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レティシア・バーレント
15話 初めての友達
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競技会が終わるとすぐに社交シーズンが始まる。競技会は社交シーズンの始まりのイベントのような位置だ。
社交シーズンの開始の王家主催の夜会では、開会宣言の時に父母や兄夫婦と共に壇上に並んでいるだけで特に何もしないので、準備はいらない。まぁ、突然ダンスをしろと無茶振りされても、昔取った杵柄ですぐに踊れる。ダンスは得意なのだ。
同じように得意な剣や弓、馬術はラルフやフィーネが特訓してくれているおかげでめきめきと腕を上げている。
「レティシア様の腕ならぶっちぎりで優勝だと思います。怪我のないように気をつけて下さい」
「レティシア様はしなやかだから怪我はしにくいわ。ラルフ、あなたももっとストレッチをして、身体を柔らかくしないとダメよ」
ラルフとフィーネは同級生だったせいか、上手くやってくれている。ふたりの会話を聞いていると、フィーネの方が強そうなのがちょっと面白い。フィーネはラルフは懐が深いからそうさせてくれていると笑う。ふたりが結婚して、ずっと私に仕えてくれるといいなとこっそり思っていることはもちろんふたりには内緒だ。
そして、競技会の日がやってきた。
父の開会宣言からはじまる。
「今年もこの競技会が開催できた事を嬉しく思う。今年は、ずっと病がちで王女宮で静養していた末の姫も健康を取り戻し、この競技会の少年の部に参加する事になった。勝敗は関係なく、元気な姿を民に見てもらえたらと思っている。姫と対戦であたった者は忖度なしで戦ってほしい。それでは、今年も皆、正々堂々と楽しく戦ってほしい。ここに今年度の競技会の開幕を宣言する」
みんなからオー!と声が上がった。
競技会はほぼひと月にかけて行われる。まず少年の部、そして成人の部だ。
女性の参加も結構多い。我が国は他国に比べると進歩的で。女性の騎士も結構いる。文官、武官問わず、女性や外国人にも門戸を広げている。
しかし、近衛などはまだ男性ばかりだ。この競技会で優勝して初の女性近衛騎士になろうと思っている者も少なくない。優勝すると余程の事がない限り、希望が叶えられるらしい。
ラルフもこの大会ですべての競技に優勝し、王宮勤務を願い出たらしい。本人は私の専属を希望していたようだが、父は勘違いして近衛騎士にしてしまったようだ。
まぁ、その頃はまだ寝たり起きたりでそこまで表に出ることはなかったので、専属の護衛騎士など必要なかったから仕方ないな。
第一競技は弓だ。
皆がエントリー順に3人づつ並んで、的に向かって弓を射る。10回行い、合計の点数が良い者が優勝だ。もちろん真ん中ほど点数が良い。
競技は身分を気にしないでいいように、家名ではなく、エントリーの番号で呼ばれる。誰も私の顔を知らないので、私が王女であることは誰にもわからない。
私の番が来た。
「なんだ、こんな小さくて柔な女が出るのか? お前、弓を引けるのか? そんな細い腕で? ははは。無理無理。悪いことは言わない、恥をかく前に棄権しろ」
隣の赤い髪の大柄な男が小柄で弱っちぃ私を見て、侮蔑したような言葉を繰り出してきた。
反対側にいた令嬢がそいつを睨みつけた。
「あなた、こんな奴の言葉なんて気にすることはないわ。お互いに自分の力を出し切りましょう」
きっと高位貴族の令嬢だろう。そして赤髪の男とは知り合いで、かなり嫌っているみたいだ。
「うるせぇ! 女のくせに偉そうにするんじゃねえよ!」
あぁ、駄目な男の見本だ。こんな奴はコテンパンにして自尊心を潰してやろう。
隣の令嬢ににっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます。楽しみましょう」
「そうですわね。楽しみましょう」
赤髪の男は無視だ。
休憩を挟みながら10回弓を射た。私は10回とも真ん中に決めて、満点を出した。動いていない的に当てるなんて楽勝だ。
