【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第二章:4騎士との出会い

第20話・ユリウスの疑い

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自己紹介も終わりヴィクトルはルナフィエラを休ませる為、すでに食堂から退室していた。
シグもルナフィエラが部屋に戻ったのならと食堂から去っていた。

食堂にはユリウスとフィンの2人が残っていた。

「フィン」

静かに呼びかけられた声に、フィンは目を合わせる。
ユリウスは鋭い眼差しをフィンに向けていた。

「……何?」

警戒心を滲ませず、フィンは軽く笑う。だが、ユリウスは笑わない。

「お前――神殿の聖騎士だったんだな?」

その問いに、一瞬だけフィンの瞳が揺れる。
ユリウスの言葉にこめられた感情を理解したからだ。

(やっぱり気づいてたか……)

だが、表情には出さず、肩をすくめる。

「昔の話だよ。それが?」

「ふざけるな」

ユリウスが低く睨みつける。

「神殿は”聖騎士”に特別な使命を与えていたはずだ。人間社会を守るための”浄化”という名の――ヴァンパイアや魔族狩りをな」

空気が一瞬で張り詰める。

「……まさかとは思うが」
「お前も、その手を汚していたのか?」

言葉は冷たく、突き刺さるようだった。
それも当然だ。

人間社会の”神殿”は、彼女のような存在を敵として扱う組織だ。
そこで騎士だったフィンを、簡単に信用できるはずがなかった。

「さぁね」

フィンは視線を逸らさず、淡々と答える。

「僕が過去に何をしてたかなんて、今さら関係ないだろ?」

「関係ないわけがあるか」

ユリウスは静かに拳を握る。

「お前が過去に何をしていたのか知らない。だが、もし――ルナにとって害になる存在なら、“排除”しないといけない」

その言葉に、フィンの口元がわずかに歪む。

「怖いね、ユリウス」

「当然だ」
「答えろ、フィン。お前はヴァンパイアや魔族を狩っていたのか?」


静寂。


フィンは目を伏せ、少しの間、口を閉ざした。

そして、ぽつりと答えた。

「……狩ってたよ」

ユリウスの瞳が鋭さを増す。

「だが」

フィンは続ける。

「“神殿のやり方”には、ついていけなかった」

ユリウスがわずかに目を細める。

「それは、どういう意味だ?」

フィンは小さく息を吐くと、椅子の背もたれに背を預け、天井を見上げた。

「……確かに僕は、聖騎士だった。そして、命令に従いヴァンパイアや魔族を”討伐”していたよ」
「けどね――神殿のやり方は、僕には合わなかったんだ」

ユリウスは黙って続きを促す。

「“罪のない者も、すべて滅ぼせ”――それが神殿の方針だった」

フィンの言葉は乾いていた。

「本当に人間を害していたヴァンパイアや魔族を討つのはいい。僕もそれに異論はなかったさ」
「だが、何もしていない人達まで”異端”の名のもとに虐殺しろと言われた時――僕は、拒否した」

