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家業を手伝うために実家へ戻ると、父は私が宝石を身に着けていないことを咎めた。
「お前を守るものだ。肌身離さず持っていなさい」
父の左目を覆う眼帯が、その言葉の重みを雄弁に物語っている。
この世界には魔力が満ちていて、誰もが何らかの魔法を使える。
とりわけ魔力の強い者は、国に仕える立場に就くことが多い。
騎士団のルシアンも、その一人だ。
そして――ノクスフィア家も。
父は静かに言った。
「最近、魔獣の力が増している。エルディア領の町が被害にあったらしい」
「それって――」
「あぁ。だが、私たちの責任ではない」
「……そうかしら」
言葉とは裏腹に、胸の奥がざわついた。
自分の力不足を、否応なく突きつけられた気がしたからだ。
女性は、男性に比べて魔力量が少ない。
私がもし男性だったら――そんな考えが頭をよぎらなかったわけではない。
「近々、陛下にも報告する。お前もここへ来る時は、十分注意しなさい」
父の声は低く、重かった。
結局、私は宝石を身に着けた。
ただし、ルシアンには見えないよう、ドレスに隠れるアンクレットにして。
そして数日後。
聖女が召喚された。
どうやら以前から、聖女を呼ぶ計画は進んでいたらしい。
魔獣の凶暴化が、それを一気に現実へ押し出したのだ。
聖女。
本でしか読んだことのない存在が、まさか現実に現れるなんて。
聖女は光魔法を使い、世界を平和に導くという。
この世界には存在しないはずの、特別な力。
(本当に、そんな人が……?)
街は、聖女の話題でもちきりだった。
「聖女様が召喚されたんですって!」
家でも侍女たちの弾んだ声が、聞こえてくる。
「各地を回って、魔獣を鎮めてくださるそうよ」
「騎士団も遠征に同行するとか」
「まぁ! それじゃあ旦那様が聖女様をお守りするのね」
その言葉に、なぜか胸がひやりと冷えた。
なぜこんなに胸騒ぎがするのだろう。
聖女ご一行が出発する前にパーティーを開くらしい。
召喚のお祝いと激励を兼ねてのもので、騎士団長の夫はもちろん、私も招待された。
パーティー当日。
正装した夫と共に、城へ向かった。
馬車での会話は無く、空気が張り詰めて息苦しい。
当然、馬車から降りる時に、ルシアンのエスコートは無かった。
会場に着くと露骨にみんなが私を避けた。
こちらを見ながらひそひそと話す令嬢もいる。
ルシアンは親しい貴族と話し込んでしまったので、私は壁際に移動した。
階段の上に陛下が姿を現した。
「今日はよく来てくれた。今日の主役を紹介しよう」
陛下の後ろから、髪をなびかせて、一人の女性が現れる。
白に近い金髪が、照明の反射で光輝く。
その既視感のある姿に、心臓が跳ねた。
彼女が、夢で見た女性と重なった。
夢では部屋が暗かったから、彼女の髪色までは、はっきりとわからなかった。
それでも、夢の女性と聖女が同じだと、なぜか確信した。
聖女は祈るように胸の前で手を組む。
まるで女神が降り立ったかのような神々しさに、会場は静まり返っていた。
「私が、この世界から闇を葬ります!」
彼女の声は朗々と響き渡る。
「皆さんを闇魔法の恐怖から解放します!」
……え、闇魔法?
一斉に視線が私に集まった。
ざわめきが広がる。
誰かの「やはりノクスフィア家が……」という囁きが耳に届く。
聖女は挨拶を続けるが、もう私の耳には入ってこない。
挨拶が終わって会場が拍手に包まれる中、心臓が、危険を告げるように大きく鳴る。
この場から離れなきゃ――
気づけば、足は出口へ向かっていた。
人々の間をすり抜けて、出口へ向かう。
背中に突き刺さる視線を感じながら、私は会場を後にした。
ルシアンは先に帰ったことを何も言わなかった。
もしかして、聖女の言葉を私に聞かせるために、連れて行ったのだろうか?
