純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第二章:4騎士との出会い

第11話・シグの誓い——借りを返すために

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魔族の男はシグ・ヴァルガスと名乗った。

そして、シグとの出会いから数日が経った。

傷が癒え始めた彼は、城の中をぶらつきながら、時折ルナフィエラをじっと観察するようになった。
無骨でぶっきらぼうな態度は変わらないが、それでも彼は確かにルナフィエラのそばにいることを選んでいた。

そんなある夜——

「なあ、お前……俺を覚えていないのか?」

唐突にシグが問いかけた。

ルナフィエラは不思議そうに彼を見つめる。

「……あなたと会ったのは、この前が初めてじゃないの?」

「違うな」

シグは腕を組みながら、窓の外の夜空を見上げた。

「50年前、お前は俺を助けた」

「50年前……?」

ルナフィエラは記憶を探る。

長い時を生きる彼女にとって、50年は決して短くはないが、決して長くもなかった。
それでも、何かが心の奥で引っかかる。

「……もしかして、あの時?」

薄れかけた記憶が、ゆっくりと甦る。

50年前——

ある満月の夜、彼女はひとり森をさまよっていた。
満ちた月の光に晒されると、彼女の身体は普段以上に重くなる。
けれど、その時はそれ以上に強烈な“気配”に導かれた。

そこにいたのは、傷だらけの魔族の青年だった。

「……大丈夫?」

呼びかけても、彼は答えなかった。
かすかに息をしているが、意識はない。
放っておけば、確実に死ぬ——。

ルナフィエラは迷わなかった。

彼を助けなければならない。

その一心で、彼の傷を応急処置し、ひたすら看病した。
自分の血を与えることはできなかったが、それでも彼が少しでも回復するようにと必死だった。

——だが、青年は目を覚ますと、すぐに立ち上がり、礼も言わずに去ってしまった。

「……あれが、あなた?」

「そうだ」

シグはルナフィエラの紅い瞳をまっすぐに見つめた。

「俺は、あの時……確かに死んでいたはずだった」

「だが、お前が俺を助けた」

「だから、今度は俺が——お前を守る」

シグの言葉に、ルナフィエラは戸惑う。

「でも、私は……」

「言っておくが、借りを作るのは嫌いなんだ」

シグはふっと口角を上げ、どこか挑発するような笑みを浮かべた。

「50年前の借りと、今回の借り……まとめて返させてもらう」

「……だから、俺はここにいる」

ルナフィエラは、シグの言葉の真意を測るように彼を見つめた。

「私を守るために……?」

「ああ」

シグは腕を組んで、少し気まずそうに視線を逸らした。

「ま、元々行く当てもなかったしな。お前の世話になったついでに、少しここで厄介になるのも悪くねぇ」

「それに——」

シグの瞳が鋭く光る。

「お前、どう見ても“放っておける”状態じゃねぇ」

「……!」

「満月の影響で体調を崩しやすいのも、身体が弱いのも、今までずっとひとりで生きてきたせいだろ?」

シグは無造作にルナフィエラの髪をくしゃっと撫でた。

「お前、守られるのに慣れてねぇんだよ」

「……そんなこと……」

「いや、ある」

シグは言い切る。

「だから、俺がいる」

「俺は、お前を守るためにここにいる」

「だから、覚悟しろよ」

シグはまるで当然のことのようにそう言った。

その言葉に、ルナフィエラは何か温かいものが胸に広がるのを感じた。

孤独だった日々が、少しずつ変わっていく——。

そんな気がして、ルナフィエラはそっと目を伏せた。

「……なら、よろしくね」

「チッ、面倒な姫様だぜ」

そう言いながらも、シグはどこか満足げに微笑んでいた。

——こうして、彼はルナフィエラのそばにいることを選んだ。

50年前の借りを返すために。

そして、今度は、彼女を守るために——。
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