8 / 30
第八話 ヒロインへの違和感
(えっ!?)
ヴィンセント様へと向けた熱い視線をあっさりかわされたステラは……
笑顔だった。ニコニコと微笑んでいる。
そしてその笑顔を崩さぬままヴィンセント様に近付いていく。
「本当にすみませんでした。えぇと、アディルティス侯爵家のヴィンセント様……でお間違いないですか?」
「……そうだが」
「私ったら未来の侯爵様のお手を煩わせて……」
そう言いながらステラは今度は瞳を潤ませる。
その辺の男なら守ってあげたい……と、コロリと落ちてしまいそうなほどの可愛いらしい仕草。
(あの元婚約者とかなら一発なんじゃないかしら……)
ふと思い出したくもない人の顔が頭に浮かんでしまって思わず苦い顔になる。
すると、ステラが私の方にチラリと視線を向けたのでばっちり目が合ってしまった。
「アイリーン様も驚かせてごめんなさい」
「い、いえ……私は別に……ステラさんに怪我がなくて良かったです」
モヤッとはしたけれど……
「はい! ヴィンセント様のおかげですね。本当にすみませんでした。私ったらそそっかしくて……危うくお花も潰してしまう所でしたし」
「あぁ、うん。まぁ……気を付けて」
「はい!」
ヴィンセント様がそう言うとステラは元気に返事を返した。
「それじゃ、アイリーン。そろそろ僕達は行こうか?」
ヴィンセント様はそう言って私に向かって優しい微笑みを浮かべる。
(だから、どうしてこの方はいちいち甘く微笑むの……もう!)
「は、はい」
「それじゃ、君も足元には気を付けて」
ヴィンセント様がステラにもそう注意を促した時だった。
「あ、お待ち下さい! 私はステラです! どうぞステラと呼んでください!」
ステラは無邪気な笑顔でヴィンセント様にそうお願いした。
(えぇぇー!?)
私は驚きすぎて声が出なかった。
平民のステラが貴族の……しかもアディルティス侯爵家のヴィンセント様になんて事を口にしているの!!
(ここが社交界なら間違いなくボコボコにされてしまうわよ!?)
ヴィンセント様も目を丸くしているのでこれにはかなり驚いている様子。
「あー……とにかくトムはもうすぐ来ると思うから」
「え? は、はい……」
「それじゃ」
「あ、ありがとうございます!」
ヴィンセント様は名前の件は流す事にしたらしい。そして、ステラはヴィンセント様のそんな様子に少しだけ戸惑いを見せたけれど、最後は笑顔でお礼を言っていた。
そんなステラの様子を黙ってずっと見ていた私は、何だかまた落ち着かない気持ちになる。
(それに何かしら、この違和感……)
目の前のステラは小説の通りのヒロインそのものなのに。
何故かは分からないけれど、どこか違和感を覚えてしまった。
「アイリーン」
「は、はい!」
名前を呼ばれたので俯いていた顔を上げるとヴィンセント様と目が合った。
胸がドキッとする。
「行こう」
そうして再びヴィンセント様がすっと手を差し出してくれたので、今度こそ私はその手を取った。
そうして私達は屋敷の中に向かって歩き出した───のだけど。
「───!?」
突然、何かゾクリとする視線を感じた気がして慌てて振り返る。
「あら? どうかしましたか? アイリーン様?」
「い、え。何でもないです……」
ステラは変わらず笑顔で微笑んだままその場に立っていた。
変な視線を送っている様子は無い。
(何だったのかしら? 凄く嫌な感じのする絡みつくような視線だったけれど。気の所為かしら……?)