隣の令嬢も良い点数を出した。赤髪も良い点数だったが、私達よりは低い。
「こんなはずじゃない。何かおかしい。俺があんな女達に負ける訳がない」
赤髪は悔しそうにしている。
「あなたの驕った態度が弓に乗ったのではなくて。思い上がりもほどほどになさいませ」
令嬢はピシャリと言葉を叩きつける。
「うるせぇ! 覚えてろ!」
捨て台詞を残して赤髪は消えた。ヤカラか? 捨て台詞なんて久しぶりに聞いたわ。
令嬢は情けなそうな顔をしている。
「ごめんなさいね。あれで侯爵家の次男なの。あいつは私の婚約者なのよ。昔は良い子だったのだけれど、あいつの家は男尊女卑が酷くてね。父親や周りの男の大人達に感化されたみたい。このまま婚約を解消するか、結婚して、あの家から出して、考え方を変えさせるしかないのだけれどね」
彼女はふっとため息をつく。
「ごめんなさいね。初対面なのにこんな話をして。それにしてもあなたは凄いわ。そんなに小柄で華奢で可愛いのにカッコよかったわ。是非、お友達になって下さらない? 私はフランチェスカ・ゾイゼよ」
ゾイゼ公爵家の令嬢か。どおりで気品がある。以前の私と同じタイプだな。背が高く、美人で清廉潔白で爽やかだ。あんな男が婚約者だなんて気の毒としか言いようがない。
「もちろんです。こちらこそよろしくお願いします。同世代のお友達がいなかったからうれしいわ。私はレティシア。レティシア・バーレントよ」
手を差し出すと、フランチェスカは真っ青になり、跪いた。
「ひ、姫様とは知らず、数々のご無礼お許し下さいませ」
「立って。私は王女と公爵令嬢ではなく、フランチェスカとレティシアとしてあなたとお友達になりたいの。ダメかしら?」
顔を上げたフランチェスカはぱぁっと笑顔になった。
「有難き幸せでございます」
「もう、さっきみたいに普通に話して」
「よろしいのですか?」
「もちろんよ。私のことはレティと呼んでね」
「では、私のこともフランとお呼び下さい。レティ様、ありがとうございます」
「様も、敬語もいらないわ。フラン」
レティシア・バーレントに初めて友達ができた。
レティシア・ゲイルだった頃の友達はどうしているかしら? みんな元気にしているかな? ふと思い出してみんなに会いたくなった。
社交シーズンの開始の王家主催の夜会では、開会宣言の時に父母や兄夫婦と共に壇上に並んでいるだけで特に何もしないので、準備はいらない。まぁ、突然ダンスをしろと無茶振りされても、昔取った杵柄ですぐに踊れる。ダンスは得意なのだ。
同じように得意な剣や弓、馬術はラルフやフィーネが特訓してくれているおかげでめきめきと腕を上げている。
「レティシア様の腕ならぶっちぎりで優勝だと思います。怪我のないように気をつけて下さい」
「レティシア様はしなやかだから怪我はしにくいわ。ラルフ、あなたももっとストレッチをして、身体を柔らかくしないとダメよ」
ラルフとフィーネは同級生だったせいか、上手くやってくれている。ふたりの会話を聞いていると、フィーネの方が強そうなのがちょっと面白い。フィーネはラルフは懐が深いからそうさせてくれていると笑う。ふたりが結婚して、ずっと私に仕えてくれるといいなとこっそり思っていることはもちろんふたりには内緒だ。
そして、競技会の日がやってきた。
父の開会宣言からはじまる。
「今年もこの競技会が開催できた事を嬉しく思う。今年は、ずっと病がちで王女宮で静養していた末の姫も健康を取り戻し、この競技会の少年の部に参加する事になった。勝敗は関係なく、元気な姿を民に見てもらえたらと思っている。姫と対戦であたった者は忖度なしで戦ってほしい。それでは、今年も皆、正々堂々と楽しく戦ってほしい。ここに今年度の競技会の開幕を宣言する」
みんなからオー!と声が上がった。
競技会はほぼひと月にかけて行われる。まず少年の部、そして成人の部だ。
女性の参加も結構多い。我が国は他国に比べると進歩的で。女性の騎士も結構いる。文官、武官問わず、女性や外国人にも門戸を広げている。
