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第二章:4騎士との出会い
第17話・治癒魔法
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長い森の道を抜け、ついに一行は古城へと到着した。
シグはルナフィエラを抱えたまま、城門をくぐるとそのまま迷うことなく城内へと進む。
「よっと、到着」
軽く言いながら、ルナフィエラをそっと降ろす。
「……もう、勝手に運ばないで」
ルナフィエラは軽く頬を膨らませたが、シグは「ははっ」と気にした様子もない。
ヴィクトルとユリウスも後から続き、最後にフィンがゆっくりと中に入ってきた。
「……ここが、君の住んでいる城なんだね」
フィンは周囲を見渡しながら静かに呟いた。
「随分広いな……」
「ここでずっと暮らしてたの?」
「ええ……でも、以前は一人だったわ」
ルナは城内を見つめながら答える。
以前は静まり返っていたこの場所も、今は仲間がいる。
それがどれほど異質なことなのか、自分でも少し不思議に思う。
「まずはルナフィエラ様をお部屋へ」
ヴィクトルがそう促し、一行はルナフィエラの部屋へと移動することになった。
部屋に到着すると、ルナフィエラはベッドへと促される。
「横になって」
フィンが優しく言うと、ルナフィエラは素直にベッドに腰を下ろし、静かに横たわった。
「それじゃあ、試してみようか」
フィンはベッドの側に腰を下ろし、ルナフィエラの顔を覗き込む。
「治癒魔法をそのまま使っても、ヴァンパイアには効果がない。
だから、まずは君の魔力に適応する形に調整する」
「……お願いするわ」
ルナフィエラは静かに目を閉じ、フィンが治癒魔法を試すのを待った。
フィンは右手をルナフィエラの額へとかざす。
——ほのかに温かい光が、彼の手から生まれた。
それは人間の治癒魔法の典型的な光だったが、通常ならヴァンパイアの体にはほとんど作用しない。
「……ふむ、やっぱり反発があるな」
フィンは小さく呟く。
「ルナの体が、僕の魔力を異物として拒絶してる」
「そんなに簡単にはいかないか……」
ユリウスが腕を組みながら呟く。
フィンは少し考えたあと、再び魔力を練り直す。
「……じゃあ、君の魔力と共鳴させながら流してみる」
「共鳴?」
「そう、君の魔力に僕の魔力をなじませるんだ。そうすれば、抵抗が少なくなるはず」
ルナフィエラは静かに頷く。
フィンは再び手をかざし、今度は ゆっくりとルナフィエラの魔力の波長に合わせる ように魔力を流していく。
すると——
「……っ」
ルナフィエラの体が、小さく震えた。
「どう? 何か感じる?」
フィンが優しく尋ねると、ルナフィエラは僅かに息を吐きながら答えた。
「……なんだか、温かい感じがする……」
「それなら、少しずつ適応してる証拠だね」
フィンは慎重に魔力を調整しながら、さらに治癒魔法を深く流し込んでいく。
(……いい感じだ)
ヴァンパイアの体は通常、人間の魔力を受け付けない。
しかし、ルナフィエラの魔力に合わせて調整したことで、フィンの治癒魔法が少しずつ体へ浸透していくのを感じた。
「これなら……何とかなるかもしれないな」
フィンは小さく微笑む。
「少し続けるよ。体が楽になるかどうか、教えて」
「……ええ」
ルナフィエラは静かに目を閉じ、治癒魔法がじんわりと体に馴染んでいくのを感じていた。
——次の満月が来る前に、少しでも体調を安定させるために。
フィンの試みは、確かにルナフィエラの体に変化をもたらしつつあった——。
フィンがルナの魔力に慎重に馴染ませながら、治癒魔法を流していくこと数分。
部屋の中は静寂に包まれ、淡い魔力の光だけが穏やかに揺れていた。
ルナフィエラは最初こそ意識を保っていたものの、やがてそのまま静かな寝息を立て始めた。
(……眠ったか)
フィンは治癒魔法を止めると、そっとルナフィエラの髪を払いながら布団をかける。
呼吸は穏やかで、先ほどまでよりも表情が柔らかくなっている。
