捨てられた私は遠くで幸せになります

高坂ナツキ

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05 やってきました!ルグラン領

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 やってきました、ルグラン領!
 鉄道で仲良くなったモーリスさんの紹介だったけど、薬草学の学校があるからかペルヴィス領よりも栄えている印象ね。

「どうだい、ルグラン領は?」

「素敵です! 道行く人の顔も明るいですし、ここから見えるだけでも素晴らしい薬草ばかりです」

 まだ街の入り口だけれど、それでも目に入る商店にはペルヴィス領では見たこともない薬草が並んでいる。
 初級ポーションの材料となる薬草も並んでいるから、あの辺りの薬草は比較的安価なのかしら?

「ふふふ、それなら良かったよ。まずは身分証を作らないとね。マリー嬢は学校には興味があるかな?」

「はい! できるなら通いたいです! ……でも、他国の人間では難しいですよね?」

「そんなことはないさ。言っただろう? ルグラン領では薬師が足りていないと。だから熱心に学んでくれるのなら、出自は問わないよ」

「でしたら、ぜひ紹介してほしいです!」

 ポーションづくりもそうだけど、薬草学自体も母の手記を頼りにした独学だったから、ペルヴィス領で採れるもの以外は全然知らないのよね。
 だから、ペルヴィス領から外に出ることが出来たら、本格的に学びたいと思っていたのよ。

「ふふふ、では身分証の方は薬草学の学生で作りましょうか。……それと、こちらはお願いなのですが、商業ギルドの方でも身分証を作ってくださいませんか?」

「商業ギルド……ですか?」

「ええ、他領や他国では変わってきますが、ルグラン領ではポーションは商業ギルドの認可を得ないと販売できないのですよ」

「そう……なんですか」

 ペルヴィス領では国の認可を受けた人物が作ったものなら、誰の許可がなくてもポーションを販売できると聞いたことがあるけど、こちらでは違うのね。

「ええ。商業ギルドには専属の鑑定士がいて、ポーションの等級によって鑑定印を瓶に刻んでくれるんですよ。それによってポーションの値段が変動するのです」

「ん? ポーションの材料によって値段が変わるのではないのですか?」

「ポーションは作り手によって効果が変わりますからね。例えば見習いが作ったものと、薬草学校を卒業したプロが作るものでは素材が同じでも効果は雲泥です。ですので、ルグラン領では効果によって値段を変えているのですよ」

 へー。ペルヴィス領ではどうだったのだろう? ポーションは大量に作り出してきたけれど、販売に関してはお父様が取り仕切っていたから、その辺はわからないのよね。
 でも、言われてみると確かにとも思うわ。独学でやってきた私なんかと、これまで必死に勉強してきた人たちが同じ値段だなんて失礼だものね。

「商業ギルドに所属しないと鑑定は受けられないのですか?」

「いや、そうではないが、鑑定を受けるたびに鑑定料がかかるからね。商業ギルドに所属しておけば、鑑定料が安くなるし、卸すのも簡単になる」

「そうなんですね。お恥ずかしながら、これまでは家族がポーションの販売を行っていたので、そういったことに無知なんです」

「ふふふ、知らないのなら知っていけば良いだけだよ。……さあ、ここが薬草学校だ」

 モーリスさんが指し示した先にはペルヴィス家の屋敷よりも大きな建物……え? これが薬草学校なの? 大きすぎない?

「ええと、どこからどこまでが薬草学校なのでしょう?」

「ふふふ、外国から来た人はみんなその反応になるんだよね。すべてだよ。薬草学校には寮がついているし、実習では薬草を育てたりするから、敷地は広大なんだ」

 ええ~!? それにしたって、学校が子爵の屋敷よりも大きいだなんて……にわかには信じられないわよ。
 モーリスさんの案内で薬草学校の門をくぐると、大きな建物が何棟も建っているけれど、それ以上に目を引くのは青々とした薬草が並ぶ薬草畑。
 私が屋敷で作っていた畑はもちろん、ペルヴィス領で領民が世話をしていた畑とも比べようのない広さだわ。

「ふええ~」

「ふふふ、これからはココが君の家になるからね。いろいろと見ておくと良いよ」

「すごい……上体草に快癒草、それに心体草まで!」

 どれもこれも図鑑でしか見たことのない薬草ばかり……これなら中級ポーションどころか、上級ポーションも作れるのでは!?

