下宿屋 東風荘 2

浅井 ことは

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浮遊城

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そう言う昴の目の前には三メートルはあるであろう大岩。

「何ですかこれは?」

まぁ見ていろというので、少し下がって何が始まるのかを見る。
手を岩に置いた瞬間、小さな地震のように少し揺れ、右に岩が移動する。
出てきたのは、いつも行き来するような岩戸のような洞窟。

「庭に一枚岩があったと思ったら岩戸ですか?」

「そう見えるだろ?入れよ」

中に入っていくので後を付いていくと、朱色に塗られた橋の左手には地図。右手は池になっていた。

「地図?ですよね?狐の街の全体図といったところですか?」

「ご名答。ここから街の状態が分かるようになっていて、それを見て各々の持ち場の街に偵察に行く。お前の管轄はまだないが、俺の管轄は五分の一。見てみろ。白く光ってるだろ?」

「ええ、この色の意味は?」

「簡単に言うと白は治安が最もいい。赤は危険、黄色は街の修復中、青は様子見。今は白に近い青と海側の街の立て直しで黄色。そのくらいだな」

「信号みたいですけど」

「だろ?だが昔からそのように引き継いできた。俺が引き継いだのは、お前の親父さんからだ。で、こっちの池なんだが」

振り向くとさっきまで何も無かったのに、街の映像が映し出されている。

「この映像は俺の管轄する街だ。冬弥、お前の下宿だったか?強く願ってみろ」

頭に下宿屋を思い浮かべて目を開けると、池には下宿屋が映っていた。

「これは、いつの……」

「今だ。見たいところに視点を持っていけるし、映像も全体として見ることも可能だ。天狐の家の何処かには必ずこの場所がある。普段は水盆で部屋から見るが、誰かと一緒の時はこちらのが早い」

見える風景は、栞が下宿の中に入って行き、また出てくる。車には隆弘と賢司が荷物を詰め込んでいる場面だった。
その後出かけたので多分病院だろうと、院内を思い出す。

すると包帯に巻かれ、両手を固定された雪翔が映し出され、思わず口に手を当ててしまう。

「この子か……」

「まさかここまでとは……雪翔……」

「よく見てみろ。狐がついてるし、あれは治癒だな……誰の狐かわかるか?」

「那智の……狐です。私の紫狐も居ます」

「お?医者か?」

「回診でしょう……」

「まだ見るか?」

「いえ、もう……」

外に出て、少し深呼吸する。

昴はまだ見ているのか戻ってこないので、風に当たりながら、笑顔だった雪翔を思い出す。

「おい!おーーーい、早く戻ってこい」

そう聞こえたので何かあったのかと急いで戻ると、拘束を外され、隆弘と賢司に起こされている姿が映る。

「お!拘束外れたな」

「ええ」

「お袋さんもいるぞ?」

「あの二人はいつも一緒ですからねぇ」

「なぁ、誰だこの派手なヤツ!」

見ていると、雪翔を殴っているので相手の親なんだろうと思い、みんなの様子を見る。
雪翔は怯えており、大学生二人は雪翔を守ってくれているし、栞と母に至っては扉で挟む形をとっているので問題はない。

目を瞑り、帰りたいのをぐっと堪える。今、自分が駆けつけたとしても、何も出来ずに神気だけ当ててしまうだろうし、父がいるので安心はしている。

「昴さん出ましょう。今の現状がわかっただけでも良かったです」

「そうか?」

その後夕餉の席で、神気もほぼ揺れが少なかったと言われた時には、小皿を投げつけ推し量ったのか?と怒るものの、必要なことだったと言われ諦める。

朝、起きていつもの滝に行くと、既に昴が滝に打たれていた。

「おはようございます。天狐でも滝行をする事が有るんですね」

ザブザブと岸に戻ってきてタオルで拭きながら、まあなと言って岩場に座る。

「昨日のアレな、俺にはキツかった。沢山の罪人も見てきたし、拷問も見たことはある。だが、あんなに無垢な子供の姿を見るのは……やはり耐えれん」

「ええ、相手の子の顔が見たいものです。と言うより、祟ってやりたいくらいですけど」

その後滝行に天狐の仕事で忙しかったものの、たまに水盆で様子は見ていたので、回復に向かっていることはわかった。

今、一時的にでも下宿に居るということは、退院までもう少しだろう。
どこまで思い出してくれているのか、全く思い出してくれていないのかはわからないが、それでも早くこの腕に抱きしめたいと思いながら日々を過ごしていく。
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