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第五章:みんなと歩く日常
第71話・言葉より近くに
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市場の一角。
小さな屋根の下、色とりどりの髪飾りが並ぶ露店の前で、ルナフィエラの足がふと止まった。
「……きれい」
言葉が自然と漏れた。
繊細な銀の細工に、小さな宝石や花の装飾が施された品々。
光を受けてきらきらと輝くそれらは、彼女の過去にはなかったものだった。
「ルナ様」
すぐ隣に立っていたヴィクトルが、静かに声をかける。
「気に入ったものがありましたか?」
「……ううん。ただ、見とれてただけ」
そう答えながらも、ルナフィエラの視線はひとつの髪飾りに吸い寄せられていた。
それは、小さな赤い石が中心に据えられた、月のような曲線を描いた銀細工。
「……あれ、少し、お母様が持っていたものに似てる気がする……」
小さく呟いたその声に、ヴィクトルが一瞬だけまぶたを伏せる。
「お持ちしましょうか」
「えっ……でも……」
「ご自分のために、何かを選ぶのは悪いことではありません」
ヴィクトルはそう言って、迷いなくその髪飾りを手に取った。
店主と数言交わし、対価を支払うと、丁寧に布で包んでルナフィエラに差し出す。
「……どうぞ。ルナ様に、よくお似合いになると思います」
ルナフィエラは一瞬、戸惑ったようにヴィクトルを見上げる。
「……でも、それ、ヴィクトルが……」
「ええ。ルナ様に差し上げたいと思ったので、お渡しするだけです」
淡々とした声色。
でもそこには、揺るがぬ思いがあった。
「……ありがとう。ヴィクトル」
そっと髪飾りを受け取るルナフィエラ。
その指先が、ほんの一瞬、ヴィクトルの手に触れた。
その一瞬に、ヴィクトルは気づかぬふりでまっすぐ視線を前へと向ける。
「城に戻ったら、髪にお付けします。きっとよく映えますよ」
「……うん」
ルナフィエラは小さく微笑んだ。
その笑みを、横顔で捉えながら――
ヴィクトルの胸の奥にもまた、静かな満足が満ちていた。
——————
露店が並ぶ通りを抜けた先、少し人気の少ない一角に、質実剛健な装備品を扱う店があった。
鋼の刃が鈍く光り、革のグローブやポーチがきちんと整列している。
市の華やかさとは対照的に、そこだけ空気が引き締まっていた。
「シグ、ここ……?」
ルナフィエラが足を止めると、少し後ろを歩いていたシグが前に出た。
「護身用に、小型の武具を見ておけ。……ルナが完全に無力ってわけじゃないが、万が一ってのがある」
「……うん。わたしも、自分で守れるようになれたらって、思ってた」
シグは軽く頷くと、棚に並んだ短剣や小型の杖を見てまわる。
その手つきは、彼が本物の戦士であることを示していた。
触れるだけで、重量やバランス、作りの甘さをすぐに見抜く。
一方のルナフィエラはというと、装備品に囲まれるのは初めてで、少し戸惑いながらも興味深げに棚を覗き込んでいた。
「この小さいの……綺麗」
ルナフィエラが指差したのは、銀に青い装飾が施された小さな短剣だった。
刃は細く、装飾的な意匠が強い。
見た目は美しいが、実用にはやや不安が残る。
「悪くはねぇが……護身用としては頼りねぇな。こっちだ」
シグが無言で別の短剣を取り出す。
黒い鞘に収められたその刃は、飾り気はないが堅牢で、手になじみやすそうだった。
「軽い。……でも、しっかりしてる」
「精鋼製の魔導短剣だ。防御魔法の詠唱時にも使えるし、柄に魔石を埋め込めば発動補助にもなる」
「すごい……」
ルナフィエラが感心して見つめていると、シグが不意に顔を伏せ、低く呟いた。
「これを持っても、無茶だけはするな。……“自分を守ろう”って気持ちだけ、忘れんなよ」
その言葉に、ルナフィエラは目を見開いた。
「……ありがとう、シグ。わたし、ちゃんと、守るね。自分のこと」
「ああ。それでいい」
照れるわけでもなく、いつも通りのぶっきらぼうな表情で、シグは代金を支払ってくれた。