「お前を守るものだ。肌身離さず持っていなさい」
父の左目を覆う眼帯が、その言葉の重みを雄弁に物語っている。
この世界には魔力が満ちていて、誰もが何らかの魔法を使える。
とりわけ魔力の強い者は、国に仕える立場に就くことが多い。
騎士団のルシアンも、その一人だ。
そして――ノクスフィア家も。
父は静かに言った。
「最近、魔獣の力が増している。エルディア領の町が被害にあったらしい」
「それって――」
「あぁ。だが、私たちの責任ではない」
「……そうかしら」
言葉とは裏腹に、胸の奥がざわついた。
自分の力不足を、否応なく突きつけられた気がしたからだ。
女性は、男性に比べて魔力量が少ない。
私がもし男性だったら――そんな考えが頭をよぎらなかったわけではない。
「近々、陛下にも報告する。お前もここへ来る時は、十分注意しなさい」
父の声は低く、重かった。
結局、私は宝石を身に着けた。
ただし、ルシアンには見えないよう、ドレスに隠れるアンクレットにして。
そして数日後。
聖女が召喚された。
どうやら以前から、聖女を呼ぶ計画は進んでいたらしい。
魔獣の凶暴化が、それを一気に現実へ押し出したのだ。
聖女。
本でしか読んだことのない存在が、まさか現実に現れるなんて。
聖女は光魔法を使い、世界を平和に導くという。
この世界には存在しないはずの、特別な力。
(本当に、そんな人が……?)
街は、聖女の話題でもちきりだった。
「聖女様が召喚されたんですって!」
家でも侍女たちの弾んだ声が、聞こえてくる。
「各地を回って、魔獣を鎮めてくださるそうよ」
「騎士団も遠征に同行するとか」
「まぁ! それじゃあ旦那様が聖女様をお守りするのね」
その言葉に、なぜか胸がひやりと冷えた。
なぜこんなに胸騒ぎがするのだろう。
聖女ご一行が出発する前にパーティーを開くらしい。
召喚のお祝いと激励を兼ねてのもので、騎士団長の夫はもちろん、私も招待された。
パーティー当日。
正装した夫と共に、城へ向かった。
馬車での会話は無く、空気が張り詰めて息苦しい。
当然、馬車から降りる時に、ルシアンのエスコートは無かった。
会場に着くと露骨にみんなが私を避けた。
こちらを見ながらひそひそと話す令嬢もいる。
ルシアンは親しい貴族と話し込んでしまったので、私は壁際に移動した。
階段の上に陛下が姿を現した。
「今日はよく来てくれた。今日の主役を紹介しよう」
陛下の後ろから、髪をなびかせて、一人の女性が現れる。
白に近い金髪が、照明の反射で光輝く。
その既視感のある姿に、心臓が跳ねた。
彼女が、夢で見た女性と重なった。
夢では部屋が暗かったから、彼女の髪色までは、はっきりとわからなかった。
それでも、夢の女性と聖女が同じだと、なぜか確信した。
聖女は祈るように胸の前で手を組む。
まるで女神が降り立ったかのような神々しさに、会場は静まり返っていた。
「私が、この世界から闇を葬ります!」
彼女の声は朗々と響き渡る。
「皆さんを闇魔法の恐怖から解放します!」
……え、闇魔法?
一斉に視線が私に集まった。
ざわめきが広がる。
誰かの「やはりノクスフィア家が……」という囁きが耳に届く。
聖女は挨拶を続けるが、もう私の耳には入ってこない。
挨拶が終わって会場が拍手に包まれる中、心臓が、危険を告げるように大きく鳴る。
この場から離れなきゃ――
気づけば、足は出口へ向かっていた。
人々の間をすり抜けて、出口へ向かう。
背中に突き刺さる視線を感じながら、私は会場を後にした。
ルシアンは先に帰ったことを何も言わなかった。
もしかして、聖女の言葉を私に聞かせるために、連れて行ったのだろうか?
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