩するの……
「だが!!」
「……ひっ」
お父様のその迫力に私の口からは小さな悲鳴が出た。
「何故、抱っこされて帰ってきたんだーー!! そこだけが解せん!」
「~~!」
そんなの私が聞きたいわよーー!
人の話を聞かなかったヴィンセント様に言ってーー!
私は心の中で叫んだ。
何故、今、こうして私がお父様に説明を求められているのかと言うと──
ヴィンセント様は、我が家に馬車が着くとすぐさま眠ってしまっていた私を起こしてくれた……のだけど。
何故か再び私を抱き抱えてそのまま屋敷の玄関まで運んだ。
そこをちょうど帰宅したお父様にばっちり見られてしまったからだった。
「たった数日で抱っこされるほど距離を縮めたというのか!? 早すぎる!」
「えっと、お父様。違うのよ、そういう事ではなく……」
「これは、やはりアイリーンが未来のアディルティス侯爵夫人となるのは決定なのだろうか。果たして務まるのか?」
「いえ、あの、ですから……」
「無理だ!」
「っ!」
やっぱりお父様は酷い!
話を聞いてくれないばかりか、無理だと断言されてしまったわ。
それとも、ここは娘をよく分かってくれているのね!
と、喜ぶべきなの??
(でも、確かに小説の中でのステラもアディルティス侯爵家の事では苦労していた……)
「アイリーン!」
「ふぁ、ふぁい!」
ちょっと小説の事を考えたいたせいで、おかしな返事になってしまった。
お父様はジロっと私を睨む。
「そんな返事で侯爵夫人が務まると思っているのかー!!」
「!?」
侯爵夫人は無理だと言ったくせにーー!
話を聞いてくれないお父様の尋問とお説教はそれからも長々と続いた。
「ふぅ……長かったわ」
ようやくお父様から解放された私は自分の部屋に戻りそっと一息つく。
「アディルティス侯爵夫人……かぁ」
このまま私は本当にヴィンセント様の花嫁となるのだろうか。
ヴィンセント様は良い人だと思う。ちょっとズレてて強引な所もあったけれど、優しくて一緒にいて楽しいと思った。
ドキドキも……した。
(でも、その優しさは私が指輪をはめているからではなくて?)
指輪が導き選んだ相手だから、仕方なく優しくしてくれて大切にしようとしているだけでは?
どうしてもそんな気持ちが私の中で渦巻いてしまう。
それに。
ステラが……いる。
どうして指輪はステラではなく私を選んだの?
ステラこそが真のヒロインなのに。
「はっ! そうよ。真実のヒロインがいる事は分かったのだから!」
そう思った私はもしかして今なら指輪が抜けるのでは? そう思って抜こうとしたけれど、結局指輪は抜けず何も変わらなかった。
「駄目かぁ……」
運命の指輪は間違いを認めたくないのかもしれない。
「えーい! うじうじ悩んでいても仕方ないわ! ステラの事はよく分からないからとりあえずは保留! そしてまずはヴィンセント様に聞いてみる!」
今はお互いを知る為の期間だと言っていたけれど、この数日、私と過ごして私の事を知った上でどう思っているのか聞いてみたい。
指輪が選んだから仕方なく……などと口にしようものなら、全力で“運命の人”となるのはお断りしたい。
そう決意した私は早速、アディルティス侯爵家に訪問の予定を伝え、ヴィンセント様にこちらから会いに行く事にした。
そうしてやって来たアディルティス侯爵家。
私は門の前まで辿り着くとその屋敷の大きさと広さに圧倒された。
「……屋敷の大きさが比べるまでもなく……違う。庭も広ーい」
まさに、格が違う。
そんな言葉がピッタリだった。
(ヴィンセント様の事が好きとか以前の問題で、この家に嫁げる気がしない!)
なんて事を考えていたその時、後ろから声をかけられた。
「あの……すみません」
その声に聞き覚えがあり、ドクリと心臓が嫌な音を立てた。
……こ、この声は!
まさかまさかという思いでそっと振り返る。
「!!」
私は声にならない悲鳴をあげた。
──どうして!?
どうして彼女──ステラがここにいるの?
まさに今、私に声をかけたのは小説のヒロイン、ステラ。
彼女はたくさんの花を手に持って侯爵家の門の前に立っていた。
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