溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ

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 図書室に向かう途中、ミックが待ち構えているのではないかと少し気をはっていたものの、ミックの姿はどこにもなかった。

(諦めたのかな? それとも、アイン侯爵の屋敷で話そうとしているかも……)

 姉の真似をやめれば、すぐに婚約解消してくれると思っていたのに、とんだ誤算だった。どちらにせよ、アイン侯爵家になるべく居たくないフィオナは、図書室が閉まるギリギリまでここにいようと決め、窓際の席に着いた。

 ──それからしばらくして。

 教科書にチェックをいれていると、頭上から「何だ、それは」という聞き覚えのある声がふってきた。横斜め上に顔をあげると、そこには憮然とした表情のニールが立っていた。

「……ニール様? あの……何だ、とは?」

 問いかけると、ニールが身を屈め「この印は何だ、と聞いている」と、フィオナがチェックを入れた箇所をトントンと、指でつついた。

「あ、ああ。これですか。恥ずかしながら、よく理解できないところに印をしています。明日、まとめて先生に質問させてもらおうかと思いまして……」

 情けないところを見せてしまった。それも、一番知られたくない相手に。フィオナが顔を伏せていると、ニールは納得がいったように「なるほどな」とだけ呟いた。その声音には、侮蔑や呆れなどは混ざっていないように思えた。

「これぐらいなら、わたしでも教えてやれる──聞くか?」

 想像すらしていなかった提案に、フィオナは勢いよく顔をあげた。身を屈めたままのニールと、近くで視線が交差する。あまりに整い過ぎた顔面に、フィオナは自身の顔に熱が集まってくるのを自覚したが、それを根性でぐっと押さえ込んだ。

 何せ、目標を達成するための時間は、そう多くは残されていないのだ。


「はい。よろしくお願いします」


 決意を宿したフィオナの双眸に、ニールはふっと口角をあげた。


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