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第九話 一難去ってまた一難
しおりを挟む「改めてアディルティス侯爵家へようこそ。アイリーン」
「お、お邪魔します」
外から見た侯爵家も相当だったけれど、中に入って見てみればもっと凄い……!
何あの調度品の数々。
万が一にも傷付けたり割ったりしたらお父様からのお説教間違い無し。いえ、我が家は没落するのでは??
とにかく気を付けようと、気を引き締めた。
「どうかした? アイリーン」
「えっと、圧倒されていただけです」
「圧倒? 何に??」
「……」
ヴィンセント様が首を傾げる。
当然だけど、この家で生まれ育ったヴィンセント様にはこの凄さが分からないらしい。
さすがだわ……やっぱり彼はお坊ちゃんヒーロー……
何と説明したものかと思いながら、足を進めていると中央階段の踊り場にたくさんの肖像画が飾られている事に気付く。思わず足を止めて見入ってしまった。
(これは歴代の当主とその家族……? ってあら何だか雰囲気が)
肖像画に描かれている家族の様子は、どれも不思議と温かな空気が伝わって来る。
(特に夫婦の肖像画はまさに互いを想い合っていると言うかなんと言うか…… )
とにかくとても幸せそうに笑っている。
「“アディルティス侯爵家の指輪に導かれた花嫁は決して不幸にはならない”」
「え?」
肖像画に見入っている私に向かってヴィンセント様が突然そう口にした。
驚いて振り返ると、彼は静かに微笑んでいた。
「どういう事ですか?」
「今、アイリーンが眺めているのは我が侯爵家の歴代当主達とその家族の肖像画なんだ」
「やっぱりそうですよね」
ヴィンセント様は頷く。そして続けて言った。
「皆、幸せそうな顔をしているだろう? 夫婦の肖像画も家族の肖像画も」
「はい」
「残されている記録もね、本当にそんな感じなんだ。だから、花嫁に選ばれる人は突然の事に驚き戸惑うけれど不幸になんてならない。だからこそ指輪に導かれて選ばれるのにはちゃんと意味がある……と言われている」
「……え?」
意味がある? 指輪が導いたのが“私”である意味が?
ステラではなく私である意味が──……?
その言葉を聞いて私の胸が高鳴る。
「アイリーン」
ドキンッ!
ヴィンセント様の真剣な声と表情に私の胸が大きく跳ねる。
私を見つめるアメジスト色の瞳がとても真っ直ぐで目が逸らせない。
「アイリーン。まだ君はこの事態に戸惑っていると思う」
ヴィンセント様が手を伸ばして私の指輪のはまっている左手を取ると、そこにそっとキスを落とした。
「ヴィ……ンセント様!」
ますます、私の胸が高鳴った。
間違いなく顔も赤くなっていると思う。
「でも、僕は君が“運命の人”で嬉しい。心からそう思っている」
「!」
それは、その言葉の意味は……
「そ、それは私がたまたま指輪をはめちゃった人間だからヴィンセント様はそう思っていー……」
「違う! 順番が逆だ」
「逆?」
意味が分からず私は首を傾げる。
そんな私を見てヴィンセント様がどこか寂しそうに笑った。
どうしてそんな顔をするの?
ヴィンセント様の私の手を握る力が強くなる。
「あのね? アイリーン。君は多分知らなかったし今も知らないと思うんだけど、僕はねー……」
ヴィンセント様がそこまで言いかけた時だった。
「お待ち下さい! ヴィンセント様には来客中でございます!!」
「たかが、使用人の分際でお黙りなさいな! わたくしを誰だと思っていて!?」
「存じておりますが、困ります!!」
屋敷の入口の方で何やら揉めている声がする。
執事が必死に来客した誰かを止めている様子。だけど、その来客者は無視して強行突破しようとしている──
(アディルティス侯爵家に対してそんな態度が取れる人って限られてるのでは?)
と、言うより。
この騒いでいる声にはどこか聞き覚えがあるし、アディルティス侯爵家に対してギリギリその態度が取れる令嬢なんて私は一人しか知らない。
(そうだった! 私ったら。どうして忘れていたの)
この小説の世界にもいたじゃないの!
ヒーローとヒロインの恋の障害。
──悪役令嬢!
その役目を担っている令嬢と言えば──
私がヴィンセント様に視線を向けると彼は、またか……という顔をしていた。
この突撃? はもしかしたらよくある事なのかもしれない。
(そうよ……小説でもそうだったけれど、現実でも“彼女”がヴィンセント様に熱を上げている事は社交界でも有名な話じゃないの)
何故、すっかり忘れていたのか。
それだけ、この突然の事態に頭がいっぱいだったせいか。
「ヴィンセント様ー? どこにいますのー?」
どうやら、入口を突破したらしい“彼女”の声がどんどんこちらに近付いて来る。
もはや、身を隠した所で意味が無いと思われた。
「……ごめん。アイリーン」
「ヴィンセント様?」
「嵐がやって来る。いや、暴風の方が正しいか」
「嵐? 暴風??」
例えが物騒すぎるわ、ヴィンセント様!
でも……言いたいことは分かる。
なんて会話をした、その時。
「あぁ、そこにいらっしゃったのですね? ヴィンセント様。探しましたわ」
階段の下に現れたその人はうっそりとした笑みを浮かべる。
ヴィンセント様はその様子を見ながら呆れた声で言った。
「探される覚えはないかな。あと、前から言っているけれど勝手に屋敷に押し入ってくるのは止めてくれないか?」
「まぁ! 酷いですわ。わたくし達の仲ではありませんか!」
「……仲って。単なる幼馴染だろう」
「まぁぁ!」
そう興奮しながら私達の目の前に現れた人は──
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リュドミラー侯爵家は唯一、アディルティス侯爵家に対抗出来うる力を持っているとも言われている。
そんなリュドミラー侯爵家の令嬢……それがパトリシア様。
小説ではそんな彼女こそがヒロイン、ステラの前に立ちはだかる悪役令嬢だ。
──なんとこのタイミングで、そんな悪役令嬢様が現れた!!
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