捨てられた私は遠くで幸せになります

高坂ナツキ

文字の大きさ
4 / 21

04 うまくいかない(父親視点)

しおりを挟む
「クソッ、マリーの居場所はまだわからんのかっ!!」

 家令が出て行ってから数時間が経つが、一向にマリー発見の報せは来ない。
 屋敷の使用人も必要最低限の人数以外は総動員して探させておるが、いったいどこへ行ったというのだっ!

「ご主人様、ただいま戻りました」

「遅いっ! マリーはみつかったのかっ!?」

「いいえ。ですが、銀行の方から言伝をいただいたので、先に戻ってまいりました」

「……銀行から?」

「はい、ご主人様の委任状を見せたところ、家族でもない人間の口座は関与できない、とのことです」

「なっ!? マリーはワシの娘だぞ!」

「マリーお嬢様が預金を引き出す際に、魔法契約の解除も確認していたそうです。現在のマリーお嬢様の身分は平民、ご主人様とは縁が切れている状態です」

「ぐっ! クソッ!!!」

 魔法契約を確認されているのなら、銀行の方はもうダメだろう。
 銀行はギルドと同じで国をまたぐ組織だから、領主といえど踏み入ることが出来んのだ。

「鉄道や関の方はどうだ!? マリーらしき人間は通っていないのかっ!?」

「そちらの方も手を回していますが、芳しくありません」

「なぜだっ!?」

「なぜも何も、マリーお嬢様のように茶髪に茶目の人間など、この領ならずともどこにでもいます」

「だ……だが、領主の娘だぞっ! 目立つだろうっ!」

「そもそもマリーお嬢様はお披露目をされていません。薬草づくりやポーション関係で、親交のあった領民ならいざ知らず、大多数の領民はご主人様の子供はクロード様とジュリエット様しかいないと思っているでしょう」

 ぐっ、痛いところをついてくる。確かにマリーはポーションづくりしかさせていなかったから、有力者が集まるパーティーはもちろん、領民とも触れ合わせていなかった。
 領外に出るのもクロードやジュリエットばかりで、マリーは領外に出さなかったから、鉄道や関の人間がマリーのことを知らなくても無理はないだろう。

「だが、マリーくらいの年頃の人間がいたかどうかくらいは、わかるだろうっ!」

「ええ、そちらは調査済みです。鉄道と関、両方で茶髪の女性が確認されています。鉄道で向かったのは、王都方面に二人、南辺境に三人、西に一人。関の方は王都方面に一人、北に二人だそうです」

「そんなにいるのかっ!」

「マリーお嬢様くらいの年頃なら、出稼ぎに出る者も、嫁ぐ者もいますからね。人数の多い茶髪の女性なら、このくらいの人数にはなります」

「クソッ! 行き先はわかるんだろうな?」

「わかりますが、それは一時的な行き先だけです」

「はあっ!?」

「少しは考えてください。王都に向かった者が王都に居座るだけではないでしょう? そこから他の場所に移っていれば足取りを追うのは不可能です」

 家令の言うことはもっともだ。ペルヴィス領にある鉄道や関だから、こうやって聞き取りができているが、他の領、まして王都や国外で聞き取りなぞした日にはこちらの方が怪しまれてしまう。
 それに今は屋敷内の使用人を使っているから、金はかかっていないが、専門の人間を雇って捜索をすれば湯水のように金が消えていくのは目に見えている。
 裏だろうが表だろうが、捜索のプロを雇うのなら、少なくとも行き先の目安くらいはないと、金がいくらあっても足りん。

「ええい! そんなことはわかっておるわ! だから足取りのヒントを探しに行けと言っている!」

「そちらは侍従長や侍従たちに任せてあります。私は本来の仕事に戻らなければなりませんからね」

「なんだとっ!?」

「今月までの支払いはマリーお嬢様のポーションを売った代金でどうにかなりますが、これからの金策を立てなければ困るのはご主人様ですよ?」

「ぐっ!」

「領内の薬草をポーションにするために薬師を雇うのか、それとも薬草を他領にそのまま卸すのか、どちらが良いのか試算してまいります」

 家令の言っていることはいちいちもっともだ。マリーが居なくなったことで動揺していたが、そもそも家令は領の経営を手伝う人材で、こまごまとした雑用を頼む職種ではない。
 それにポーションがこれ以上増えないということは、エルザたちが浪費した分を補填するほかの手段を講じなければ、いずれペルヴィス家は破産してしまう。

