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第二章:4騎士との出会い
第19話・自己紹介
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ルナフィエラは軽く身支度を整え、食卓のある大広間へと向かった。
扉を開けると、すでに全員が揃っていた。
ユリウスはワインを傾けながら、シグは相変わらず気だるげに席に肘をついている。
ヴィクトルは端正な姿勢のまま席に座り、フィンは落ち着いた表情で彼女を迎えた。
ルナフィエラが席につくと、静かに夕食が始まる。
——しかし、食事が終わるころになっても、誰も口を開こうとしなかった。
まるで、誰が最初に話し出すかを伺っているかのように。
そんな沈黙を破ったのは、やはりフィンだった。
「ルナ」
柔らかく、それでいてはっきりとした声で彼女の名前を呼ぶ。
「治癒魔法の効果はどうかな?」
その問いに、ルナフィエラはナイフとフォークを置き、ゆっくりと答えた。
「……効いているわ」
フィンの目をしっかりと見つめる。
「こんなに身体が軽くなるなんて思わなかった。
すっきりしていて、今までの疲れが嘘みたい」
その言葉に、フィンは安心したように微笑んだ。
「よかった」
彼の柔らかな笑みに、ルナフィエラは少し肩の力を抜く。
「本当に、ありがとう。フィンの治癒魔法のおかげよ」
「僕は君の魔力に適応させただけさ。
君自身が 受け入れたからこそ、魔法が効果を発揮したんだよ」
フィンの言葉に、ルナフィエラは少し考え込む。
——受け入れたからこそ、効果を発揮した
(……そうかもしれない)
今まで、誰かに頼ることを避けてきた。
けれど、フィンの魔力を受け入れたことで、体が楽になったのは確かだった。
「まぁ、すぐに効果が出たのは驚いたけどな」
シグが口を挟む。
「人間の治癒魔法がヴァンパイアに効くなんて、やっぱり不思議だぜ」
「そこがフィンの特異なところなんだろうね」
ユリウスがワインのグラスを軽く揺らしながら、紫の瞳を細める。
「君、やっぱり普通の治癒師じゃないよね?」
フィンは少しだけ目を伏せ、静かに息をついた。
「……」
「……」
ユリウスはフィンの反応を観察するように見つめるが、これ以上は何も言わなかった。
——ルナフィエラは、ふと考える。
この城に滞在する人間が増えた。
彼らとともに過ごす時間も長くなるはず。
それなら、お互いのことをもっと知っておいたほうがいい。
「……ねぇ」
ルナフィエラは食卓を見渡しながら、静かに提案した。
「せっかくだし、改めて自己紹介をしない?」
「自己紹介?」
シグが片眉を上げる。
「ええ。みんなここに滞在するなら、お互いのことを知っておいたほうがいいと思うの」
ユリウスが面白そうに微笑む。
「なるほどねぇ。確かに何者か分からない相手と一緒に暮らすのは、ちょっと落ち着かないもんね」
「その通りよ」
ルナフィエラは頷くと、椅子の背もたれに軽く背を預ける。
「じゃあ、まずは私から」
そう言って、彼女はまっすぐにみんなを見つめた。
「ルナフィエラ・エヴァンジェリスタ」
静かに名乗ると、大広間の空気が一瞬だけ引き締まる。
「ここに住むヴァンパイア……それが私よ」
その宣言に、フィン、ユリウス、シグ、そしてヴィクトルがそれぞれの思いを抱きながらルナを見つめた。
彼女が、この城の主であることを改めて示すように——。
「ルナフィエラ・エヴァンジェリスタ」
ルナフィエラがそう名乗った瞬間、食卓の空気が少し引き締まった。
この城の主であり、ヴァンパイアである彼女——
その存在を、改めて明確に示す言葉だった。
