純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第二章:4騎士との出会い

第18話・異質な魔法/ルナフィエラの目覚め

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治癒魔法を終え、ルナフィエラが深い眠りについたのを確認すると、一行は彼女の部屋を後にした。


扉が静かに閉まると、ユリウスが軽く手を上げながら、興味深げにフィンへ声をかけた。

「なぁ、フィン」

「……何?」

フィンが足を止め、ユリウスの言葉を待つ。

「さっきの魔法だけどさ」

ユリウスは少し眉を上げながら、フィンをじっと見つめる。

「……他人の魔力に自分の魔力を馴染ませるなんて、普通できることじゃないよね?」

その問いに、フィンはわずかに考えるような素振りを見せた後、静かに答えた。

「まぁ、あまり聞かない技術ではあるね」

「いやいや、『あまり聞かない』どころじゃないよ」

ユリウスは肩をすくめながら、片手をひらひらと振る。

「ましてや人間の魔力をヴァンパイアに適応させるなんて話、聞いたことがない。
他人の魔力を受け入れることはあっても、相手に合わせて変えることはまず不可能だろ?」

「……そうかもしれないね」

フィンは淡々とした口調で答えるが、ユリウスはじっと彼を見つめたまま、さらに問いを投げかける。

「ねぇフィン、もしかして君はずっとヴァンパイアの研究でもしてたの?」

その問いに、ヴィクトルとシグも視線を向ける。

フィンは少しだけ口を噤んだ後、静かに首を振った。

「いいや。そんな大層なことはしてないさ」

「……本当に?」

ユリウスは目を細める。

「人間社会でヴァンパイアに関する研究なんてしようものなら……反逆罪で処刑されることもありうるんだけど?」

「……」

フィンの表情が一瞬、硬くなる。

人間社会において、ヴァンパイアに関する研究を行うことは禁忌とされている。
ヴァンパイアに共感するような行為は裏切り者とみなされ、最悪の場合は処刑されることもある。

ユリウスは紫の瞳を細めながら、フィンの反応をじっくりと観察する。

「……どうして君は、あんなことができるんだ?」

「……」

フィンは少しだけ目を伏せた。

だが、その答えを口にすることはなかった。

「……僕は、ただ必要だったからできるようになっただけさ」

「……ふぅん」

ユリウスはそれ以上は追及せず、面白そうに笑った。

「まぁ、君がルナフィエラを助けられるのなら、それでいいけどね」

そう言いながら、ユリウスは軽く伸びをする。

「さて……ルナフィエラも寝てることだし、僕たちはどうする?」

「まずは、フィンの部屋を用意しよう」

ヴィクトルがきっぱりとした口調で言う。

「この城にしばらく滞在することになるのですから、落ち着ける場所が必要でしょう」

「……そうだね」

フィンは頷いた。

「治癒魔法を試すにはある程度の時間が必要だ」

「だったら、さっさと部屋を決めようぜ」

シグが腕を組みながら言う。

「どこが空いてる?」

「客室はいくつかあります。城の西側にある部屋を整えますので、少しお待ちください」

ヴィクトルはそう言うと、すぐに部屋の準備に向かう。

「手伝おうか?」

フィンが声をかけるが、ヴィクトルは首を振った。

「いえ、しばらくお休みください。
ルナフィエラ様の治癒魔法でかなり魔力を使われたはずです」

「……そう言われると、少し疲れた気もするね」

フィンは小さく微笑んだ。

「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

ユリウスが軽く頷き、壁に寄りかかる。

「僕も一旦休もうかな。朝から色々あったし、そろそろ一息つきたいところだ」

「そうだな」

シグも同意しながら、城の広い廊下を見渡す。

「とりあえず、落ち着ける場所を探すか」

こうして、それぞれが次の行動へと移る中、フィンはヴィクトルが用意してくれた部屋へ向かうことになった。

静かに眠るルナフィエラの治癒が順調に進むことを願いながら——。


——————


静かな部屋の中、夕暮れの光が窓から差し込んでいた。

ルナフィエラはゆっくりと目を開ける。

(……いつの間にか、こんなに眠っていたのね)

ぼんやりと天井を見つめながら、体を少し動かす。
すると、いつも感じていた重だるさがなく、驚くほど体が軽いことに気づいた。

(すっきりしてる……)

普通に生きていても、いつも疲労感が残っていた。
けれど、今はそれがない。

(フィンの治癒魔法……本当に、効果があったんだ)

心の中でそう確信しながら、ふと喉が渇いていることに気づいた。

(お水、欲しいな……)

そう思いながら、ルナフィエラはベッドからゆっくりと身体を起こそうとした。

その瞬間——

コン、コン。

扉が控えめにノックされる音が響いた。

「ルナフィエラ様」

低く、穏やかな声。

ヴィクトルだった。

「……どうぞ」

ルナフィエラが声をかけると、扉が静かに開かれる。

入ってきたヴィクトルの手には、トレイに乗せられた水の入ったグラスがあった。

「お目覚めですね」

「……ええ、ちょうど起きたところ」

ヴィクトルはベッドのそばまで歩み寄ると、無言でグラスを差し出す。

「……ありがとう」

ルナは素直にそれを受け取り、ゆっくりと口元へ運ぶ。

冷たい水が喉を潤し、心地よく体に染み渡る。

「……美味しい」

そう呟くと、ヴィクトルは微かに微笑んだように見えた。

「しばらくお休みでしたから、喉が渇いていると思いました」

「……そんなに寝てた?」

「朝にお休みになられて、夕刻まで」

「そんなに……」

ルナフィエラは驚いた。
こんなに長く深く眠ったのは、久しぶりだった。

「よく眠れましたか?」

「……ええ。すごく」

ヴィクトルは満足げに頷く。

「それなら、よかった」

ルナフィエラはグラスを両手で包みながら、小さく息を吐いた。

(本当に、身体が軽い……)

フィンの治癒魔法がどれほど効果的だったのか、改めて実感する。

「……ルナフィエラ様」

ヴィクトルが静かに呼びかけた。

「少し、お加減を伺ってもよろしいですか?」

ルナは微笑みながら、ヴィクトルを見上げた。

「ええ。話しましょう」

こうして、ルナの目覚めとともに、彼女の新たな時間がゆっくりと動き出していくのだった——。


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