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第五章:みんなと歩く日常
第72話・笑顔のあとに知ったぬくもり
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市場を一通り見てまわり、日差しも少しずつ傾きはじめた頃。
一行は、通りの外れにある石造りの小さな飲食店へと足を運んだ。
テラス席には木陰が広がり、風が吹くたびに緑の葉がさらさらと揺れる。
広場に面した店先からは、香ばしい肉の匂いやスパイスの刺激的な香りが漂い、通る者の食欲をそそっていた。
「……ここ、いい匂い……」
ルナフィエラが小さく呟くと、すかさずフィンが反応する。
「でしょでしょ!ルナ、ここにしようよ!中に入れば座れるし、僕、絶対いいとこ見つけたと思うんだ!」
「……うん」
ヴィクトルがさりげなくルナフィエラの背を支えながら店内へ導き、ユリウスが入り口の扉を先に押さえて待つ。
シグは周囲を一瞥し、背後を警戒しながら最後に続いた。
中は混み合っているわけでもなく、程よい活気に満ちていた。
木の温もりあるテーブルに案内されると、ルナフィエラは柔らかなクッションのある椅子に促されて、素直に腰を下ろす。
「……ありがと」
彼女の小さな声に、4人はそれぞれ何気なく頷いた。
メニューは多種族向けに豊富に揃っており、肉料理や魚、野菜を中心としたプレートやスープ、果実を使った冷菜などもある。
「ルナ、気になるのがあったら何でも言ってね! 僕が頼んでくる!」
「うん……でも、どれも気になって……」
メニューを前に、ルナの視線が泳ぐ。
写真付きの品書きをじっと見つめては、次のページに進み――また戻って。
「……これも気になる、でも、あっちもおいしそう……」
頬をほんのり赤らめながら、困ったように視線を彷徨わせるルナフィエラに、ユリウスが微笑んで言った。
「じゃあ、僕たちがそれぞれ頼んで少しずつ分けるのはどう?」
「えっ、でも、みんなのをもらうなんて――」
「構いません、ルナ様が食べたいものを、好きに召し上がっていただくのが第一です」
ヴィクトルが落ち着いた声で静かに添える。
「ルナが食べるなら、無駄にならねぇ。遠慮すんな」
シグもあっさりと告げ、メニューに目を落とす。
「……じゃあ、少しずつ、いただこうかな……」
そうして、それぞれが自分の好きなものを注文する流れになった。
テーブルに並んだ料理は見た目にも鮮やかで、香り高く、まるで小さな宴のようだった。
フィンはチーズがとろける熱々の魚料理をルナフィエラの前に差し出し、
ユリウスは香草と果実のサラダを取り分ける。
ヴィクトルはルナフィエラのために、スープの温度を確認してから静かに器を差し出し、
シグは骨付き肉の小さな一切れを黙ってルナフィエラの皿に置いた。
「……おいしい……」
ルナフィエラの言葉に、テーブルの空気がふっと柔らぐ。
緊張していたはずの彼女が、今はすっかり笑っている。
街に来ることを怖がっていた面影はもうなく、瞳は輝き、頬はほんのり上気している。
「みんなといると……こわくない」
ぽつりとこぼれたその言葉に、4人とも言葉を返すことはなかった。
ただ、互いに視線を交わす。
無言のまま、わずかに表情が緩む。
(――よかった)
それぞれの胸に、そんな思いが浮かんでいた。
ルナフィエラが無事に笑っていてくれる。
そのことが、何よりの報酬だった。
ランチはゆっくりと、美味しく、楽しく進んでいく。
5人で過ごすその時間は、まるで一瞬だけ訪れた穏やかな夢のようで――
いつまでも、この笑顔が続けばと願わずにはいられなかった。
飲食店での楽しいランチを終え、5人はゆっくりと席を立った。
「もう帰る?」とルナが少し名残惜しげに尋ねると、
「まだ見てない通りがあるよ」とフィンが明るく答える。
「市場の奥、骨董屋や香水屋が並んでいるあたりだね」とユリウスが地図を見ながら続け、
ヴィクトルとシグは無言で頷き、背後の警戒を緩めることなく歩き出した。
ルナフィエラはその中央で、左右をフィンとユリウスに挟まれながら軽やかな足取りで進む。