——その静けさの中、フィンが小さく呟く。
「……ルナフィエラ・エヴァンジェリスタ……」
彼は、まるでその名前を確かめるように、小声で復唱した。
そして、少し考えるように視線を落とし、それからふっと微笑んだ。
「……ねぇ、僕はこれからも ‘ルナ’ って呼んでいい?」
その問いに、ルナフィエラは少し驚きながらも、すぐに微笑んで答える。
「ええ、構わないわよ」
フィンの瞳がわずかに優しく緩む。
「ありがとう」
そのやりとりを聞いていたユリウスが、口を尖らせたような表情を浮かべる。
「……ねぇ、フィンだけ‘ルナ’って呼ぶの、ずるくない?」
「え?」
「だってさ、今まで‘ルナフィエラ’って呼んでたのに、急に‘ルナ’って言い始めるなんて、フィンだけ特別扱いみたいじゃない?」
「……別に、気にしないけど」
ルナフィエラが淡々とした声で答えると、ユリウスは少し考えたように頷く。
「うーん、じゃあさ」
彼は悪戯っぽく微笑みながら言う。
「僕たちも‘ルナ’って呼ぶことにしようよ」
「……」
ルナフィエラは少し考えた後、肩をすくめる。
「好きにすれば?」
「よし、決まりだ!」
ユリウスは満足げに笑う。
「……問題はないのですか?」
ヴィクトルが慎重に問いかけるが、ルナフィエラは静かに頷いた。
「ええ。どう呼ぶかはあなたたちの自由よ」
「それなら、俺も‘ルナ’って呼ぶぜ」
シグが気楽に言い、ヴィクトルも最後に静かに頷いた。
「……承知しました」
こうして、これまで ‘ルナフィエラ’ と呼んでいた彼らも、自然と‘ルナ’と呼ぶようになったのだった。
——食卓に流れる空気が少し柔らかくなる中、ルナフィエラが次に口を開く。
「じゃあ、次はフィンの番ね」
彼に視線を向けると、フィンは穏やかに頷いた。
「分かった」
彼はゆっくりと椅子に背を預けながら、落ち着いた声で名乗る。
「フィン・ローゼン」
「……フィン・ローゼン」
ルナフィエラは彼の名を復唱する。
「僕は人間で、治癒魔法を得意とする元聖騎士だよ」
その言葉に、シグとユリウスが同時に驚いたように眉を上げる。
「……元聖騎士?」
シグが聞き返すと、フィンは静かに頷いた。
「うん。元聖騎士」
「へぇ……」
ユリウスは興味深そうにフィンを眺める。
「聖騎士ってことは、君も神殿に仕えてたわけだよね?」
「まぁ、一応はね」
フィンの返答はどこか淡々としていた。
「でも、今はもう関わりはないよ」
その言葉に、ルナフィエラはふと目を細める。
(神殿に仕えていた……それなのに、今は人間社会を離れ、ヴァンパイアである私を助けている)
——何か事情があるのかもしれない。
けれど、今は深く聞かないほうがいいだろう。
「……元聖騎士ってことは、剣も使えるの?」
ルナフィエラがそう尋ねると、フィンは少し微笑んで答える。
「一応ね。でも、今は戦うより ‘癒す’ ほうが向いてると思ってるよ」
「……そう」
ルナフィエラは短く頷いた。
「フィン・ローゼン……」
改めてそう口にすると、フィンは静かに微笑んだ。
「よろしくね、ルナ」
ルナフィエラもまた、小さく微笑み返した。
「ええ、こちらこそ」
フィンの自己紹介が終わり、ルナフィエラは次の人へと視線を向ける。
「じゃあ、次は……シグ、お願い」
シグはルナフィエラの言葉を受け、椅子に座ったまま腕を組んだ。
「俺はシグ・ヴァルガス。戦闘民族の ‘鬼’ の血を引く魔族の戦士だ」
「鬼……?」
ルナフィエラが聞き返すと、シグはニヤリと笑った。
「そう。戦うために生まれてきた ‘鬼の一族’ の血を引いてる」
「なるほど……」
確かにシグの屈強な体つきと、戦士としての腕前を見れば、普通の人ではないことは明らかだった。