(体が少しでも楽になっているといいけど)
そう思いながら、ルナフィエラの様子をもう一度確認する。
すると——
「……へぇ」
ユリウスが静かに驚きの声を漏らした。
フィンはそちらを振り返り、軽く首を傾げる。
「……どうしたの?」
「いや……ちょっとね」
ユリウスは興味深そうにルナフィエラを見つめながら、細めた紫の瞳に小さな笑みを浮かべた。
「君の治癒魔法、本当にヴァンパイアに作用してるんだな」
「……?」
フィンは少し考え、ルナフィエラの方に再び視線を戻した。
——そして、気づいた。
ルナフィエラの顔色が、明らかに良くなっている。
いつもどこか青白かった肌に、わずかではあるが血色が戻っているように見えた。
「……思ったより、効果が出るのが早いな」
フィン自身も、少し驚いていた。
「確かに、人間の治癒魔法がヴァンパイアに直接作用することはほとんどない。
でも、ルナフィエラの魔力に合わせたおかげで、ここまで適応できるとは……」
ユリウスは腕を組みながら小さく笑う。
「いやはや、これは面白いね」
「……面白いって」
「ルナフィエラはずっと、満月のたびに魔力が乱れて体調が悪化していると言っていた。でも、君の治癒魔法が効くなら、それを抑えられる可能性もあるってことだろ?」
「……そうなるね」
フィンは改めてルナフィエラを見つめる。
「まだ効果を確かめる必要はあるけど……これは、大きな一歩かもしれない」
「ふふん、これは期待できそうだ」
ユリウスは愉快そうに微笑み、軽く伸びをした。
「さて、とりあえず今は静かにしておこうか。彼女がこんなにぐっすり眠ってるの、久しぶりなんじゃない?」
「……そうなんだね」
フィンは静かに呟くと、ルナフィエラの額にかかった髪をそっと直した。
彼女の魔力を安定させるための治癒魔法——それは確かに、ルナフィエラの体に変化をもたらし始めていた。
この小さな進展が、次の満月を迎えるまでの時間にどんな影響を与えるのか。
フィンも、ユリウスも、ヴィクトルも。
皆、それぞれの思いを胸に抱えながら、眠るルナフィエラをそっと見守っていた——。
シグはルナフィエラを抱えたまま、城門をくぐるとそのまま迷うことなく城内へと進む。
「よっと、到着」
軽く言いながら、ルナフィエラをそっと降ろす。
「……もう、勝手に運ばないで」
ルナフィエラは軽く頬を膨らませたが、シグは「ははっ」と気にした様子もない。
ヴィクトルとユリウスも後から続き、最後にフィンがゆっくりと中に入ってきた。
「……ここが、君の住んでいる城なんだね」
フィンは周囲を見渡しながら静かに呟いた。
「随分広いな……」
「ここでずっと暮らしてたの?」
「ええ……でも、以前は一人だったわ」
ルナは城内を見つめながら答える。
以前は静まり返っていたこの場所も、今は仲間がいる。
それがどれほど異質なことなのか、自分でも少し不思議に思う。
「まずはルナフィエラ様をお部屋へ」
ヴィクトルがそう促し、一行はルナフィエラの部屋へと移動することになった。
部屋に到着すると、ルナフィエラはベッドへと促される。
「横になって」
フィンが優しく言うと、ルナフィエラは素直にベッドに腰を下ろし、静かに横たわった。
「それじゃあ、試してみようか」
フィンはベッドの側に腰を下ろし、ルナフィエラの顔を覗き込む。
「治癒魔法をそのまま使っても、ヴァンパイアには効果がない。
だから、まずは君の魔力に適応する形に調整する」
「……お願いするわ」
ルナフィエラは静かに目を閉じ、フィンが治癒魔法を試すのを待った。
フィンは右手をルナフィエラの額へとかざす。
——ほのかに温かい光が、彼の手から生まれた。
それは人間の治癒魔法の典型的な光だったが、通常ならヴァンパイアの体にはほとんど作用しない。
「……ふむ、やっぱり反発があるな」
フィンは小さく呟く。
「ルナの体が、僕の魔力を異物として拒絶してる」
「そんなに簡単にはいかないか……」
ユリウスが腕を組みながら呟く。
フィンは少し考えたあと、再び魔力を練り直す。
