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第82話・頑張るしかないと思ってた
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正式に同棲を開始して2週間。
そして、C社のプロジェクトが本格始動してから、まもなく2ヶ月が経とうとしていた。
責任者としての澪の日々は、朝から晩まで目まぐるしい。
会議、調整、資料チェックに進捗管理、トラブル対応……。
すべてのタスクが彼女のもとに集まり、一日の終わりがどんどん遅くなる。
——いや、正確には、“終わったことにしている”だけだった。
毎晩、日付が変わる直前までデスクに残り、黙々と作業を続ける。
それが当たり前になっていた。
「……これ、お願いしておけばよかった……」
先回りのつもりで自分で進めていた資料作成。
だが、その間に他のメンバーの動きが滞り、全体の進行に遅れが出てしまった。
澪は慌ててフォローに回るも、結局どちらも中途半端になってしまった。
(私がちゃんと見れていなかったから……)
プロジェクトの顔として動いているはずの澪だが、「任せる」ことができない。
「お願いする」ことが、どうしてもできない。
——誰かに頼んだ瞬間、その人の時間を奪ってしまう。
だったら、自分でやった方がいい。
これまでもそうやってきたし、それでどうにかしてきた。
(……私がやらなきゃ)
責任者として当然のこと。
そう思ってきたけれど、気づけば少しずつ、体力も気力も削られていた。
そして、もうひとつ。
優先順位がつけられない。
(こっちの資料、まだチェックできてない……でも、あのメールも返信しなきゃ……)
やらなければいけないことが、いくつも重なっているのに、どれから着手すべきか判断できず、結果すべてを抱えたまま、焦りだけが積もっていく。
自分の弱さも課題も、ちゃんとわかっている。
わかっているのに、改善できない。
気づけばいつも、目の前のことに飲まれて、余裕をなくしていた。
その日も仕事が終わったのは深夜0時過ぎ。
崇雅が澪の業務を強制的に終わらせ、フロアを出た。
ふたりでビルを出る。車に乗り込むと、いつも通りの会話が始まった。
「夕飯、食べてないだろう。買って帰るか?」
「はい……そうですね。何か軽めのもので……」
日常のようで、どこか張りつめたやり取り。
けれど崇雅の優しさに、胸の奥がほんの少しだけほどける。
(……私、まだちゃんと頑張れる)
そう思いながら、澪はシートに体を預けた。
そして翌朝の通勤車内。
信号待ちのタイミングで、崇雅がちらりと澪に視線を向けた。
「……大丈夫か」
「はい、大丈夫です」
即答したけれど、自信はなかった。
たぶん顔に出ていたのだろう。
崇雅はそれ以上何も言わず、静かに水のボトルを差し出してくれた。
その日も、始業と同時に駆け回る一日が始まる。
「……すみません、お待たせしました。こちらが再修正後の進行表になります」
午前中だけで確認3件、打ち合わせ1件。
午後からはC社とのリモート会議、資料作成、部内調整のミーティングまで詰まっていた。
ふと息を吐いた瞬間、資料の数字が誤っていることに気づく。
(……あれ? こっちが最新版じゃなかった……)
急いで訂正し、再送信。
ほんの些細なミス。
けれど、それだけで自分に腹が立つ。
(優先順位が……うまくつけられてない。わかってるのに)
そんな澪の内心とは裏腹に、社内での彼女の評価は高かった。
しかし、責任者としての立場や、求められる水準は、以前とは比べものにならない。
期待に応えたいと思うほど、息苦しくなっていく。
「結城さん、これ……午後の会議用の控え、追加で必要になりました」
「……はい、すぐ用意します」
誰にも気づかれないように、机の下でスカートの布をぎゅっと握る。
笑顔を貼りつけたまま、頭の中では次々に積み重なるタスクの処理に追われていた。
そして、C社のプロジェクトが本格始動してから、まもなく2ヶ月が経とうとしていた。
責任者としての澪の日々は、朝から晩まで目まぐるしい。
会議、調整、資料チェックに進捗管理、トラブル対応……。
すべてのタスクが彼女のもとに集まり、一日の終わりがどんどん遅くなる。
——いや、正確には、“終わったことにしている”だけだった。
毎晩、日付が変わる直前までデスクに残り、黙々と作業を続ける。
それが当たり前になっていた。
「……これ、お願いしておけばよかった……」
先回りのつもりで自分で進めていた資料作成。
だが、その間に他のメンバーの動きが滞り、全体の進行に遅れが出てしまった。
澪は慌ててフォローに回るも、結局どちらも中途半端になってしまった。
(私がちゃんと見れていなかったから……)
プロジェクトの顔として動いているはずの澪だが、「任せる」ことができない。
「お願いする」ことが、どうしてもできない。
——誰かに頼んだ瞬間、その人の時間を奪ってしまう。
だったら、自分でやった方がいい。
これまでもそうやってきたし、それでどうにかしてきた。
(……私がやらなきゃ)
責任者として当然のこと。
そう思ってきたけれど、気づけば少しずつ、体力も気力も削られていた。
そして、もうひとつ。
優先順位がつけられない。
(こっちの資料、まだチェックできてない……でも、あのメールも返信しなきゃ……)
やらなければいけないことが、いくつも重なっているのに、どれから着手すべきか判断できず、結果すべてを抱えたまま、焦りだけが積もっていく。
自分の弱さも課題も、ちゃんとわかっている。
わかっているのに、改善できない。
気づけばいつも、目の前のことに飲まれて、余裕をなくしていた。
その日も仕事が終わったのは深夜0時過ぎ。
崇雅が澪の業務を強制的に終わらせ、フロアを出た。
ふたりでビルを出る。車に乗り込むと、いつも通りの会話が始まった。
「夕飯、食べてないだろう。買って帰るか?」
「はい……そうですね。何か軽めのもので……」
日常のようで、どこか張りつめたやり取り。
けれど崇雅の優しさに、胸の奥がほんの少しだけほどける。
(……私、まだちゃんと頑張れる)
そう思いながら、澪はシートに体を預けた。
そして翌朝の通勤車内。
信号待ちのタイミングで、崇雅がちらりと澪に視線を向けた。
「……大丈夫か」
「はい、大丈夫です」
即答したけれど、自信はなかった。
たぶん顔に出ていたのだろう。
崇雅はそれ以上何も言わず、静かに水のボトルを差し出してくれた。
その日も、始業と同時に駆け回る一日が始まる。
「……すみません、お待たせしました。こちらが再修正後の進行表になります」
午前中だけで確認3件、打ち合わせ1件。
午後からはC社とのリモート会議、資料作成、部内調整のミーティングまで詰まっていた。
ふと息を吐いた瞬間、資料の数字が誤っていることに気づく。
(……あれ? こっちが最新版じゃなかった……)
急いで訂正し、再送信。
ほんの些細なミス。
けれど、それだけで自分に腹が立つ。
(優先順位が……うまくつけられてない。わかってるのに)
そんな澪の内心とは裏腹に、社内での彼女の評価は高かった。
しかし、責任者としての立場や、求められる水準は、以前とは比べものにならない。
期待に応えたいと思うほど、息苦しくなっていく。
「結城さん、これ……午後の会議用の控え、追加で必要になりました」
「……はい、すぐ用意します」
誰にも気づかれないように、机の下でスカートの布をぎゅっと握る。
笑顔を貼りつけたまま、頭の中では次々に積み重なるタスクの処理に追われていた。
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