「で、俺の仕事は簡単だ。金をもらえて、武器を振るう仕事なら何でもやってた」
「何でも……?」
「そう。賞金稼ぎ、用心棒、傭兵…… 割と何でもな」
シグは軽く肩をすくめる。
「けど、ルナに借りを返すために、今はここにいる、それと気に入ったからだ」
「……気に入った?」
「そう」
シグは堂々とした口調で言う。
「ヴァンパイアの姫様って聞いたから、もっと偉そうで守られるだけの存在かと思ってたんだけど……」
シグはルナをじっと見つめ、口の端を上げた。
「横柄な感じはなく、自らを顧みず他人を助けるくせに、自分が困っていても他人を頼ることができないお姫様だった。純粋に守りたいと思ったんだ」
「……」
「だから、俺はルナが生きたいと思う限り手を貸す」
彼の言葉には、揺るぎない意思が感じられた。
ルナフィエラはしばらく彼を見つめたあと、静かに頷いた。
「……ありがとう」
「おう、よろしくな、ルナ」
シグがにっと笑うと、ルナフィエラは次にユリウスへと視線を向けた。
ユリウスはワインを片手に、楽しげな笑みを浮かべた。
「僕はユリウス・フォン・エルム。世界の均衡を見守る者さ」
「……均衡を見守る者?」
フィンが首をかしげると、ユリウスはワイングラスを揺らしながら微笑んだ。
「簡単に言えば世界のバランスを保つ役目を負ってるってこと」
「……あなたは何者なの?」
ルナフィエラはユリウスに問う。
「エルフ王家の血を引くハイエルフだよ」
「……エルフの王族……」
ルナフィエラは思わずユリウスを見つめ直す。
彼の端整な顔立ちや優雅な振る舞いを考えれば、王族の血を引いていても違和感はなかった。
「まぁ、今は王族って立場にはこだわってないけどね」
ユリウスはさらりと言う。
「僕にとって大事なのは世界の流れさ。バランスが崩れないように、動くべきときに動く」
「それで、私に興味を持ったの?」
「うん」
ユリウスは楽しそうに微笑む。
「ルナ、君は ‘世界の均衡を変える存在’ かもしれない。だから、僕は ‘見守る’ ことにしたんだ」
「……私は、そんな大層な存在じゃないわよ」
「そうかな?」
ユリウスは意味ありげに微笑むと、ワインを一口飲み干した。
「まぁ、それはこれから分かることさ」
ルナフィエラは少し考え込みながらも、最後の人物に視線を向ける。
ヴィクトルはまっすぐな姿勢のまま、端正な口調で名乗った。
「私はヴィクトル・エーベルヴァイン。
かつてヴァンパイア王家に仕えていた騎士です」
「ヴァンパイア王家……」
「はい。そして今は、ルナ様に忠誠を誓う身」
ヴィクトルの言葉は揺るぎなく、その眼差しも誠実そのものだった。
ルナフィエラは静かに彼を見つめる。
「……あなたが、私を守ってくれているのは分かってるわ」
「当然です。私はルナ様が望まれる限りここにおります」
「……ありがとう」
ヴィクトルは深く頷き、静かに続ける。
「私の役目は剣を振るい、貴女を守ることです。
たとえこの身が朽ちようとも、それが使命」
その言葉に、ルナフィエラの胸が少しだけ痛んだ。
「ヴィクトル」
ルナはそっと彼の名前を呼ぶ。
「……私はあなたに命を捧げてほしいなんて思っていないわ」
ヴィクトルは一瞬目を見開いたが、すぐに静かに微笑んだ。
「それでも、私は騎士ですので」
「……あなたって、本当に頑固ね」
「よく言われます」
ヴィクトルは真剣な表情のまま、静かに頭を下げた。
「どうか、これからもお仕えさせてください」
ルナフィエラは少し困ったように微笑んだが、拒む理由もなかった。
「……ええ。よろしくお願いするわ」
こうして、全員の自己紹介が終わった。
大広間には、少しだけ静寂が流れる。
しかし、その空気は決して重いものではなく——
