捨てられた私は遠くで幸せになります

高坂ナツキ

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06 薬草学校での初授業

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「はい、今日の授業はここまでね。わからないところがあった者は、放課後まで熟考してから質問に来なさい」

 すごいすごい! 初めての授業だったけれど、私の知らないことばかりで、すごくためになったわ!
 私も母も初級ポーションの素材ばかりに接していたから、他の素材に関しては本当に勉強になるわ。

「マリーさん、次は実習だけど実習室はわかる?」

 授業に感動している私に話しかけてくれたのは、教員にクラスで頼るようにといわれた女生徒だ。
 
「ミシェルさん……実習室の場所は、わかりません」

「ふふ、そうよね。案内するわ」

「ありがとうございます」

 ミシェルさんは寮でも隣の部屋で、急にやってきた私の世話を焼いてくれている。
 本人曰く、社会常識がぜんぜんない私は見ていて放っておけないってことらしいけど……そんなことないわよね?

「マリーさん、初めての授業はどうだった?」

「感動しました! 私はこれまで独学でポーションを作っていたので、理論だって教えてもらえるのは面白いですね。それに全然知らない素材のことも教えてもらえて!」

「ふふ、そんな感想が出てくるなんて真面目なのね」

「? 学校に通っているのだから、真面目なのは当たり前では?」

 私はモーリスさんが学費を出してくれているけれど、他の人はわざわざお金を払って通っているのだから、真面目になるわよね?

「あ~、学校に通っている人の中には将来の婚約に有利だからって人が結構いるのよ」

「そうなんですか!?」

「バルシュ王国では薬師だったり、ポーションを扱う家が多いから、嫁にも薬草に関する知識が求められるのよね」

 へ~、コピク王国では逆に薬草に関わる女性は平民が多く、積極的に学ぶのは生活に困窮している人ばかりだった。
 まあ母の生家は貴族なのに、そんな中でも薬草やポーションを研究する家として奇異の目で見られていたらしいけど。

「もしかして、それで講義に出ている人が少ないんですか?」

「そうよ。真面目に講義に出てるのは薬師を目指している人だけ。大多数の女子生徒は、卒業資格のために必修の科目にしか出ないわ」

「はあ~。お金がもったいないですねぇ。どうせなら、勉強してポーションを作れるようになれば、お小遣い稼ぎにもなるのに……」

「ふふ、そうよね」

 入学の手続きの時に、モーリスさんや受付の人に聞いた話では初級ポーションでも大銅貨数枚の儲けにはなるらしいし、作れるようになって損はないのに。
 なんて考えていたら、実習室に着いたみたい。

「さあさあ、皆さん準備はいいですか? 本日は初級ポーションの作り方をおさらいしますからね。薬師となるのなら、初級ポーションの作り方くらいは把握しておかないとダメですよ」

 実習室でミシェルさんとおしゃべりをしつつ待っていると、入室するなり教師がこんなことを言い出した。
 少しでも時間を無駄にしたくないのかしら? 話しながらも実習室の前方に置かれている黒板に初級ポーションを作るのに必要な器具や薬草の名前を書き連ねていく。

「よかった。バルシュ王国でも、初級ポーションの作り方は一緒なのね」

「あら、マリーさんは初級ポーションを作ったことがあるのね?」

「ええ、むしろ初級ポーションばかり作っていたわ」

 ミシェルさんと話しながらも私の手は、初級ポーションを作るための器具や薬草を集め続ける。
 今回の実習では3本分の初級ポーションを作るようで、その分の薬草が用意されていた。

「うーん」

「どうしました、マリー?」

「あ、先生。こちらの薬草ですが、品質が……」

「わかりますか!? 私としても最上級の薬草を使わせてあげたいのですが、やはり学生の実習ですからね。授業料で買える薬草だと、品質が悪いのですよねぇ」

「そうなんですね。……ええと、魔力を通しても?」

「できるのならやって良いですよ」

 品質の悪い素材でポーションを作る方法も母の手記に載っていて、母曰く素材に魔力を通し活性化させることで品質を補うことができるの。
 じつは素材が良くても効果があるみたいで、私も母もポーションを作る際には日常的に使っていたテクニックなのだけどね。
 ま、先生の許可も得たから、早速やってみましょう。

 初級ポーションの素材は下体草とアルファ草、それにきれいな水。
 まずは水に魔力を通して不純物をより分ける……そうしたら、綺麗な布で濾して、と。
 あとは下体草とアルファ草に魔力を通してから、細かく刻んでフラスコに入れたさっきの水と混ぜ合わせながら火にかけて……うん、完成。

「マリーさん? なにやっているの?」

「おお、素晴らしい! まるでお手本のような手腕ですね!」

 ミシェルさんの疑問と先生の言葉が被ってしまった。私はミシェルさんに申し訳なさそうな顔をしてから、先生の方へと顔を向ける。

「みなさん、マリーが最高のポーションを作ってくれましたよ。ご覧なさい」

「先生、マリーさんは普通の手順と違う方法でポーションを作っていましたけど、正しいのですか?」

「ミシェル、マリーがやったのは上級薬師がポーションを作る際の手順なのですよ。マリー、説明できるかしら?」

「ええと、はい。まず素材全てに魔力を通すのが肝心です。ポーションは素材の魔力と作り手の魔力で効果が現れるものですが、魔力の質が違いすぎると効果が減じてしまいます」

「続けて」

「ですので、素材にあらかじめ魔力を通すことで素材の魔力を作り手の魔力に近づけることができます。その際に自身の魔力をできるだけ素材の魔力と同属性にすると効果が上がります」

「属性合わせは上級薬師の領分ですね。ですが、ただ魔力を通すだけでも効果は出るのですよ。……見本を見せましょう」

 先生がそう言うと、手近にあったアルファ草に魔力を込め始める。

「こちらが魔力を通さないもの、こちらが魔力を通しただけのもの、こちらが属性を合わせたものですね。見た目にも変化は出ていますが、実際の効果はそれ以上ですよ」

 さすが先生! 私がやるよりも遥かにスムーズに魔力を通していたけれど、やっぱりプロにとっては当たり前のテクニックなのね!
 実習室にいる他の生徒も感心しながら、先生が提示したアルファ草を食い入るように観察しているわ。

「マリー。貴女はこれまでもこうやってポーションを作っていたの?」

「はい、母から教わった方法がこれでしたので」

「素晴らしいお母さまだったのね。良いですか、薬師として大成したければ、最低でも素材に魔力を通すのは必須。名を馳せたいなら属性合わせも習得しなさい」

 先生はみんなに向かってそういうと、他の人の指導へと移っていった。

「マリーさん、すごかったのね」

「ミシェルさん……でも、私、初級ポーションくらいしか作れないんですよ?」

「なに言ってるの? バルシュ王国でも初級ポーションしか作れない薬師なんてごまんといるのよ! ねえ、作り方のコツを教えてくれる?」

「もちろんですよ!」

 こうして、私の薬草学校での生活が始まった。
 それにしても、この実習で作ったポーションはどうするのかしら? もしかして、私のものになるの?
 そうしたら、お小遣い稼ぎになるかしら?
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