純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第七章:恋を知る夜、愛に包まれる朝

第112話・小さな発見と大きな支え

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森の小道に、一行の足音が軽やかに響いていた。

ルナフィエラの胸は高鳴り続けている。
古城から外へ出るのは久しぶりで、しかも遠出の旅。
緊張と期待が入り混じり、自然と歩調も少し早くなっていた。

そんな彼女の手を、フィンが明るく引いている。

「ねぇ見て、ルナ! ほら、あそこ、赤い花が咲いてる!」

「ほんとだ……! 本で見たのと同じ……」

景色の新鮮さが次々と目に飛び込み、草花の揺れや小鳥の声さえ胸を躍らせる。
自然と笑みがこぼれ、瞳は好奇心に輝いた。


そんな二人の少し後ろでは、ヴィクトルが黙々と荷を背負い、護衛の視線を絶やさずに歩んでいる。

「……ルナ様、陽射しが強くなってきました。帽子を少し、深めに」

帽子を整えてくれる仕草は自然でありながら、どこか甘やかだ。
ルナフィエラは小さく頷き、「ありがとう」と囁いた。

さらに後方、ユリウスは静かに歩きながら周囲を観察していた。
道の傾斜や獣道の位置、風向きまで見逃さない。

「少し先に開けた場所がある。休憩はそこでとろう」

冷静な声が響くと、前方を警戒していたシグが無言で頷いた。


——だが。
しばらく歩くうちに、ルナフィエラの足取りは徐々に重くなっていった。
高揚感が落ち着くにつれ、体力のなさが現れてしまう。

「……ルナ」

シグが振り返り、短く声をかける。
その表情は変わらないが、その鋭い眼差しは彼女の疲れを見抜いていた。

「だ、大丈夫……」

そう答えた瞬間にはもう、シグの腕が彼女の腰を支えていた。
片腕でひょいと抱き上げるようにして、歩調を落とさず進んでいく。

「……無理すんな。街に着く前に潰れたら困る」

「う……で、でも……」

「任せろ」

揺るぎない声音に、不思議と胸の奥が安らぐ。
腕に支えられる温もりに、緊張が解けていった。

振り返ったフィンが明るく笑う。

「やっぱりシグだね! でも街に着いたら、また僕が一番にルナの手を引くから!」

その明るさに、ルナフィエラもつい小さく笑ってしまう。

——こうして一行は、陽の光を浴びながら森の中を進んでいった。


木漏れ日の差す森の中、小川のせせらぎが耳に心地よく響いていた。
ユリウスの指示で、一行は大きな木の根元に腰を下ろす。

「ここなら風通しもいいし、休める」

ルナフィエラは草の上に座り、背筋をのばして深く息をつく。
全身にじんわりと疲れが広がっていた。

ヴィクトルは水袋を取り出し、彼女の前に差し出した。

「どうぞ、ルナ様。冷たい水です」

「ありがとう、ヴィクトル」

口に含んだ瞬間、喉を潤すひんやりとした感覚に、自然と笑みがこぼれる。

フィンはというと、近くの茂みを探って何かを摘んできた。

「見て見て! 食べられる木の実がなってたんだ!」

小さな掌に乗せられた赤い実を、ルナフィエラの口元へと差し出す。
彼女は戸惑いながらも、ぱくりと口に含んだ。

「……甘い」

「でしょ! 僕の目利きはばっちりだから!」

得意げに胸を張るフィンに、ルナフィエラは思わずくすりと笑ってしまう。

その様子を眺めていたシグが、木の根元から立ち上がった。

「……次は俺が行ってくる。飲み水は多めにあった方がいい」

そう言って小川へ向かう後ろ姿は、相変わらずの寡黙さだが、確かに仲間を気遣っている。

一方、ユリウスは広げた地図に視線を落としながらも、ちらりとルナフィエラの様子を確認する。

「体力は持ちそうか?」

「……うん、大丈夫。みんなが一緒だから」

彼女の答えに、ユリウスはほんのわずかに口元を緩めた。

「ならいい。あと二刻ほど歩けば街が見えてくる」

ヴィクトルは帽子のつばを整えてやり、柔らかく囁く。

「焦らず、ゆっくりでよろしいのです。ルナ様の歩調に合わせますから」

寄り添う温かな声音に、ルナフィエラの胸は満ちていく。

——こうして一行はしばしの休息をとり、再び街道へと足を向けた。
その先に広がる新しい景色を思えば、疲れさえも甘やかなものに変わっていくのだった。
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