溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ

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『フィオナはいいなあ。わたしも、フィオナみたいにけんこうなからだがほしかったなあ』

 いつだったか。親の目を盗むようにフローラの部屋に忍び込んだ夜のこと。何の気なしに言われたフローラの一言に、まだ小さなフィオナは、顔を強張らせた。

 フローラに他意はない。ただ純粋な願いを口にしただけなのだろう。病弱でいつも寝台にいるフローラ。可哀想なフローラ。だからみんなに優しくされて当然なフローラ。

 ──わたしはけんこうだからあいしてもらえないの? なら、わたしは。

「……わたしは、フローラおねえさまのほうがうらやましい」

 思わず呟いた言葉に、フローラは目を丸くしたかと思うと、

「かわってあげましょうか?」

 と、嘲笑した。フィオナがはっとし、慌てて謝罪するも、フローラはもう出ていってと告げ、布団を被ってしまった。

 それからフィオナは、フローラに会うことをやめてしまった。だからこれは、フローラとまともに会話した、最後の記憶となった。



(……いま思い返すと、わたしも随分と残酷なことを言っていたものね)

 一日の授業が終わり、教室内がざわつきはじめる。フローラの話をしたせいだろうか。何となく遠い過去を思い出していたフィオナは、思わず苦笑してしまった。

「結局あれから、ミック様は来なかったね」

 ジェマの問いに、ふっと現実に戻されたフィオナは、そうね、と答えた。

「よっぽど女性に囲まれたのが怖かったのか。それともニール様の迫力に圧倒されたのか……」

 ジェマは「両方じゃない?」と笑ってから、そっと声をひそめた。

「……それより、フィオナ。今日はどうする? うちならいつでも大歓迎だけど」

 ジェマの気遣いに、フィオナが頬をゆるめる。ミックとは婚約を解消すれば他人になれるけれど、親はそう簡単にはいかない。

 フィオナの決意を知らないジェマにとっての、最大限の気遣い。いっそ話してしまおうかとも思ったけど、ジェマは優しいから、どうにかしようと奔走するかもしれない。もしそれで両親やミックの怒りや恨みを買うことにでもなれば、一生後悔することになる。

(……だから、言わない)

 手紙を用意して、修道院に入ってから届くようにしよう。そう決めて、フィオナは微笑んだ。

「大丈夫よ。ありがとう、ジェマ。それにわたし、図書室で勉強してから帰ろうと思っていてね」

 その言葉に、ジェマはほっと胸を撫で下ろしていた。きっと、少なからず両親とうまく話しができたのだろう。そう思っているように見えた。

「そっか、そっか。うん。フィオナはそうじゃないとね。知識欲、すごいもんね」

「そ、そう?」

「そうだよ。それじゃあたし、邪魔になるといけないから先に帰るね。また明日」

 ジェマは嬉しそうにカバンを持つと、ひらっと手をふった。「うん。また明日」とフィオナが返事すると、ジェマは教室を出ていった。

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