どこか新しい関係が始まる予感を含んでいた。
ルナフィエラは改めて、彼らを見渡す。
——これが、私の ‘仲間’ になるのかしら。
そんなことを思いながら、彼女は静かに息をついた。
扉を開けると、すでに全員が揃っていた。
ユリウスはワインを傾けながら、シグは相変わらず気だるげに席に肘をついている。
ヴィクトルは端正な姿勢のまま席に座り、フィンは落ち着いた表情で彼女を迎えた。
ルナフィエラが席につくと、静かに夕食が始まる。
——しかし、食事が終わるころになっても、誰も口を開こうとしなかった。
まるで、誰が最初に話し出すかを伺っているかのように。
そんな沈黙を破ったのは、やはりフィンだった。
「ルナ」
柔らかく、それでいてはっきりとした声で彼女の名前を呼ぶ。
「治癒魔法の効果はどうかな?」
その問いに、ルナフィエラはナイフとフォークを置き、ゆっくりと答えた。
「……効いているわ」
フィンの目をしっかりと見つめる。
「こんなに身体が軽くなるなんて思わなかった。
すっきりしていて、今までの疲れが嘘みたい」
その言葉に、フィンは安心したように微笑んだ。
「よかった」
彼の柔らかな笑みに、ルナフィエラは少し肩の力を抜く。
「本当に、ありがとう。フィンの治癒魔法のおかげよ」
「僕は君の魔力に適応させただけさ。
君自身が 受け入れたからこそ、魔法が効果を発揮したんだよ」
フィンの言葉に、ルナフィエラは少し考え込む。
——受け入れたからこそ、効果を発揮した
(……そうかもしれない)
今まで、誰かに頼ることを避けてきた。
けれど、フィンの魔力を受け入れたことで、体が楽になったのは確かだった。
「まぁ、すぐに効果が出たのは驚いたけどな」
シグが口を挟む。
「人間の治癒魔法がヴァンパイアに効くなんて、やっぱり不思議だぜ」
「そこがフィンの特異なところなんだろうね」
ユリウスがワインのグラスを軽く揺らしながら、紫の瞳を細める。
「君、やっぱり普通の治癒師じゃないよね?」
フィンは少しだけ目を伏せ、静かに息をついた。
「……」
「……」
ユリウスはフィンの反応を観察するように見つめるが、これ以上は何も言わなかった。
——ルナフィエラは、ふと考える。
この城に滞在する人間が増えた。
彼らとともに過ごす時間も長くなるはず。
それなら、お互いのことをもっと知っておいたほうがいい。
「……ねぇ」
ルナフィエラは食卓を見渡しながら、静かに提案した。
「せっかくだし、改めて自己紹介をしない?」
「自己紹介?」
シグが片眉を上げる。
「ええ。みんなここに滞在するなら、お互いのことを知っておいたほうがいいと思うの」
ユリウスが面白そうに微笑む。
「なるほどねぇ。確かに何者か分からない相手と一緒に暮らすのは、ちょっと落ち着かないもんね」
「その通りよ」
ルナフィエラは頷くと、椅子の背もたれに軽く背を預ける。
「じゃあ、まずは私から」
そう言って、彼女はまっすぐにみんなを見つめた。
「ルナフィエラ・エヴァンジェリスタ」
静かに名乗ると、大広間の空気が一瞬だけ引き締まる。
「ここに住むヴァンパイア……それが私よ」
その宣言に、フィン、ユリウス、シグ、そしてヴィクトルがそれぞれの思いを抱きながらルナを見つめた。
彼女が、この城の主であることを改めて示すように——。
「ルナフィエラ・エヴァンジェリスタ」
ルナフィエラがそう名乗った瞬間、食卓の空気が少し引き締まった。
この城の主であり、ヴァンパイアである彼女——
その存在を、改めて明確に示す言葉だった。
——その静けさの中、フィンが小さく呟く。
「……ルナフィエラ・エヴァンジェリスタ……」
彼は、まるでその名前を確かめるように、小声で復唱した。
そして、少し考えるように視線を落とし、それからふっと微笑んだ。