すっかり街の空気にも慣れ、目を輝かせながら並ぶ店々を見回していた。
そんなときだった。
──視界を遮るように、背の高い男が目の前に立ち塞がった。
「おやぁ、こんなとこに綺麗なお嬢さん……」
ぶつかった拍子に袋を落としてしまったルナフィエラが、小さく「あ……」と漏らす。
男の隣には、同じように粗末な装備をした仲間が2人。
酔っているのか、肩を揺らして笑っている。
「どこの貴族様だ? 珍しい髪色してるなぁ? ちょっと遊んでかない?」
その空気に、ルナフィエラの体がわずかに強張った。
その瞬間。
「下がれ」
低く鋭い声とともに、シグが間に入った。
男の胸ぐらを片手で掴むと、そのまま後ろに引き倒すように地面に押し込む。
「な、なんだお前、邪魔す──」
「ルナ様」
ヴィクトルがルナフィエラを抱き寄せ、外套の裾を広げるようにして彼女を覆う。
その動きは迷いなく、顔が見えぬようにそっと頭を抱き込むようだった。
「すまない、ルナ。注意が足りなかったね」
ユリウスが低く言って、少しだけきつめの口調で続ける。
「君が悪いわけじゃない。でも、無防備に人の波に入るのは危険だ。君の姿は目立つし、善意だけの世界じゃないんだよ」
ルナフィエラは小さく頷きながら、ヴィクトルの腕の中でそっと目を伏せた。
「怪我、ない?どこか痛いところは?怖くなかった?」
フィンが駆け寄り、心配そうにルナフィエラの手を握る。
「だ、大丈夫……ちょっと、びっくりしただけ……」
「よかった……けどもう、絶対離れちゃだめだからね」
ルナフィエラはぎゅっと握り返し、小さく「うん」と呟いた。
やがて、男たちはシグとヴィクトルの威圧に押され、悪態もつけずに退散していく。
その背中をシグは一瞥だけして見送ると、何事もなかったようにルナフィエラに向き直った。
「……戻るぞ」
その言葉に誰も逆らわず、ルナフィエラは静かに頷いた。
ほんの少し前まで笑顔で過ごしていたのに、一転して抱き寄せられ、叱られ、心配されている自分に、ルナは小さく胸を痛めた。
でも同時に――誰かが自分を守ってくれるということが、こんなにも温かいのだと、初めて知ったような気がしていた。
一行は、通りの外れにある石造りの小さな飲食店へと足を運んだ。
テラス席には木陰が広がり、風が吹くたびに緑の葉がさらさらと揺れる。
広場に面した店先からは、香ばしい肉の匂いやスパイスの刺激的な香りが漂い、通る者の食欲をそそっていた。
「……ここ、いい匂い……」
ルナフィエラが小さく呟くと、すかさずフィンが反応する。
「でしょでしょ!ルナ、ここにしようよ!中に入れば座れるし、僕、絶対いいとこ見つけたと思うんだ!」
「……うん」
ヴィクトルがさりげなくルナフィエラの背を支えながら店内へ導き、ユリウスが入り口の扉を先に押さえて待つ。
シグは周囲を一瞥し、背後を警戒しながら最後に続いた。
中は混み合っているわけでもなく、程よい活気に満ちていた。
木の温もりあるテーブルに案内されると、ルナフィエラは柔らかなクッションのある椅子に促されて、素直に腰を下ろす。
「……ありがと」
彼女の小さな声に、4人はそれぞれ何気なく頷いた。
メニューは多種族向けに豊富に揃っており、肉料理や魚、野菜を中心としたプレートやスープ、果実を使った冷菜などもある。
「ルナ、気になるのがあったら何でも言ってね! 僕が頼んでくる!」
「うん……でも、どれも気になって……」
メニューを前に、ルナの視線が泳ぐ。
写真付きの品書きをじっと見つめては、次のページに進み――また戻って。
「……これも気になる、でも、あっちもおいしそう……」
頬をほんのり赤らめながら、困ったように視線を彷徨わせるルナフィエラに、ユリウスが微笑んで言った。
「じゃあ、僕たちがそれぞれ頼んで少しずつ分けるのはどう?」
「えっ、でも、みんなのをもらうなんて――」
「構いません、ルナ様が食べたいものを、好きに召し上がっていただくのが第一です」
ヴィクトルが落ち着いた声で静かに添える。
「ルナが食べるなら、無駄にならねぇ。遠慮すんな」
シグもあっさりと告げ、メニューに目を落とす。
