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第二章:4騎士との出会い
第10話・シグ・ヴァルガスとの出会い
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夜の静寂を破るように、ルナフィエラは城の扉を開けた。
満月の夜の影響で体調を崩した翌日。
まだ本調子ではない。
それでも、微かに漂う懐かしい気配に引き寄せられるように、外へ足を踏み出していた。
(……この感じ、どこかで……)
庭の片隅に目を向けると、そこに倒れる長身の男の姿があった。
赤みがかった髪に黒い瞳。
鍛え上げられた肉体には無数の傷跡があり、角を持つことから、彼が魔族であるとすぐにわかる。
そして、彼の右腕には深い傷。
血が流れ続け、地面を赤く染めていた。
「……!」
その光景を目にした瞬間、ルナフィエラの喉がひりついた。
長年、吸血もせず生きてきた彼女にとって、大量の血の匂いはあまりに刺激的だった。
だが、それ以上に——
(……助けなきゃ)
無意識のうちに、ルナフィエラは男へと駆け寄る。
「……大丈夫?」
彼が薄く目を開ける。
「……誰だ」
かすれた声。
「あなたこそ……」
慎重に問いかけながらも、ルナフィエラの手は彼の腕へと伸びる。
(このままじゃ危ない。城へ運ばないと——)
そう思った矢先——
「ルナフィエラ様!!」
鋭い声が夜の静寂を切り裂いた。
振り向けば、ヴィクトルとユリウスが駆け寄ってくる。
「また無茶を……!」
ヴィクトルがルナフィエラの腕を取り、その体を支える。
「貴女の体調はまだ万全ではないのです。なぜこんなことを……」
「だって……放っておけなかったの」
ルナフィエラがそう答えると、ヴィクトルは深く息を吐いた。
「……まったく」
一方、ユリウスは男へと視線を向けた。
「魔族か……かなりの重傷だね」
彼はルナフィエラの前へ出ると、手を翳し、静かに魔力を練る。
淡い光が男の傷を包み、血の流れが止まる。
「……っ」
男はわずかに眉を寄せたが、抵抗する様子はない。
「応急処置だ。完全には治せないけどね」
ユリウスがそう告げると、男は鼻を鳴らした。
「……妙な奴らだな」
「そっくりそのまま君に返すよ。こんな状態でここまで来るなんてね」
ユリウスの視線が、ちらりとルナフィエラへ向けられる。
「ルナフィエラ、君も気づいてたんじゃない? これ以上、この血の匂いを嗅ぎ続けるのは危険だって」
「……っ」
図星だった。
確かに、吸血衝動を抑えるのが少しずつ辛くなってきていた。
ユリウスはそんなルナフィエラの様子を察していたのだろう。
彼が応急処置を施したのは、単に男の命を救うためだけではない。
——ルナフィエラが衝動に呑まれないようにするためでもあった。
「……ありがとう」
ルナフィエラは小さく呟いた。
ユリウスは肩をすくめる。
「僕はあくまで観察者だからね。君が暴走するところなんて、あまり見たくないし」
彼は軽く冗談めかして言うが、その瞳は真剣だった。
ヴィクトルが静かに言う。
「ルナフィエラ様、お戻りください」
「……でも、彼を放っておくわけには——」
「でしたら、一緒に連れて行けばよろしいでしょう」
ヴィクトルは当然のように言った。
「いずれにせよ、ルナフィエラ様の体調が最優先です」
ルナフィエラは男を見つめる。
「……あなたも、一緒に来る?」
「……は?」
「傷が癒えるまで、休んでいけばいいわ」
男は沈黙した。
そして、薄く笑う。
「……変な女だな」
そう呟きながらも、彼は抵抗しなかった。
こうして、ルナフィエラと魔族の男・シグの出会いは果たされたのだった——。
満月の夜の影響で体調を崩した翌日。
まだ本調子ではない。
それでも、微かに漂う懐かしい気配に引き寄せられるように、外へ足を踏み出していた。
(……この感じ、どこかで……)
庭の片隅に目を向けると、そこに倒れる長身の男の姿があった。
赤みがかった髪に黒い瞳。
鍛え上げられた肉体には無数の傷跡があり、角を持つことから、彼が魔族であるとすぐにわかる。
そして、彼の右腕には深い傷。
血が流れ続け、地面を赤く染めていた。
「……!」
その光景を目にした瞬間、ルナフィエラの喉がひりついた。
長年、吸血もせず生きてきた彼女にとって、大量の血の匂いはあまりに刺激的だった。
だが、それ以上に——
(……助けなきゃ)
無意識のうちに、ルナフィエラは男へと駆け寄る。
「……大丈夫?」
彼が薄く目を開ける。
「……誰だ」
かすれた声。
「あなたこそ……」
慎重に問いかけながらも、ルナフィエラの手は彼の腕へと伸びる。
(このままじゃ危ない。城へ運ばないと——)
そう思った矢先——
「ルナフィエラ様!!」
鋭い声が夜の静寂を切り裂いた。
振り向けば、ヴィクトルとユリウスが駆け寄ってくる。
「また無茶を……!」
ヴィクトルがルナフィエラの腕を取り、その体を支える。
「貴女の体調はまだ万全ではないのです。なぜこんなことを……」
「だって……放っておけなかったの」
ルナフィエラがそう答えると、ヴィクトルは深く息を吐いた。
「……まったく」
一方、ユリウスは男へと視線を向けた。
「魔族か……かなりの重傷だね」
彼はルナフィエラの前へ出ると、手を翳し、静かに魔力を練る。
淡い光が男の傷を包み、血の流れが止まる。
「……っ」
男はわずかに眉を寄せたが、抵抗する様子はない。
「応急処置だ。完全には治せないけどね」
ユリウスがそう告げると、男は鼻を鳴らした。
「……妙な奴らだな」
「そっくりそのまま君に返すよ。こんな状態でここまで来るなんてね」
ユリウスの視線が、ちらりとルナフィエラへ向けられる。
「ルナフィエラ、君も気づいてたんじゃない? これ以上、この血の匂いを嗅ぎ続けるのは危険だって」
「……っ」
図星だった。
確かに、吸血衝動を抑えるのが少しずつ辛くなってきていた。
ユリウスはそんなルナフィエラの様子を察していたのだろう。
彼が応急処置を施したのは、単に男の命を救うためだけではない。
——ルナフィエラが衝動に呑まれないようにするためでもあった。
「……ありがとう」
ルナフィエラは小さく呟いた。
ユリウスは肩をすくめる。
「僕はあくまで観察者だからね。君が暴走するところなんて、あまり見たくないし」
彼は軽く冗談めかして言うが、その瞳は真剣だった。
ヴィクトルが静かに言う。
「ルナフィエラ様、お戻りください」
「……でも、彼を放っておくわけには——」
「でしたら、一緒に連れて行けばよろしいでしょう」
ヴィクトルは当然のように言った。
「いずれにせよ、ルナフィエラ様の体調が最優先です」
ルナフィエラは男を見つめる。
「……あなたも、一緒に来る?」
「……は?」
「傷が癒えるまで、休んでいけばいいわ」
男は沈黙した。
そして、薄く笑う。
「……変な女だな」
そう呟きながらも、彼は抵抗しなかった。
こうして、ルナフィエラと魔族の男・シグの出会いは果たされたのだった——。
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