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レティシア・バーレント
14話 父の提案
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その夜夢を見た。
幼い私がラルフを助けている夢。これがあったからラルフは私に忠誠を誓ったのか。ラルフのいきなりの騎士の誓いに納得した。
夢の中で見たレティシアの記憶では、彼女はラルフ以外にもいろんな人を助けていた。レティシアは病弱であってもきちんと王女という立場で周りをよく見ていたのだ。さりげなく、でも確実に正しい人を救い、悪を成敗していた。私がこのレティシアになってからも、ちょくちょくそのようなことをしていたが、これは前のレティシアから引き継いだことだったのだと確信した。それならこれからもがんがんやろう。きっとレティシアがそれを望んでいるのだな。
次の日からラルフが私の傍についた。
「姫様、私のような者がお傍に控えて不快であれば、姫様の目に触れない場所でお護りいたします」
ラルフは馬鹿みたいな事を言う。
「言っている事の意味がわからないわ。どうして不快になるの?」
ラルフは困ったような顔をしている。
「私は他の騎士のように見目麗しくありません。姫様に恐怖を与えてはおりませんか」
はぁ? 何を言っているのだ。
「見目? ラルフは見目も悪くないわ。よく見ると綺麗な顔立ちをしているわよ。それに大きくて安心できるわ。ねぇ、フィーネもそう思わない?」
私の問いにフィーネは苦笑いをしている。私はラルフの腕をガシリと掴んだ。
「ラルフは私専属の騎士でしょ? フィーネと一緒に私に傍にいてくれなくちゃ困るの。私はラルフが傍にいてくれると嬉しいわ」
「有難き幸せ。命に替えても……」
「もう、大袈裟なのよ。命に替えたりしないで。ラルフの命は大切よ。誰も死んではならないの」
「姫様……」
大きくて、いかつい男が涙ぐんでいる。
「それと、私はラルフに剣や弓、馬術を習いたいの。今までも先生に習ってはいたけど、みんな女子の遊び程度にしか教えてくれなくてね。確かにラルフやフィーネが守ってくれるけど、自分でも自分の身を守れるくらいにはなりたいの。だめかしら?」
こてんと小首を傾げ、ラルフの顔を見る。
「私にできる事であればなんでもお伝え致します。ただ危険なことはお伝えしかねます」
「ええ、わかったわ。危険にならないように色々学びたいの。よろしくね」
「陛下はそのことには許可をされているのですか」
「もちろん。父はラルフを信頼しているわ」
それから、フィーネの女性らしいしなやかで強い身体作りに加え、ラルフの実践的鍛錬が加わった。剣や弓、馬術は以前から好きだ。このレティシアになってからも続けていきたいと思っていた。
ラルフとフィーネは話し合い、色々な鍛錬のメニューを作ってくれている。
以前の私は公爵家の騎士団と一緒に鍛錬していたので、ラルフの鍛錬は楽勝だと思っていたのだが、ラルフは私の身体や筋力に合った剣や弓の使い方や戦い方を考えてくれた。そして指導が超上手い。口数が少なく、無骨なはずのラルフが剣や弓、馬術の事になると立板に水のように雄弁になる。
ラルフとフィーネのおかげで私はどんどん力をつけていった。
そんなある日、朝食の席で父から思いがけない事を言われた。
「レティ、今年の競技会の少年の部に出てみないか? お前がラルフに師事していることは聞いている。ラルフや他の騎士からもお前は強いと報告が上がっておるぞ。我が国は男も女も関係なく大会に出場できる。一回戦で負けても構わん。民に元気になったお前の姿を見せたいのだ」
競技会か。そんなのがあるのだな。後ろを振り向き、ラルフやフィーネを見ると、2人とも頷いている。
「わかりましたわ。大会に出場します」
