【完結】男運ゼロの転生モブ令嬢、たまたま指輪を拾ったらヒロインを押しのけて花嫁に選ばれてしまいました

Rohdea

文字の大きさ
10 / 30

第十話 悪役令嬢も現れました

しおりを挟む

  ヒロインのステラといい、悪役令嬢のパトリシア様といい、何故、みんな今日のこのタイミングなの。
  
  (私の邪魔をしないで欲しい……)

「それで?  パトリシア。君は今日は何をしに来たんだ?」
「何を、ですって?」

  ヴィンセント様のその問いにパトリシア様がギロッと私を睨む。

「決まっているでしょう!?  本格的に“花嫁探し”が始まったヴィンセント様の元に女狐が2匹も訪ねて来たと聞いてわたくしが大人しく黙っていられるとでも思っていて!?」
「は?」
「……めぎつね」

  ヴィンセント様もポカンとしている。
  まさか、前世もあわせた数十年の人生の中で、自分が女狐扱いされる日が来るなんて思いもしなかった。
  
「それも、1匹でも許せないのにまさかの2匹!」

  そう言ってパトリシア様は再び私を睨む。

「1匹目の女狐は先程、屋敷に入ることなく逃げ帰ったようですけど、何とこちらの女狐は図々しくも屋敷に入り込んでますわ!!  許せません!」

  何故、パトリシア様の許可が必要なのか……
  私は正式に訪問のお伺いを立てた上でここにいて、彼女こそ押し入ってきた身なのに。

  (小説そのままの性格だわ)

  そんな、これまた人の話を聞かなそうなパトリシア様の様子に、頭を抱えたヴィンセント様が訊ねる。

「女狐って。何を言っているんだよ。あと1匹目?  って誰の事だ?」
「女狐は女狐ですわよ!  1匹目は花を持ってた女ですわ!」
「……あぁ、さっきの……えっと? …………花屋の女性か」

  ヴィンセント様はそう呟くも、彼女の事をステラとは言わない。
  むしろ妙な間があった気がする。

  (……ステラさん、あなた名前を覚えられていないかもしれないわよ)

  ますますヒロインとは?
  そんな気持ちにさせられた。

「で、そこの図々しい泥棒猫はどこのどなたですの?」

  何故か女狐が泥棒猫に成り代わっている。
  どちらにしてもこんな呼ばれ方をしたのは初めてだ。

「カ、カドュエンヌ伯爵家のアイリーンと申します」
「……カドュエンヌ伯爵家の?」

  私の名前を聞いたパトリシア様の眉がピクリと上がった。そして途端に笑い出す。

「ふふ、あはっ!  あぁ、!」
「……」
「あなたなのね?  へぇぇ、うふふ、可哀想だって噂だけは聞いてたわぁ。わたくし残念ながらあの日、あの場にはいなくて。さぞかし惨めだったでしょう?」

  パトリシア様が何の事を言っているのかは分かる。
  私が元婚約者アホに婚約破棄された時の事を言っている。

  あの日の惨めで悔しかった気持ちを思い出してしまい思わず拳に力が入る。

「あれからあなたは、懸命にあちこちのパーティーや夜会に顔を出しては新たな婚約者探しをしていると聞きましたわ。でも、成果は全く得られていない、とか。ふふ、残念ですわね」

  パトリシア様は私を小馬鹿にしたように笑った。

「あら?  でも、そう言えばヴィンセント様はあの日ー……」
「いい加減にしろ、パトリシア!」

  うふふ、と笑いながら人の傷口に塩を塗りまくるパトリシア様に向かってヴィンセント様が怒鳴った。

「コホッ……嫌ですわ、ヴィンセント様ったら。そんな怖い顔をなさってどうされたの?」
「どうもこうもないだろう!?  自分がどれだけ酷い事を口にしているのか分かっているのか!?」
「わたくしは事実を述べているだけですわよ」
「これ以上、余計な口を聞くならその口を縫い付けてやろうか?」

  ヴィンセント様が本気で怒っている。

「まぁぁ、怖いですわ、ヴィンセント様。ですが、わたくしもこれ以上はあなたを怒らせたくはありませんからもうこの話は致しませんわ」
「それより、さっさと出て行ってくれないか?」

  ヴィンセント様はパトリシア様を睨みながらそう言った。
  その言葉にパトリシア様は驚いた顔をする。

「あなたの花嫁になるかもしれないわたくしにそんな事を仰るの?」
「僕の花嫁となるのは君では無い!  何故、君は昔から自信満々にそう語るんだ!?」

  (あれ?  この流れ……)

  パトリシア様は良くも悪くも、小説でも現実でも変わらない様子。
  流れは少し違うけれど、ヴィンセント様とパトリシア様が言い合うこのシーンは小説にもあった。
  小説では、自分ではなく平民のステラが花嫁に選ばれたと知って激怒する……というシーンだったけれど。

