【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

文字の大きさ
118 / 184
第七章:恋を知る夜、愛に包まれる朝

第116話・森に潜む影、初めての試練

しおりを挟む
古城を発ってから、2週間ほどが経っていた。

最寄りの街から乗合馬車を乗り継ぎ、いくつもの村や町を経由して――宿屋の温かな灯りに救われながら、少しずつクルミアの谷へと近づいていった。

ルナフィエラにとっては初めての長旅。
時に疲れをにじませながらも、街の市場でフィンと果実を味見したり、村の子どもたちに手を振られて微笑んだり。
夜には決まって誰かの隣で眠りにつき、目を覚ませば必ず守られている安心があった。

――けれど、旅路のすべてが穏やかというわけではない。

やがて一行は、どうしても馬車の運行が途切れる区間へと差し掛かる。
街道は森へと続き、木々が陽光を遮って濃い影を落としていた。

「ここからは、森を抜けるまで徒歩だ」

道を確かめていたユリウスが振り返る。
落ち着いた声音の奥に、張り詰めた気配があった。

ルナフィエラは思わず足を止め、森の暗がりを見つめる。

(……なんだか、怖い……)

馬車や宿屋のある街道とは違う。
人の気配が薄れ、獣の鳴き声が遠くに響く。
胸の奥に、不安が小さく芽生えた。

その手を、フィンがすぐに取った。

「大丈夫だよ、ルナ。僕たちがずっと傍にいるから!」

無邪気な笑顔に、少しだけ緊張がほぐれる。
ヴィクトルも静かに告げる。

「どんな危険があっても、必ずお守りいたします」

シグは短く一言。

「気にするな。ここを通るしかねぇんだ」

ユリウスは最後に、ルナフィエラの紅い瞳を真っ直ぐに見て微笑んだ。

「君は僕たちと一緒にいればいい。……それだけで十分だ」

4人の言葉が重なり、胸の奥に温かさが広がる。

(……大丈夫。みんなと一緒なら、きっと)

ルナフィエラは小さく頷き、歩みを進める。
――やがて、この森で初めての「試練」に出会うとも知らずに。


森へ足を踏み入れると、途端に空気が変わった。
昼間だというのに木々が頭上を覆い、差し込む光は細い筋となって地面に落ちるだけ。

人がまったく通らないわけではないのだろう、踏み固められた街道は確かに続いていた。
けれどそこに漂うのは、どこか冷えた空気と張りつめた静けさだった。

「……ひんやりしてる」

思わず小さく呟いたルナフィエラの手を、フィンが握り直す。

「怖くないよ。僕がいるから!」

明るい声に少し笑みが漏れるものの、不安は消えきらない。

(大丈夫……きっと大丈夫……)

どこからともなく鳥の羽ばたきが響くたび、胸がきゅっと縮こまる。

前方を歩くシグは、いつも以上に周囲へ鋭い視線を巡らせていた。

「……人気がねぇな。油断するなよ」

ヴィクトルも頷き、歩調を落としながらルナフィエラの様子を振り返る。

「ルナ様、疲れを感じたらすぐにお知らせください」

ユリウスは最後尾から一行を見守り、静かに言葉を添えた。

「この森は獣の気配が濃い。だが、僕たちがいる。……心配しなくていい」

紅い瞳が彼らを見上げ、不安そうに揺れる。
それでも、4人に囲まれる温もりが確かにあって――

(……怖いけど、ひとりじゃない。だから……大丈夫)

ルナフィエラはフィンの手をぎゅっと握り返し、深く息を整えて歩みを進めた。


しんとした森の空気を裂くように、低い唸り声が響いた。
次の瞬間、茂みを蹴り破って黒い影が飛び出す。

鋭い牙を剥いた狼たちが、数を頼みに一斉に襲いかかってきた。

「ルナ、下がれ!」

シグが大斧を抜き放ち、地面を叩き割るほどの衝撃で群れを薙ぎ払う。
ヴィクトルも間髪入れず前へ出て、無駄のない剣筋で首筋を切り裂いていく。

「――光よ」

ユリウスの詠唱とともに、矢のような光弾が次々と飛び、狙い違わず敵の急所を貫いた。

ルナフィエラは思わず息を呑み、胸を押さえる。

(……怖い……どうしたら……何か…)

「ルナ、自身を守る結界を」

ユリウスの声は落ち着いていた。

「僕たちがいる。恐れなくていい。――君ならできる」

「……うん」

震える手を胸の前で組み、紅い瞳に力を宿す。
ぱん、と空気を弾く音と共に、透明な結界がルナを中心に展開された。

だが初めての実戦、恐怖と緊張で魔力は揺らぎ、膜が波打つ。

「……っ、安定しない……!」

その手をフィンがぎゅっと握った。

「大丈夫、僕が一緒だよ!」

彼の魔力が流れ込み、ルナフィエラの魔力と重なっていく。
揺らぎは静まり、結界は強い光を放って安定した。

「……フィン……」

「ルナはすごいんだ! だから信じて!」

前方では、シグが大斧を振り下ろすたびに轟音が森を震わせた。
刃が唸りを上げ、迫りくる狼をまとめて吹き飛ばす。
骨が砕ける音と獣の断末魔が重なり、血飛沫が冷たい空気に弧を描いた。

その隣で、ヴィクトルの剣は正確無比に閃く。
喉を、胸を、寸分の狂いもなく切り裂き、赤が花弁のように散った。
無駄のない流麗な剣筋に、群れは次々と崩れ落ちていく。

さらに背後から放たれるユリウスの光矢が、残る隙をすべて射抜いていく。
矢は閃光となって闇を裂き、飛びかかる魔獣の眉間を正確に貫いた。

こうして3人の力が重なり、戦況は完全に掌握されていった――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

召喚先は、誰も居ない森でした

みん
恋愛
事故に巻き込まれて行方不明になった母を探す茉白。そんな茉白を側で支えてくれていた留学生のフィンもまた、居なくなってしまい、寂しいながらも毎日を過ごしていた。そんなある日、バイト帰りに名前を呼ばれたかと思った次の瞬間、眩しい程の光に包まれて── 次に目を開けた時、茉白は森の中に居た。そして、そこには誰も居らず── その先で、茉白が見たモノは── 最初はシリアス展開が続きます。 ❋他視点のお話もあります ❋独自設定有り ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付いた時に訂正していきます。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...