兄がテーブルをドンと叩いた。
「駄目だ。父上、何を言っているのです。もし、レティが怪我でもしたらどうするのですか! 私は反対です」
兄はえらい剣幕で父に反論している。
「まぁ、そう言うな。民はレティの元気な姿が見たいのだ。それに私もフィーネとラルフの鍛錬の成果を見てみたい。危険そうならすぐに中止させる」
「お兄様、私は大丈夫ですわ。是非参加したいです。応援して下さいませ」
ミランダから学んだ可愛い顔を作り、兄に向かって微笑んでみた。
兄は後ろに控えているラルフを見た。
「どうだ? レティは競技会に出ても怪我をしないか?」
ラルフは大きく頷いた。
「はい。姫様は誰よりもお強うございます。それにフィーネが怪我をしにくい身体になるように鍛えています。もし、姫に何かあれば、私がこの命を差し出します」
相変わらず重い。
「そ、そうか、ラルフがそこまで言うなら反対はしない。応援するよ。そうだ。競技会までの間、私もレティの鍛錬に参加しよう。ラルフ、フィーネ、いいな」
王太子に言われて断われるはずもない。なぜか兄も急遽、競技会に参加する事になり、その日から私と一緒に鍛錬することになった。
競技会は成人の部と少年の部にわかれている。我が国の成人は16歳なので、14歳の私は少年の部に、26歳の兄は成人の部に出場する。
種目は剣、馬術、槍、弓がある。私はまだやっていない槍以外の種目にエントリーすることにした。
兄は剣と馬術にエントリーした。
「ラルフは出場しないの?」
兄は首を振る。
「ラルフは昔、全ての競技でダントツの強さで優勝しているんだ。もう殿堂入りしているので参加はできないんだよ。レティはまだ小さくて覚えてないだろうけど、あの時のラルフの凄さは人間とは思えなかったな」
ラルフを見ると恥ずかしそうに俯いている。
「では、師匠の名を汚さないように私も頑張りますわ」
「おいおい、無理はするな。参加して元気な姿を見せるだけだよ」
兄はそう言うが、同じ出るなら優勝したい。
「そうでしたわね」とふんわり微笑みながら、腹の中では絶対優勝してやると拳を天に突き上げる私だった。
幼い私がラルフを助けている夢。これがあったからラルフは私に忠誠を誓ったのか。ラルフのいきなりの騎士の誓いに納得した。
夢の中で見たレティシアの記憶では、彼女はラルフ以外にもいろんな人を助けていた。レティシアは病弱であってもきちんと王女という立場で周りをよく見ていたのだ。さりげなく、でも確実に正しい人を救い、悪を成敗していた。私がこのレティシアになってからも、ちょくちょくそのようなことをしていたが、これは前のレティシアから引き継いだことだったのだと確信した。それならこれからもがんがんやろう。きっとレティシアがそれを望んでいるのだな。
次の日からラルフが私の傍についた。
「姫様、私のような者がお傍に控えて不快であれば、姫様の目に触れない場所でお護りいたします」
ラルフは馬鹿みたいな事を言う。
「言っている事の意味がわからないわ。どうして不快になるの?」
ラルフは困ったような顔をしている。
「私は他の騎士のように見目麗しくありません。姫様に恐怖を与えてはおりませんか」
はぁ? 何を言っているのだ。
「見目? ラルフは見目も悪くないわ。よく見ると綺麗な顔立ちをしているわよ。それに大きくて安心できるわ。ねぇ、フィーネもそう思わない?」
私の問いにフィーネは苦笑いをしている。私はラルフの腕をガシリと掴んだ。
「ラルフは私専属の騎士でしょ? フィーネと一緒に私に傍にいてくれなくちゃ困るの。私はラルフが傍にいてくれると嬉しいわ」
「有難き幸せ。命に替えても……」
「もう、大袈裟なのよ。命に替えたりしないで。ラルフの命は大切よ。誰も死んではならないの」
「姫様……」
大きくて、いかつい男が涙ぐんでいる。
