純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第七章:恋を知る夜、愛に包まれる朝

第105話・守る距離から、求める距離へ

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まぶた越しに差し込む、やわらかな朝の光。
ゆっくりと目を開けると、すぐそばでフィンが笑っていた。

彼の腕はしっかりと自分を抱き込んでいて、温もりが隙間なく伝わってくる。

「……おはよ、ルナ」

「ん……おはよ、フィン」

何度も繰り返してきた朝のやりとり。
けれど今日は、抱きしめられる力も、腕の回し方も、どこか違う。
守られている安心感に加えて、求められているような熱がそこにあって、胸の奥が落ち着かない。

「……なんか、今日は近いね」

「そりゃあ、もう恋人だし」

あっさりと返された言葉に、心臓が跳ねた。
守られるための距離じゃなくて、求められている距離――そう気づくと、なんだか顔が熱くなり、思わず視線を逸らす。

その横顔を見ながら、フィンはゆっくりと髪を撫でた。
指先のやさしい感触に、胸の鼓動はますます速まっていく。

「……もうちょっと、このままでいよ?」

「……うん」

自分でも少し照れた声だとわかって、胸が温かくなる。

やがて、フィンが少し体を起こし、まっすぐに見つめてきた。

「……キスしていい?」

「……うん」

触れるだけの軽い口づけだった。
けれど、離れることなく何度も重ねられ、少しずつ深まっていく。

唇が近づくたびに息が詰まり、胸の奥が熱くなる。
気づけば、ルナフィエラの呼吸は小さく乱れ、息を整えるのがやっとになっていた。

ようやく唇が離れたとき、彼女は頬を赤くしたままフィンを見上げた。

「……朝から、そんなにしなくても」

抗議のつもりで向けた視線も、フィンには嬉しそうに受け止められてしまう。

「だって、好きなんだもん」

照れくささと、どうしようもない温かさが、胸の中で混ざり合っていた。


ようやく、フィンの腕から抜け出し、ルナフィエラは身支度を整えた。
まだ頬に残る熱を隠すように髪を整え、フィンと並んで食堂へ向かう。

扉を開けると、ヴィクトル、ユリウス、シグがすでに席についていた。
食卓には湯気の立つスープと香ばしい焼きたてのパン、そして紅茶のやさしい香りが漂っている。

「みんな、おはよう」

そう声をかけた瞬間、ヴィクトルが静かに立ち上がり、歩み寄ってきた。
その長身にやわらかく包み込まれ、低く響く声が耳もとで震える。

「……おはようございます、ルナ様」

額にそっと唇が触れ、長く離れない。
頬に指先が触れ、色を確かめるように撫でられる。

「ほんのり赤みはございますが……体調は良さそうで、安心いたしました」

至近距離の微笑みに、胸がきゅうと鳴る。
やがて腕がほどかれ、ユリウスとシグが自然に彼女を席へ促した。

腰を下ろすと、ユリウスが頬に軽く口づけを落とし、温かな紅茶を差し出す。

「おはよう、ルナ。……今日の紅茶は香りがとても良いよ」

やさしい声と香りに包まれ、思わず笑みがこぼれる。

隣のシグは無言のまま、ルナフィエラの頭に大きな手を置いた。
ぽん、ぽん、と規則正しく撫でる感触が、静かに胸の奥を温めていく。

こうして囲む朝食は、いつもよりもずっと甘やかな空気に包まれていた。


朝食が終わり、一息ついたルナフィエラはふと、テーブルを囲む4人の顔を見渡した。
そして、ぽつりと呟く。

「……なんか、みんな、いつもと違う気がする」

悪い意味でないことはわかっている。
けれど、上手く言葉にできず、首をかしげたまま視線を落とした。

そんな彼女に、ユリウスが静かに笑みを向けた。

「そう感じるのは当然だ。……俺たちは少し前に“恋人”になったからね」

「……そういうものなの?」

「ああ。守るためだけじゃなく、ルナに触れたいと思う気持ちが加わる。……それが違いだよ」

やさしく告げられた言葉が、胸の奥にじんわりと広がっていく。
ルナフィエラは紅茶のカップを両手で包み込みながら、こそばゆくも嬉しいような笑みを浮かべた。
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