「アイリーン?」
突然、後ろを振り返ったかと思えば、そのまま黙り込んだ私の行動がおかしかったからかヴィンセント様が心配そうな顔を私に向ける。
「な、何でもないです! えぇと、ヴィンセント様、今日は訪問の許可をありがとうございました!」
私はどうにか話を変えようと笑顔を作ってお礼を言った。
「当然だよ。まさかアイリーンの方から僕を訪ねてくれようとするなんて思っていなかったから嬉しかった」
そう言って柔らかく微笑むヴィンセント様。
その笑顔が本当に心から言っているのだと伝わって来て私の胸がキュンとする。
(え? 何でキュン?)
自分で自分の気持ちに戸惑いを覚える。
ヴィンセント様がステラには何の反応も示さなかった事に安堵したり、二人の視線が絡んだ時にモヤっとしたり。さっきから私の心は落ち着かない。
そのせいなのか……つい私の口から言葉がこぼれた。
「可愛らしい方でしたね」
「え? 誰が?」
「さっきの方です」
笑顔とか笑顔とか!
だってヒロインだもの。本当のあなたの運命の相手……
「んー……いや僕は…………アイリーンが」
けれど、ヴィンセント様は何故か口ごもる。
「私? 私がどうかしましたか?」
「い、いや?」
「そうですか?」
ゴニョニョ言っていたヴィンセント様はほんのり頬を染めながら誤魔化すように笑った。
こうして、何故か小説には無い展開でヒーローとヒロインは出会った。
なのにヒーローのヴィンセント様は全くヒロインのステラに関心を持たなかった。
(指輪の影響力って思ってた以上に大きいのかも)
そんな事を考えていた私は気付かなかった。
ヴィンセント様にエスコートされて屋敷の中に入って行く私を見ながらステラが、
「……せっかく、少し早いけど会いに来てみたのに……なーんだ。早すぎるとダメなのね。残念」
と、口にしていた事を。
そして、もう一人。実はこの小説には忘れてはならない厄介な人物がいた事を───
あなたにおすすめの小説
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
乙女ゲームに転生した悪役令嬢、断罪を避けるために王太子殿下から逃げ続けるも、王太子殿下はヒロインに目もくれず悪役令嬢を追いかける。結局断罪さ
みゅー
恋愛
乙女ゲーム内に転生していると気づいた悪役令嬢のジョゼフィーヌ。このままではどうやっても自分が断罪されてしまう立場だと知る。
それと同時に、それまで追いかけ続けた王太子殿下に対する気持ちが急速に冷めるのを感じ、王太子殿下を避けることにしたが、なぜか逆に王太子殿下から迫られることに。
それは王太子殿下が、自分をスケープゴートにしようとしているからなのだと思ったジョゼフィーヌは、焦って王太子殿下から逃げ出すが……
【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない
櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。
手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。
大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。
成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで?
歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった!
出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。
騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる?
5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。
ハッピーエンドです。
完結しています。
小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます
さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。
望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。
「契約でいい。君を妻として迎える」
そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。
けれど、彼は噂とはまるで違っていた。
政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。
「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」
契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。
陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。
これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。
指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
【完結】愛を信じないモブ令嬢は、すぐ死ぬ王子を護りたいけど溺愛だけはお断り!
miniko
恋愛
平凡な主婦だった私は、夫が不倫旅行で不在中に肺炎で苦しみながら死んだ。
そして、自分がハマっていた乙女ゲームの世界の、どモブ令嬢に転生してしまう。
不倫された心の傷から、リアルの恋愛はもう懲り懲りと思っている私には、どモブの立場が丁度良い。
推しの王子の幸せを見届けよう。
そう思っていたのだが、実はこのゲーム、王子の死亡フラグが至る所に立っているのだ。
どモブでありながらも、幼少期から王子と接点があった私。
推しの幸せを護る為、乱立する死亡フラグをへし折りながら、ヒロインとの恋を応援する!と、無駄に暑苦しく決意したのだが・・・。
ゲームと違って逞しく成長した王子は、思った以上に私に好意を持ってしまったらしく・・・・・・。
※ご都合主義ですが、ご容赦ください。
※感想欄はネタバレの配慮をしてませんので、閲覧の際はご注意下さい。