「……じゃあ、少しずつ、いただこうかな……」
そうして、それぞれが自分の好きなものを注文する流れになった。
テーブルに並んだ料理は見た目にも鮮やかで、香り高く、まるで小さな宴のようだった。
フィンはチーズがとろける熱々の魚料理をルナフィエラの前に差し出し、
ユリウスは香草と果実のサラダを取り分ける。
ヴィクトルはルナフィエラのために、スープの温度を確認してから静かに器を差し出し、
シグは骨付き肉の小さな一切れを黙ってルナフィエラの皿に置いた。
「……おいしい……」
ルナフィエラの言葉に、テーブルの空気がふっと柔らぐ。
緊張していたはずの彼女が、今はすっかり笑っている。
街に来ることを怖がっていた面影はもうなく、瞳は輝き、頬はほんのり上気している。
「みんなといると……こわくない」
ぽつりとこぼれたその言葉に、4人とも言葉を返すことはなかった。
ただ、互いに視線を交わす。
無言のまま、わずかに表情が緩む。
(――よかった)
それぞれの胸に、そんな思いが浮かんでいた。
ルナフィエラが無事に笑っていてくれる。
そのことが、何よりの報酬だった。
ランチはゆっくりと、美味しく、楽しく進んでいく。
5人で過ごすその時間は、まるで一瞬だけ訪れた穏やかな夢のようで――
いつまでも、この笑顔が続けばと願わずにはいられなかった。
飲食店での楽しいランチを終え、5人はゆっくりと席を立った。
「もう帰る?」とルナが少し名残惜しげに尋ねると、
「まだ見てない通りがあるよ」とフィンが明るく答える。
「市場の奥、骨董屋や香水屋が並んでいるあたりだね」とユリウスが地図を見ながら続け、
ヴィクトルとシグは無言で頷き、背後の警戒を緩めることなく歩き出した。
ルナフィエラはその中央で、左右をフィンとユリウスに挟まれながら軽やかな足取りで進む。
すっかり街の空気にも慣れ、目を輝かせながら並ぶ店々を見回していた。
そんなときだった。
──視界を遮るように、背の高い男が目の前に立ち塞がった。
「おやぁ、こんなとこに綺麗なお嬢さん……」
ぶつかった拍子に袋を落としてしまったルナフィエラが、小さく「あ……」と漏らす。
男の隣には、同じように粗末な装備をした仲間が2人。
酔っているのか、肩を揺らして笑っている。
「どこの貴族様だ? 珍しい髪色してるなぁ? ちょっと遊んでかない?」
その空気に、ルナフィエラの体がわずかに強張った。
その瞬間。
「下がれ」
低く鋭い声とともに、シグが間に入った。
男の胸ぐらを片手で掴むと、そのまま後ろに引き倒すように地面に押し込む。
「な、なんだお前、邪魔す──」
「ルナ様」
ヴィクトルがルナフィエラを抱き寄せ、外套の裾を広げるようにして彼女を覆う。
その動きは迷いなく、顔が見えぬようにそっと頭を抱き込むようだった。
「すまない、ルナ。注意が足りなかったね」
ユリウスが低く言って、少しだけきつめの口調で続ける。
「君が悪いわけじゃない。でも、無防備に人の波に入るのは危険だ。君の姿は目立つし、善意だけの世界じゃないんだよ」
ルナフィエラは小さく頷きながら、ヴィクトルの腕の中でそっと目を伏せた。
「怪我、ない?どこか痛いところは?怖くなかった?」
フィンが駆け寄り、心配そうにルナフィエラの手を握る。
「だ、大丈夫……ちょっと、びっくりしただけ……」
「よかった……けどもう、絶対離れちゃだめだからね」
ルナフィエラはぎゅっと握り返し、小さく「うん」と呟いた。
やがて、男たちはシグとヴィクトルの威圧に押され、悪態もつけずに退散していく。
その背中をシグは一瞥だけして見送ると、何事もなかったようにルナフィエラに向き直った。
「……戻るぞ」
その言葉に誰も逆らわず、ルナフィエラは静かに頷いた。
ほんの少し前まで笑顔で過ごしていたのに、一転して抱き寄せられ、叱られ、心配されている自分に、ルナは小さく胸を痛めた。
でも同時に――誰かが自分を守ってくれるということが、こんなにも温かいのだと、初めて知ったような気がしていた。
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