「……じゃあ、君の魔力と共鳴させながら流してみる」
「共鳴?」
「そう、君の魔力に僕の魔力をなじませるんだ。そうすれば、抵抗が少なくなるはず」
ルナフィエラは静かに頷く。
フィンは再び手をかざし、今度は ゆっくりとルナフィエラの魔力の波長に合わせる ように魔力を流していく。
すると——
「……っ」
ルナフィエラの体が、小さく震えた。
「どう? 何か感じる?」
フィンが優しく尋ねると、ルナフィエラは僅かに息を吐きながら答えた。
「……なんだか、温かい感じがする……」
「それなら、少しずつ適応してる証拠だね」
フィンは慎重に魔力を調整しながら、さらに治癒魔法を深く流し込んでいく。
(……いい感じだ)
ヴァンパイアの体は通常、人間の魔力を受け付けない。
しかし、ルナフィエラの魔力に合わせて調整したことで、フィンの治癒魔法が少しずつ体へ浸透していくのを感じた。
「これなら……何とかなるかもしれないな」
フィンは小さく微笑む。
「少し続けるよ。体が楽になるかどうか、教えて」
「……ええ」
ルナフィエラは静かに目を閉じ、治癒魔法がじんわりと体に馴染んでいくのを感じていた。
——次の満月が来る前に、少しでも体調を安定させるために。
フィンの試みは、確かにルナフィエラの体に変化をもたらしつつあった——。
フィンがルナの魔力に慎重に馴染ませながら、治癒魔法を流していくこと数分。
部屋の中は静寂に包まれ、淡い魔力の光だけが穏やかに揺れていた。
ルナフィエラは最初こそ意識を保っていたものの、やがてそのまま静かな寝息を立て始めた。
(……眠ったか)
フィンは治癒魔法を止めると、そっとルナフィエラの髪を払いながら布団をかける。
呼吸は穏やかで、先ほどまでよりも表情が柔らかくなっている。
(体が少しでも楽になっているといいけど)
そう思いながら、ルナフィエラの様子をもう一度確認する。
すると——
「……へぇ」
ユリウスが静かに驚きの声を漏らした。
フィンはそちらを振り返り、軽く首を傾げる。
「……どうしたの?」
「いや……ちょっとね」
ユリウスは興味深そうにルナフィエラを見つめながら、細めた紫の瞳に小さな笑みを浮かべた。
「君の治癒魔法、本当にヴァンパイアに作用してるんだな」
「……?」
フィンは少し考え、ルナフィエラの方に再び視線を戻した。
——そして、気づいた。
ルナフィエラの顔色が、明らかに良くなっている。
いつもどこか青白かった肌に、わずかではあるが血色が戻っているように見えた。
「……思ったより、効果が出るのが早いな」
フィン自身も、少し驚いていた。
「確かに、人間の治癒魔法がヴァンパイアに直接作用することはほとんどない。
でも、ルナフィエラの魔力に合わせたおかげで、ここまで適応できるとは……」
ユリウスは腕を組みながら小さく笑う。
「いやはや、これは面白いね」
「……面白いって」
「ルナフィエラはずっと、満月のたびに魔力が乱れて体調が悪化していると言っていた。でも、君の治癒魔法が効くなら、それを抑えられる可能性もあるってことだろ?」
「……そうなるね」
フィンは改めてルナフィエラを見つめる。
「まだ効果を確かめる必要はあるけど……これは、大きな一歩かもしれない」
「ふふん、これは期待できそうだ」
ユリウスは愉快そうに微笑み、軽く伸びをした。
「さて、とりあえず今は静かにしておこうか。彼女がこんなにぐっすり眠ってるの、久しぶりなんじゃない?」
「……そうなんだね」
フィンは静かに呟くと、ルナフィエラの額にかかった髪をそっと直した。
彼女の魔力を安定させるための治癒魔法——それは確かに、ルナフィエラの体に変化をもたらし始めていた。
この小さな進展が、次の満月を迎えるまでの時間にどんな影響を与えるのか。
フィンも、ユリウスも、ヴィクトルも。
皆、それぞれの思いを胸に抱えながら、眠るルナフィエラをそっと見守っていた——。
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