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第七話 現れたヒロイン
しおりを挟む間違いない。どこからどう見ても彼女はヒロインのステラ。
「えっと、な、何か私に御用でしょうか?」
そう聞き返してみるけれど、声が上擦ってしまった。身体も震えている。
けれど、そんなどこからどう見ても不審な様子の私に、ステラは気にする様子も無くにっこりと笑いながら言った。
「突然、失礼しました。ここってアディルティス侯爵家の屋敷であっていますか?」
「え? えぇ、そうです」
予想していなかった言葉だった。
どういう事?
「あ、間違いないんですね! 良かったぁ。貴族のお屋敷ってどれも似ているからちょっと心配だったんです。初めての訪問でしたから」
私が頷くと、ステラは安心したように微笑んだ。
「は、初めて?」
「はい。実はここの侯爵家の庭師の方に頼まれてお花を定期的に届けているんですけど」
そう言ってステラは抱えていた花を私に見せる。
「今日はいつもの配達担当がお休みだったので私が代わりに来たんです。貴族様のお屋敷というのはやっぱり緊張してしまいますね!」
「そ、そう……ですか」
ステラは少し興奮交じりにそう話す。
(……とりあえずこの展開は小説には無かったわ)
ステラの言う通りなら、彼女は侯爵家の庭師への用事で来ただけでヴィンセント様は関係ない?
でも、初めての花の配達先が侯爵家って言うのも何だか……意味があるような無いような。
あぁ、ダメだわ。私の胸がザワザワする。
そんな私の内心を知らないステラは笑顔を浮かべて言った。
「ですが、緊張はしますけど、アディルティス侯爵家は…………ですし」
「え?」
途中の声が小さすぎて聞き取れなかった。
「あ、すみません……ふふふ、何でもありません。えっと、あなたも侯爵家に用事があって訪ねて来ているんですよね? 邪魔をしてしまってごめんなさい」
「い、いえ……」
ステラは物怖じしない性格なのか、明らかに貴族だと分かる初対面の私にも気さくに話しかけて来た。
でも、やっぱり私の気分は落ち着かない。
また、本来ならステラが手にする事になるはずの指輪を私がしてしまっているせいか、後ろめたい気持ちにもなってしまう。
何となく指輪をステラに見られるのが嫌で私は左手をそっと彼女から見えない位置に動かし隠した。
「あ、名乗りもせずにペラペラとすみませんでした。私はステラ・グランディアと言います」
「アイリーン・カドュエンヌです。カドュエンヌ伯爵家の娘です」
(やっぱりステラ。分かってはいたけれど)
ここはあの世界なのは間違いない。
「……カドュエンヌ伯爵家……のアイリーン様……?」
一方、私の名前を聞いたステラはどこか不思議そうな顔をして私の名前を小さく呟いた後、ハッとした顔をする。
「は、伯爵家の方だったんですね!? 大変失礼しました!」
「い、いえ……」
するとステラがじっと私の顔を見つめた。
「?」
「や……モ…………ね」
「えっと? 今、何か言いましたか?」
また、何を言っているのか聞き取れなかったので、私が聞き返すとステラは慌てて笑顔を作ると「何でもないです!」と言って笑った。
「……?」
「あぁ、そうだわ! アイリーン様。どこかで見たお顔だと思ったら! 失礼ですけど、この間ー……」
ステラがそう何かを言いかけた時だった。
「アイリーン!! ようこそ!」
「!?」
突然、侯爵家の屋敷のドアが勢いよく開けられてヴィンセント様が飛び出して来た。
そして、笑顔を浮かべて門まで小走りでやって来る。
「あ、驚かせてごめん! 窓からアイリーンの姿が見えたから待ちきれなくて迎えに来てしまったよ」
「そ、そうでしたか。ありがとうございます……」
何だろう。失礼ながら犬を思い出す……
あと、笑顔が眩しすぎるわ。やっぱり直視出来ない。
「さぁ、我が家へようこそアイリーン。今日は君が訪ねて来てくれると聞いた時から、本当に楽しみにしてたんだ!」
ヴィンセント様はとても嬉しそうな声を出し笑顔を浮かべている。
「ヴィンセント様……」
「アイリーン」
そして、ヴィンセント様が私に手を差し出す。
どうやらエスコートするつもりらしい。
照れくさいけれど、私がそっとヴィンセント様の手を取ろうとしたその時だった。
「あ、あ、あの!」
ステラが花を抱えたまま、ヴィンセント様に声をかけた。
「…………君は?」
ヴィンセント様はそこで、ようやくステラの存在に気付いたらしい。
驚いた顔をしてステラに声をかけた。
「ステラです! あ、そうではなく……お花を。庭師のトムさんに頼まれていたお花を届けに来ました!」
「あぁ、いつものか」
「はい! そうです。いつもありがとうございます!」
ステラがヴィンセント様に向かって微笑んだ。あの男性なら誰でも惚れそうな極上の笑みで。
その光景を見た私の胸はなぜかチクリと痛んだ。
(美男美女でお似合いに見えるわ……)
思わずそんな事を考えてしまった。でも、ヒーローとヒロインなのだから似合って当たり前だった。
「ご苦労さま。それならトムももうすぐ来ると思うからー……」
「え! あ、あの、待って下さい私……って、きゃっ!」
「危ない!」
何故か慌てたステラがヴィンセント様を呼び止めようとした瞬間、何かに足を取られたのかステラが転びそうになる。
ヴィンセント様は咄嗟に手を伸ばしステラを支えた。
「あ、す、すみません……ありがとうございます」
「いや、気を付けて?」
「は、はい……」
ステラはほんのり顔を赤らめてヴィンセント様の事をじっと見つめた。
一方のヴィンセント様は、ステラが無事なのを確認するとステラからの視線を特に気にする様子もなく、すぐに私の方へと顔を向けて微笑みを浮かべた。
「アイリーン、ごめんね。お待たせ」
「いえ……」
(えぇ? ステラがあんな熱い眼差しで見つめているのに……いいの? 気にならないの!?)
“運命の人”と出会っているはずの人の反応とは思えない。
これはやっぱり指輪が私の元にあるから狂ってしまったせい?
そうよ! 一方のステラは?
彼女はどう思っているの?
そう思って慌てて彼女を見ると、ステラは──
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