その後ろ姿を見つめながら、ルナフィエラは胸の奥がほんのり温かくなるのを感じていた。
小さな屋根の下、色とりどりの髪飾りが並ぶ露店の前で、ルナフィエラの足がふと止まった。
「……きれい」
言葉が自然と漏れた。
繊細な銀の細工に、小さな宝石や花の装飾が施された品々。
光を受けてきらきらと輝くそれらは、彼女の過去にはなかったものだった。
「ルナ様」
すぐ隣に立っていたヴィクトルが、静かに声をかける。
「気に入ったものがありましたか?」
「……ううん。ただ、見とれてただけ」
そう答えながらも、ルナフィエラの視線はひとつの髪飾りに吸い寄せられていた。
それは、小さな赤い石が中心に据えられた、月のような曲線を描いた銀細工。
「……あれ、少し、お母様が持っていたものに似てる気がする……」
小さく呟いたその声に、ヴィクトルが一瞬だけまぶたを伏せる。
「お持ちしましょうか」
「えっ……でも……」
「ご自分のために、何かを選ぶのは悪いことではありません」
ヴィクトルはそう言って、迷いなくその髪飾りを手に取った。
店主と数言交わし、対価を支払うと、丁寧に布で包んでルナフィエラに差し出す。
「……どうぞ。ルナ様に、よくお似合いになると思います」
ルナフィエラは一瞬、戸惑ったようにヴィクトルを見上げる。
「……でも、それ、ヴィクトルが……」
「ええ。ルナ様に差し上げたいと思ったので、お渡しするだけです」
淡々とした声色。
でもそこには、揺るがぬ思いがあった。
「……ありがとう。ヴィクトル」
そっと髪飾りを受け取るルナフィエラ。
その指先が、ほんの一瞬、ヴィクトルの手に触れた。
その一瞬に、ヴィクトルは気づかぬふりでまっすぐ視線を前へと向ける。
「城に戻ったら、髪にお付けします。きっとよく映えますよ」
「……うん」
ルナフィエラは小さく微笑んだ。
その笑みを、横顔で捉えながら――
ヴィクトルの胸の奥にもまた、静かな満足が満ちていた。
——————
露店が並ぶ通りを抜けた先、少し人気の少ない一角に、質実剛健な装備品を扱う店があった。
鋼の刃が鈍く光り、革のグローブやポーチがきちんと整列している。
市の華やかさとは対照的に、そこだけ空気が引き締まっていた。
「シグ、ここ……?」
ルナフィエラが足を止めると、少し後ろを歩いていたシグが前に出た。
「護身用に、小型の武具を見ておけ。……ルナが完全に無力ってわけじゃないが、万が一ってのがある」
「……うん。わたしも、自分で守れるようになれたらって、思ってた」
シグは軽く頷くと、棚に並んだ短剣や小型の杖を見てまわる。
その手つきは、彼が本物の戦士であることを示していた。
触れるだけで、重量やバランス、作りの甘さをすぐに見抜く。
一方のルナフィエラはというと、装備品に囲まれるのは初めてで、少し戸惑いながらも興味深げに棚を覗き込んでいた。
「この小さいの……綺麗」
ルナフィエラが指差したのは、銀に青い装飾が施された小さな短剣だった。
刃は細く、装飾的な意匠が強い。
見た目は美しいが、実用にはやや不安が残る。
「悪くはねぇが……護身用としては頼りねぇな。こっちだ」
シグが無言で別の短剣を取り出す。
黒い鞘に収められたその刃は、飾り気はないが堅牢で、手になじみやすそうだった。
「軽い。……でも、しっかりしてる」
「精鋼製の魔導短剣だ。防御魔法の詠唱時にも使えるし、柄に魔石を埋め込めば発動補助にもなる」
「すごい……」
ルナフィエラが感心して見つめていると、シグが不意に顔を伏せ、低く呟いた。
「これを持っても、無茶だけはするな。……“自分を守ろう”って気持ちだけ、忘れんなよ」
その言葉に、ルナフィエラは目を見開いた。
「……ありがとう、シグ。わたし、ちゃんと、守るね。自分のこと」
「ああ。それでいい」
照れるわけでもなく、いつも通りのぶっきらぼうな表情で、シグは代金を支払ってくれた。
その後ろ姿を見つめながら、ルナフィエラは胸の奥がほんのり温かくなるのを感じていた。
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