ユリウスは僅かに驚いたようにフィンを見つめる。

「……だから、神殿を抜けたのか?」

フィンは笑う。

「“抜けた”って言い方は、ちょっと違うかな」

彼は自嘲するように続けた。

「“反逆者として追われてる”の間違いだよ」

ユリウスの表情が険しくなる。

「神殿を裏切った者は”粛清”される。僕も当然、狙われてるさ」

フィンはそう言いながら、ユリウスの目をまっすぐに見た。

「これで満足? それとも、まだ僕を疑う?」


ユリウスの視線は鋭いままだった。
フィンは小さく肩をすくめ、少し考えた後、静かに話し始めた。

「……あんまり話すつもりはなかったんだけどな」

ユリウスは黙ったまま、続きを促すように彼を見ている。

「僕が聖騎士だったころ、ヴァンパイア討伐の任務をメインについてたことがあったんだ」

フィンの声は穏やかだったが、その中にはどこか遠い記憶を思い出すような響きがあった。

「その途中で、一人で森を歩いてた時……微かに、人の気配を感じたんだ」

静かな夜の森。
月明かりが僅かに地面を照らし、木々の間から、誰かの苦しそうな息遣いが聞こえた。

「気になって近づいたら、そこに”彼女”がいた」

ユリウスの視線がわずかに鋭くなる。

「彼女は地面に倒れてて、息も浅くて、足を怪我していた……正直、その時は”ただの人間の女の子”だと思ったんだよ」

だから、迷わず治癒魔法をかけた。
だが――

「魔法が弾かれた」

ユリウスが僅かに眉をひそめる。

「その時、なんか嫌な予感がしたんだ」

フィンは静かに天井を見上げるように視線をそらす。

「ちょうどその時、月明かりが差し込んでさ……」

彼女の肌は透き通るように白く、目を開けた瞬間、燃えるような赤い瞳が揺れた。

「その時、ようやく気づいた。彼女は――ヴァンパイアだったんだ」

ユリウスは僅かに目を細める。

「……それで?」

フィンは目を伏せ、静かに続ける。

「迷ったよ。正直、どうするべきかわからなかった」

ヴァンパイア狩りを任務としていた聖騎士。
倒れているヴァンパイア。

「その場で始末すべきか、それとも放っておくべきか――でも、どっちもできなかった」

ユリウスが口を開きかけるが、フィンが先に続ける。

「……ただ、“助けを求めている人”に見えたんだよな」

「……」

「それがヴァンパイアでも、人間でも……俺にはあんまり関係なかったのかもしれない」

ユリウスはフィンをじっと見つめる。

「それで、お前はどうした?」

フィンは少し笑いながら答える。

「人目につかない場所まで運んで、できる限りの応急処置をした」

「……ヴァンパイアに、聖騎士が?」

ユリウスの疑問に、フィンは肩をすくめる。

「おかしいよな。でも、その時はとにかく、少しでも楽になればって思ってたんだ」

ヴァンパイアの体は聖属性の魔法を受け付けない。
それでも、別の方法がないかと考えながら、フィンは魔力を使い続けた。

「でも、俺の魔力が尽きちゃってさ」

苦笑しながら、軽く手を広げる。

「そのまま気を失った」

ユリウスの表情がわずかに変わる。

「……で、目が覚めたら?」

「もう、彼女はいなかった」

フィンの口調は柔らかかったが、どこか寂しそうでもあった。

「でもね、僕はちゃんと”名前”を聞いたんだ」

ユリウスが少し目を細める。

「名前?」

フィンは微かに笑う。

「ああ。治療しながら、“名前は?“って聞いたんだ」

「そしたら、一言だけ返ってきた――“ルナ”って」

「だから、俺も”フィン”とだけ名乗った」

ユリウスはわずかに驚いたような表情を見せる。

「……それで、今回の再会で”名前を呼び合った”のか」

「そういうこと」

フィンは気楽そうに言うが、その言葉には確かな想いがこもっていた。

「ずっと探してたんだ。あの時のヴァンパイアを。生きてるのか、無事なのか、あれからどうなったのか――ずっと気になってた」

「それで……ようやく、見つけたんだよ」

「ルナを」

ユリウスは短く息を吐いた。

「……僕は、ルナをヴィクトルやシグの様に守るつもりはない」

フィンは小さく笑う。

「うん、知ってるよ」

「俺は、ただ彼女を観察しているだけだ」

ユリウスの声は冷静だった。

「興味があるから様子を見ているだけで、彼女を”守る”つもりはない。少し心配ではあるが……それも、“観察者”としての感情に過ぎない」

フィンはふっと笑う。

「そっか」

「……お前は違うのか?」

ユリウスが問いかけると、フィンは少し考え込んでから、静かに呟く。

「僕は……“あの時”に、彼女を助け切れなかった」

「だから、今度は違う」

「もう二度と、彼女をひとりにしない。守る」

フィンの瞳には迷いがなかった。

ユリウスは短く息を吐いた。

「……俺は、お前を信用したわけじゃない」

「うん、わかってる」

「もし、お前が嘘をついてるなら……その時は、迷わず切る」

「怖いなぁ」

フィンは苦笑しながら、それでもどこか安心したように見えた。

「まぁ、お互い観察するなり疑うなり、好きにすれば?」

ユリウスはそれには答えず、ただ冷ややかな視線を向けたまま、その場を後にした。

フィンは彼の背中を見送りながら、静かに呟く。

「……ようやく会えたんだ。今度こそ、見捨てるつもりはないよ」

夜風が吹き抜ける中、フィンはわずかに目を細めた。

(ルナ、君は今、どんな顔をしてるんだろうな)

その言葉が夜に溶けて消えるころ、雲の間から月が静かに輝いていた。
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