「さすがは薬師だね。私なんて、ココに関わってずいぶん経つのに、見ただけでは全部同じ薬草に見えるよ」

「ああ~、根っこや葉の裏を見ると分かりやすいんですけど、そのままではわかりにくいですよね? でも、葉の枚数とか大きさとかが違うんですよ?」

「そう聞くね。素人にはさっぱりだよ……おっと、ちょうど受付の者がいたね。……こちらのお嬢さんの入学手続きをお願いするよ」

「……が、学長!? お戻りになっていたのですか!?」

 モーリスさんが手近な建物の扉を開くと、目の前にはカウンターに座っている男の人が……って、今モーリスさんのことを学長って呼んだ!?

「おやおや、ネタばらしが早いよ。マリー嬢にはもっと驚いてほしかったのだがね」

「えっ!? モーリスさん、薬草学校の学長さんなんですか!?」

「ふふふ、じつはそうなんだよ。バルシュ王国は薬草学が盛んだっていうのにルグラン領には学校がなくてね。私財を投じて作ったってわけさ」

 作った!? 学校を!? あれ? 学校ってそんな簡単に作れるものだっけ?

「お嬢さん、モーリス様は学長でもありますけど、それ以前にルグラン領の領主様なんだよ」

「おいおい、誤解を招くじゃないか。きちんと元を付けてくれたまえよ」

「我々は認めておりませんから」

「やれやれ、困ったものだね。息子に爵位を譲って、ずいぶん経つというのに」 

 ええと、モーリスさんと受付の人の話を聞くと、モーリスさんはルグラン領の元・領主様? え? それって貴族ってことよね?

「モーリスさん……いいえ、モーリス様?」

「モーリスさんでいいよ。今じゃ、ただの隠居老人だからね」

「ええと……」

「学長、それより入学手続きですよね? こちらのお嬢さんの経歴は?」

 私が困っているのがわかったのか、受付の人が話を進めてくれた。
 だって、いくら隠居したって言っても貴族に気安く話しかけていたのは変わらないじゃない。

「ああ、マリー嬢はコピク王国からの鉄道で一緒になってね。薬師だっていうから連れてきたんだよ」

「……マリーです。あと、薬師ではなく薬師見習いです」

「……学長? 手練れの薬師を連れてくると息巻いていませんでしたか?」

「いや~、やはりコピク王国の王都の薬師はプライドが高くてね~。引き抜きはできなかったんだよ~。ま、マリー嬢に出会えたのは幸運だったね」

 うんうんと、頷いているけれど、モーリスさんって薬師の引き抜きのために王都を訪れていたの!?

「はあ、お嬢さん、こちらの書類に記入を。保証人の欄は空白で良いからね」

「はい」

 受付の人が渡してくれた書類には名前、性別、生年月日、保証人、それにこれまでの経歴を書く欄があった。
 それぞれの欄を埋めていって、経歴……なんて書いたらいいのかしら? ペルヴィス領では初級ポーションと美容品ばかり作っていたのだけれど、それを書けばいいのかな?

「女子寮の部屋は空いていたよね? 生活用品なんかも運んでおいてくれないか?」

「ええ、手配しておきます。お嬢さん、学費や寮費、初回の生活費は学長が支払ってくれるけど、足りない分は自分で賄うことになっているんだ」

「え? 学費とか払わなくていいんですか?」

「私が連れてきたんだから、特待生扱いだよ。ま、気になるようならポーションをたくさん納品してくれれば、それでいいよ」

「ま、そんなわけで卒業までは大きなお金はかからないけど、休みの日の食費と生活費はかかるから、そっちはポーションを作ったお金で払ってねってこと」

 は~、至れり尽くせりだけど、いいのかな~?
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