しかし、近衛などはまだ男性ばかりだ。この競技会で優勝して初の女性近衛騎士になろうと思っている者も少なくない。優勝すると余程の事がない限り、希望が叶えられるらしい。
ラルフもこの大会ですべての競技に優勝し、王宮勤務を願い出たらしい。本人は私の専属を希望していたようだが、父は勘違いして近衛騎士にしてしまったようだ。
まぁ、その頃はまだ寝たり起きたりでそこまで表に出ることはなかったので、専属の護衛騎士など必要なかったから仕方ないな。
第一競技は弓だ。
皆がエントリー順に3人づつ並んで、的に向かって弓を射る。10回行い、合計の点数が良い者が優勝だ。もちろん真ん中ほど点数が良い。
競技は身分を気にしないでいいように、家名ではなく、エントリーの番号で呼ばれる。誰も私の顔を知らないので、私が王女であることは誰にもわからない。
私の番が来た。
「なんだ、こんな小さくて柔な女が出るのか? お前、弓を引けるのか? そんな細い腕で? ははは。無理無理。悪いことは言わない、恥をかく前に棄権しろ」
隣の赤い髪の大柄な男が小柄で弱っちぃ私を見て、侮蔑したような言葉を繰り出してきた。
反対側にいた令嬢がそいつを睨みつけた。
「あなた、こんな奴の言葉なんて気にすることはないわ。お互いに自分の力を出し切りましょう」
きっと高位貴族の令嬢だろう。そして赤髪の男とは知り合いで、かなり嫌っているみたいだ。
「うるせぇ! 女のくせに偉そうにするんじゃねえよ!」
あぁ、駄目な男の見本だ。こんな奴はコテンパンにして自尊心を潰してやろう。
隣の令嬢ににっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます。楽しみましょう」
「そうですわね。楽しみましょう」
赤髪の男は無視だ。
休憩を挟みながら10回弓を射た。私は10回とも真ん中に決めて、満点を出した。動いていない的に当てるなんて楽勝だ。
隣の令嬢も良い点数を出した。赤髪も良い点数だったが、私達よりは低い。
「こんなはずじゃない。何かおかしい。俺があんな女達に負ける訳がない」
赤髪は悔しそうにしている。
「あなたの驕った態度が弓に乗ったのではなくて。思い上がりもほどほどになさいませ」
令嬢はピシャリと言葉を叩きつける。
「うるせぇ! 覚えてろ!」
捨て台詞を残して赤髪は消えた。ヤカラか? 捨て台詞なんて久しぶりに聞いたわ。
令嬢は情けなそうな顔をしている。
「ごめんなさいね。あれで侯爵家の次男なの。あいつは私の婚約者なのよ。昔は良い子だったのだけれど、あいつの家は男尊女卑が酷くてね。父親や周りの男の大人達に感化されたみたい。このまま婚約を解消するか、結婚して、あの家から出して、考え方を変えさせるしかないのだけれどね」
彼女はふっとため息をつく。
「ごめんなさいね。初対面なのにこんな話をして。それにしてもあなたは凄いわ。そんなに小柄で華奢で可愛いのにカッコよかったわ。是非、お友達になって下さらない? 私はフランチェスカ・ゾイゼよ」
ゾイゼ公爵家の令嬢か。どおりで気品がある。以前の私と同じタイプだな。背が高く、美人で清廉潔白で爽やかだ。あんな男が婚約者だなんて気の毒としか言いようがない。
「もちろんです。こちらこそよろしくお願いします。同世代のお友達がいなかったからうれしいわ。私はレティシア。レティシア・バーレントよ」
手を差し出すと、フランチェスカは真っ青になり、跪いた。
「ひ、姫様とは知らず、数々のご無礼お許し下さいませ」
「立って。私は王女と公爵令嬢ではなく、フランチェスカとレティシアとしてあなたとお友達になりたいの。ダメかしら?」
顔を上げたフランチェスカはぱぁっと笑顔になった。
「有難き幸せでございます」
「もう、さっきみたいに普通に話して」
「よろしいのですか?」
「もちろんよ。私のことはレティと呼んでね」
「では、私のこともフランとお呼び下さい。レティ様、ありがとうございます」
「様も、敬語もいらないわ。フラン」
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