「……ねぇ、僕はこれからも ‘ルナ’ って呼んでいい?」
その問いに、ルナフィエラは少し驚きながらも、すぐに微笑んで答える。
「ええ、構わないわよ」
フィンの瞳がわずかに優しく緩む。
「ありがとう」
そのやりとりを聞いていたユリウスが、口を尖らせたような表情を浮かべる。
「……ねぇ、フィンだけ‘ルナ’って呼ぶの、ずるくない?」
「え?」
「だってさ、今まで‘ルナフィエラ’って呼んでたのに、急に‘ルナ’って言い始めるなんて、フィンだけ特別扱いみたいじゃない?」
「……別に、気にしないけど」
ルナフィエラが淡々とした声で答えると、ユリウスは少し考えたように頷く。
「うーん、じゃあさ」
彼は悪戯っぽく微笑みながら言う。
「僕たちも‘ルナ’って呼ぶことにしようよ」
「……」
ルナフィエラは少し考えた後、肩をすくめる。
「好きにすれば?」
「よし、決まりだ!」
ユリウスは満足げに笑う。
「……問題はないのですか?」
ヴィクトルが慎重に問いかけるが、ルナフィエラは静かに頷いた。
「ええ。どう呼ぶかはあなたたちの自由よ」
「それなら、俺も‘ルナ’って呼ぶぜ」
シグが気楽に言い、ヴィクトルも最後に静かに頷いた。
「……承知しました」
こうして、これまで ‘ルナフィエラ’ と呼んでいた彼らも、自然と‘ルナ’と呼ぶようになったのだった。
——食卓に流れる空気が少し柔らかくなる中、ルナフィエラが次に口を開く。
「じゃあ、次はフィンの番ね」
彼に視線を向けると、フィンは穏やかに頷いた。
「分かった」
彼はゆっくりと椅子に背を預けながら、落ち着いた声で名乗る。
「フィン・ローゼン」
「……フィン・ローゼン」
ルナフィエラは彼の名を復唱する。
「僕は人間で、治癒魔法を得意とする元聖騎士だよ」
その言葉に、シグとユリウスが同時に驚いたように眉を上げる。
「……元聖騎士?」
シグが聞き返すと、フィンは静かに頷いた。
「うん。元聖騎士」
「へぇ……」
ユリウスは興味深そうにフィンを眺める。
「聖騎士ってことは、君も神殿に仕えてたわけだよね?」
「まぁ、一応はね」
フィンの返答はどこか淡々としていた。
「でも、今はもう関わりはないよ」
その言葉に、ルナフィエラはふと目を細める。
(神殿に仕えていた……それなのに、今は人間社会を離れ、ヴァンパイアである私を助けている)
——何か事情があるのかもしれない。
けれど、今は深く聞かないほうがいいだろう。
「……元聖騎士ってことは、剣も使えるの?」
ルナフィエラがそう尋ねると、フィンは少し微笑んで答える。
「一応ね。でも、今は戦うより ‘癒す’ ほうが向いてると思ってるよ」
「……そう」
ルナフィエラは短く頷いた。
「フィン・ローゼン……」
改めてそう口にすると、フィンは静かに微笑んだ。
「よろしくね、ルナ」
ルナフィエラもまた、小さく微笑み返した。
「ええ、こちらこそ」
フィンの自己紹介が終わり、ルナフィエラは次の人へと視線を向ける。
「じゃあ、次は……シグ、お願い」
シグはルナフィエラの言葉を受け、椅子に座ったまま腕を組んだ。
「俺はシグ・ヴァルガス。戦闘民族の ‘鬼’ の血を引く魔族の戦士だ」
「鬼……?」
ルナフィエラが聞き返すと、シグはニヤリと笑った。
「そう。戦うために生まれてきた ‘鬼の一族’ の血を引いてる」
「なるほど……」
確かにシグの屈強な体つきと、戦士としての腕前を見れば、普通の人ではないことは明らかだった。
「で、俺の仕事は簡単だ。金をもらえて、武器を振るう仕事なら何でもやってた」
「何でも……?」
「そう。賞金稼ぎ、用心棒、傭兵…… 割と何でもな」
シグは軽く肩をすくめる。