「ええいっ! だったら、さっさとまとめてこい!」

「ええ、そうさせていただきます」

 家令は慇懃無礼な態度で出ていったが、能力があるだけに解雇するわけにもいかん。

「いや、それよりもワシのほうは貴族への対応を考えておかんといかんか」

 ここまでの捜索結果で領内にマリーがいる確率は非常に下がっている……ならば、マリーはいないものとして、これからの対応を考えなければならん。
 治療用のポーションは王都の騎士団に、美容関連の商品は王都を中心とした貴族の奥方に卸していたから、それがなくなったなんて知られたら暴動が起こるぞ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ
恋愛
婚約者である王太子アルベルトから、一方的に婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。 だが彼女は、涙も復讐も選ばなかった。 「婚約は、役目でしたもの。終わったのなら、それで結構ですわ」 王宮を去ったエレノアは、領地に戻り、 干渉しない・依存しない・無理をしない ただそれだけを軸に、静かに領地運営を始める。 一方、王となったアルベルトもまた、 彼女に頼らないことを選び、 「一人の判断に依存しない国」を作るための統治に身を投じていた。 復縁もしない。 恋にすがらない。 それでも、二人の選択は確かに国を安定へと導いていく。 これは、 交わらないことを選んだ二人が、 それぞれの場所で“続けられる世界”を完成させる物語。 派手なざまぁも、甘い溺愛もない。 けれど、静かに積み重なる判断と選択が、 やがて「誰にも壊せない秩序」へと変わっていく――。 婚約破棄から始まる、 大人のための静かなざまぁ恋愛ファンタジー

婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております

鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。 彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う! 「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」 「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」 貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。 それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム! そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。 ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。 婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。 そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!? 「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」 復讐も愛憎劇も不要! ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!? 優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

嫌われ者の王弟殿下には、私がお似合いなのでしょう? 彼が王になったからといって今更離婚しろなんて言わないでください。

木山楽斗
恋愛
冷遇されていたフェルリナは、妹の策略によって嫌われ者の王弟殿下ロナードと結婚することになった。 色々と問題があると噂だったロナードとの婚約に不安を感じていたフェルリナだったが、彼は多少面倒臭がり屋ではあったが、悪い人ではなかっため、なんとか事なきを得た。 それから穏やかな生活を送っていた二人だったが、ある時ロナードの兄である国王が死去したという事実を知らされる。 王位を継承できるのは、ロナードだけであったため、彼はほぼなし崩し的に国王となり、フェルリナはその妻となることになったのだ。 しかし、フェルリナの妹はそれを快く思わなかった。 ロナードと婚約破棄しろ。そう主張する妹を、フェルリナはロナードの助けも借りつつ切り捨てるのだった。

銀鷲と銀の腕章

河原巽
恋愛
生まれ持った髪色のせいで両親に疎まれ屋敷を飛び出した元子爵令嬢カレンは王城の食堂職員に何故か採用されてしまい、修道院で出会ったソフィアと共に働くことに。 仕事を通じて知り合った第二騎士団長カッツェ、副団長レグデンバーとの交流を経るうち、彼らとソフィアの間に微妙な関係が生まれていることに気付いてしまう。カレンは第三者として静観しているつもりだったけれど……実は大きな企みの渦中にしっかりと巻き込まれていた。 意思を持って生きることに不慣れな中、母との確執や初めて抱く感情に揺り動かされながら自分の存在を確立しようとする元令嬢のお話。恋愛の進行はゆっくりめです。 全48話、約18万字。毎日18時に4話ずつ更新。別サイトにも掲載しております。

私の婚約者と駆け落ちした妹の代わりに死神卿へ嫁ぎます

あねもね
恋愛
本日、パストゥール辺境伯に嫁ぐはずの双子の妹が、結婚式を放り出して私の婚約者と駆け落ちした。だから私が代わりに冷酷無慈悲な死神卿と噂されるアレクシス・パストゥール様に嫁ぎましょう。――妹が連れ戻されるその時まで! ※一日複数話、投稿することがあります。 ※2022年2月13日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

処理中です...