「それと、私はラルフに剣や弓、馬術を習いたいの。今までも先生に習ってはいたけど、みんな女子の遊び程度にしか教えてくれなくてね。確かにラルフやフィーネが守ってくれるけど、自分でも自分の身を守れるくらいにはなりたいの。だめかしら?」
こてんと小首を傾げ、ラルフの顔を見る。
「私にできる事であればなんでもお伝え致します。ただ危険なことはお伝えしかねます」
「ええ、わかったわ。危険にならないように色々学びたいの。よろしくね」
「陛下はそのことには許可をされているのですか」
「もちろん。父はラルフを信頼しているわ」
それから、フィーネの女性らしいしなやかで強い身体作りに加え、ラルフの実践的鍛錬が加わった。剣や弓、馬術は以前から好きだ。このレティシアになってからも続けていきたいと思っていた。
ラルフとフィーネは話し合い、色々な鍛錬のメニューを作ってくれている。
以前の私は公爵家の騎士団と一緒に鍛錬していたので、ラルフの鍛錬は楽勝だと思っていたのだが、ラルフは私の身体や筋力に合った剣や弓の使い方や戦い方を考えてくれた。そして指導が超上手い。口数が少なく、無骨なはずのラルフが剣や弓、馬術の事になると立板に水のように雄弁になる。
ラルフとフィーネのおかげで私はどんどん力をつけていった。
そんなある日、朝食の席で父から思いがけない事を言われた。
「レティ、今年の競技会の少年の部に出てみないか? お前がラルフに師事していることは聞いている。ラルフや他の騎士からもお前は強いと報告が上がっておるぞ。我が国は男も女も関係なく大会に出場できる。一回戦で負けても構わん。民に元気になったお前の姿を見せたいのだ」
競技会か。そんなのがあるのだな。後ろを振り向き、ラルフやフィーネを見ると、2人とも頷いている。
「わかりましたわ。大会に出場します」
兄がテーブルをドンと叩いた。
「駄目だ。父上、何を言っているのです。もし、レティが怪我でもしたらどうするのですか! 私は反対です」
兄はえらい剣幕で父に反論している。
「まぁ、そう言うな。民はレティの元気な姿が見たいのだ。それに私もフィーネとラルフの鍛錬の成果を見てみたい。危険そうならすぐに中止させる」
「お兄様、私は大丈夫ですわ。是非参加したいです。応援して下さいませ」
ミランダから学んだ可愛い顔を作り、兄に向かって微笑んでみた。
兄は後ろに控えているラルフを見た。
「どうだ? レティは競技会に出ても怪我をしないか?」
ラルフは大きく頷いた。
「はい。姫様は誰よりもお強うございます。それにフィーネが怪我をしにくい身体になるように鍛えています。もし、姫に何かあれば、私がこの命を差し出します」
相変わらず重い。
「そ、そうか、ラルフがそこまで言うなら反対はしない。応援するよ。そうだ。競技会までの間、私もレティの鍛錬に参加しよう。ラルフ、フィーネ、いいな」
王太子に言われて断われるはずもない。なぜか兄も急遽、競技会に参加する事になり、その日から私と一緒に鍛錬することになった。
競技会は成人の部と少年の部にわかれている。我が国の成人は16歳なので、14歳の私は少年の部に、26歳の兄は成人の部に出場する。
種目は剣、馬術、槍、弓がある。私はまだやっていない槍以外の種目にエントリーすることにした。
兄は剣と馬術にエントリーした。
「ラルフは出場しないの?」
兄は首を振る。
「ラルフは昔、全ての競技でダントツの強さで優勝しているんだ。もう殿堂入りしているので参加はできないんだよ。レティはまだ小さくて覚えてないだろうけど、あの時のラルフの凄さは人間とは思えなかったな」
ラルフを見ると恥ずかしそうに俯いている。
「では、師匠の名を汚さないように私も頑張りますわ」
「おいおい、無理はするな。参加して元気な姿を見せるだけだよ」
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