「けど、ルナに借りを返すために、今はここにいる、それと気に入ったからだ」
「……気に入った?」
「そう」
シグは堂々とした口調で言う。
「ヴァンパイアの姫様って聞いたから、もっと偉そうで守られるだけの存在かと思ってたんだけど……」
シグはルナをじっと見つめ、口の端を上げた。
「横柄な感じはなく、自らを顧みず他人を助けるくせに、自分が困っていても他人を頼ることができないお姫様だった。純粋に守りたいと思ったんだ」
「……」
「だから、俺はルナが生きたいと思う限り手を貸す」
彼の言葉には、揺るぎない意思が感じられた。
ルナフィエラはしばらく彼を見つめたあと、静かに頷いた。
「……ありがとう」
「おう、よろしくな、ルナ」
シグがにっと笑うと、ルナフィエラは次にユリウスへと視線を向けた。
ユリウスはワインを片手に、楽しげな笑みを浮かべた。
「僕はユリウス・フォン・エルム。世界の均衡を見守る者さ」
「……均衡を見守る者?」
フィンが首をかしげると、ユリウスはワイングラスを揺らしながら微笑んだ。
「簡単に言えば世界のバランスを保つ役目を負ってるってこと」
「……あなたは何者なの?」
ルナフィエラはユリウスに問う。
「エルフ王家の血を引くハイエルフだよ」
「……エルフの王族……」
ルナフィエラは思わずユリウスを見つめ直す。
彼の端整な顔立ちや優雅な振る舞いを考えれば、王族の血を引いていても違和感はなかった。
「まぁ、今は王族って立場にはこだわってないけどね」
ユリウスはさらりと言う。
「僕にとって大事なのは世界の流れさ。バランスが崩れないように、動くべきときに動く」
「それで、私に興味を持ったの?」
「うん」
ユリウスは楽しそうに微笑む。
「ルナ、君は ‘世界の均衡を変える存在’ かもしれない。だから、僕は ‘見守る’ ことにしたんだ」
「……私は、そんな大層な存在じゃないわよ」
「そうかな?」
ユリウスは意味ありげに微笑むと、ワインを一口飲み干した。
「まぁ、それはこれから分かることさ」
ルナフィエラは少し考え込みながらも、最後の人物に視線を向ける。
ヴィクトルはまっすぐな姿勢のまま、端正な口調で名乗った。
「私はヴィクトル・エーベルヴァイン。
かつてヴァンパイア王家に仕えていた騎士です」
「ヴァンパイア王家……」
「はい。そして今は、ルナ様に忠誠を誓う身」
ヴィクトルの言葉は揺るぎなく、その眼差しも誠実そのものだった。
ルナフィエラは静かに彼を見つめる。
「……あなたが、私を守ってくれているのは分かってるわ」
「当然です。私はルナ様が望まれる限りここにおります」
「……ありがとう」
ヴィクトルは深く頷き、静かに続ける。
「私の役目は剣を振るい、貴女を守ることです。
たとえこの身が朽ちようとも、それが使命」
その言葉に、ルナフィエラの胸が少しだけ痛んだ。
「ヴィクトル」
ルナはそっと彼の名前を呼ぶ。
「……私はあなたに命を捧げてほしいなんて思っていないわ」
ヴィクトルは一瞬目を見開いたが、すぐに静かに微笑んだ。
「それでも、私は騎士ですので」
「……あなたって、本当に頑固ね」
「よく言われます」
ヴィクトルは真剣な表情のまま、静かに頭を下げた。
「どうか、これからもお仕えさせてください」
ルナフィエラは少し困ったように微笑んだが、拒む理由もなかった。
「……ええ。よろしくお願いするわ」
こうして、全員の自己紹介が終わった。
大広間には、少しだけ静寂が流れる。
しかし、その空気は決して重いものではなく——
どこか新しい関係が始まる予感を含んでいた。
ルナフィエラは改めて、彼らを見渡す。
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