  ヴィンセント様のその問いにパトリシア様はこう返す。

「アディルティス侯爵家の花嫁ですわよ?  身分も家柄も容姿も教養も全て完璧であるわたくしが選ばれるに決まっていますわ!」

  現実のパトリシア様も同じ事を口にしていた。だけど……

「どの口を提げて言うんだ。マナーは全然なって無いだろう」

  本当にヴィンセント様の言う通りだと思うわ。本当に完璧な淑女はこんなふうに突然屋敷に押し入ってくる事もしないし、人の古傷を抉って傷口に塩を塗る真似もしない。

「ふんっ!  失礼しちゃいますわ。ヴィンセント様、わたくしが花嫁に選ばれた時、泣いて謝って懇願して来ても許して差し上げませんわよ?」
「君が花嫁に選ばれる事は絶対にないから、僕が泣いて謝ることは無い!」
「まぁ!」

  パトリシア様の顔が怒りで真っ赤になる。
  相当、プライドが傷付けられたらしい。

「わたくし、絶対に許しませんからね!!  あとで後悔するといいですわ!!」

  覚えていなさい!
  悪役がよく口にするセリフを残してパトリシア様は出て行った。
  まさに、嵐。いえ、暴風のような人だった……

「……」
「アイリーン……」

  私が呆然としているとヴィンセント様に声をかけられる。
  その声はどこか疲れているようにも感じた。

「ヴィンセント様?」

  そして、ヴィンセント様は私に近付くとギュッと私を抱き締めた。

  
しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました

さくら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。 裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。 「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。 恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……? 温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。 ――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!? 胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!

悪役だから仕方がないなんて言わせない!

音無砂月
恋愛
マリア・フォン・オレスト オレスト国の第一王女として生まれた。 王女として政略結婚の為嫁いだのは隣国、シスタミナ帝国 政略結婚でも多少の期待をして嫁いだが夫には既に思い合う人が居た。 見下され、邪険にされ続けるマリアの運命は・・・・・。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

『婚約破棄された聖女リリアナの庭には、ちょっと変わった来訪者しか来ません。』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
王都から少し離れた小高い丘の上。 そこには、聖女リリアナの庭と呼ばれる不思議な場所がある。 ──けれど、誰もがたどり着けるわけではない。 恋するルミナ五歳、夢みるルーナ三歳。 ふたりはリリアナの庭で、今日もやさしい魔法を育てています。 この庭に来られるのは、心がちょっぴりさびしい人だけ。 まほうに傷ついた王子さま、眠ることでしか気持ちを伝えられない子、 そして──ほんとうは泣きたかった小さな精霊たち。 お姉ちゃんのルミナは、花を咲かせる明るい音楽のまほうつかい。 ちょっとだけ背伸びして、だいすきな人に恋をしています。 妹のルーナは、ねむねむ魔法で、夢の中を旅するやさしい子。 ときどき、だれかの心のなかで、静かに花を咲かせます。 ふたりのまほうは、まだ小さくて、でもあたたかい。 「だいすきって気持ちは、  きっと一番すてきなまほうなの──!」 風がふくたびに、花がひらき、恋がそっと実る。 これは、リリアナの庭で育つ、 小さなまほうつかいたちの恋と夢の物語です。

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

婚約解消をしたら、隣国で素敵な出会いがありました。

しあ
恋愛
「私との婚約を解消して欲しい」 婚約者のエーリッヒ様からそう言われたので、あっさり承諾をした。 あまりにもあっさり承諾したので、困惑するエーリッヒ様を置いて、私は家族と隣国へ旅行へ出かけた。 幼い頃から第1王子の婚約者という事で暇なく過ごしていたので、家族旅行なんて楽しみだ。 それに、いった旅行先で以前会った男性とも再会できた。 その方が観光案内をして下さると言うので、お願いしようと思います。

王子の転落 ~僕が婚約破棄した公爵令嬢は優秀で人望もあった~

今川幸乃
恋愛
ベルガルド王国の王子カールにはアシュリーという婚約者がいた。 しかしカールは自分より有能で周囲の評判もよく、常に自分の先回りをして世話をしてくるアシュリーのことを嫉妬していた。 そんな時、カールはカミラという伯爵令嬢と出会う。 彼女と過ごす時間はアシュリーと一緒の時間と違って楽しく、気楽だった。 こんな日々が続けばいいのに、と思ったカールはアシュリーとの婚約破棄を宣言する。 しかしアシュリーはカールが思っていた以上に優秀で、家臣や貴族たちの人望も高かった。 そのため、婚約破棄後にカールは思った以上の非難にさらされることになる。 ※王子視点多めの予定

処理中です...