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レティシア・バーレント
28話 アレンス王国の今
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今のアレンス王国の状況を説明すると別の部屋に案内された。
この部屋は確か、重要な来賓用の部屋だ。重要な客扱いしてもらえてちょっと嬉しい。
扉をノックする音が聞こえてきた。
「失礼致します」
まさかこの声は?
入ってきたのは宰相であるゲイルの父だった。
「お待たせいたして申し訳ありません。バーレント王国の咲き誇る花であらせられます姫様にご挨拶いたします。私にアレンス王国の宰相をしております、ハインリッヒ・ゲイルと申します」
「丁寧なご挨拶ありがとう。レティシアです」
「レティシア?」
小さな声で呟き、顔を上げた。私が不思議そうな顔をしていたのだろう。
「申し訳ありません。亡くなった娘と同じ名前だったもので……」
「そうなのですか?」
「はい。姫様とは年齢も見た目も全く違うのですが、何故か娘とよく似ているような気がして……すみません」
暗い顔になったゲイルの父は目を伏せる。
「よろしくてよ。先程王妃殿下にも同じようなことを言われましたわ。何故だかわからないが全く似ていないのにレティシア嬢の面影があると涙を流されていました」
そりゃそうだろう。外見は別人だけど中身は同じなんだもの。まとう雰囲気は同じになってしまっても仕方ない。私自身は全く気づいてなかったが、ゲイル時代の私を知る人から見たら似ても似つかないのにそっくりなのだろう。
ゲイルの父から現在のアレンス王国の様子や新しく発足した軍隊の様子、そしてクレール王国や亡国ガイストの様子を説明された。
クレール王国の女王はなんとか解毒に成功し、回復に向かっているそうだ。ガイストから来た王配は捕らえられ、国家転覆罪や勝手に戦争を始めた罪で処刑され、今は元の側近達が戻り、国連に力を借りながら再生しているという。
近隣国に分配されたガイストはそれなりに馴染んでいるようだ。王族や高位貴族以外は、皆、貧困で税の取り立てや餓えに苦しんでいたため、違う国の一部になり、それが解消されたので、喜んでいるという。
ガイスト王がこの世界に与えていた害が取り除かれて良かった。
国連もアレンス王国が攻め込まれる前に動いてくれていれば良かったのに。
私達は軍隊の鍛錬場に案内された。
「姫様、おいででしたか」
副隊長が声をかけてきた。
「陛下をお守りできず、申し訳ありませんでした」
本当に申し訳なさそうに頭を下げている。
「父には護衛もついていたのだし、あなたが気に病むことはないわ。足の怪我もずいぶん癒えたようよ。ところで軍隊はどう?」
私の問いに大きく頷いた。
「アレンス王国は身体能力の高い者が多いので、すぐに戦力になると思います。今は騎士団も一緒に鍛錬していますが、いずれ
は我が国と同じように軍隊と騎士団は分けようと思っています」
「そうね。仕事内容が異なるし、軍隊は兼業でもいいものね」
バーレント王国の軍隊はほとんどが兼業だ。みんな普段は違う仕事についていて、有事の際に軍隊として稼働する。もちろん毎日の鍛錬は義務付けられているが、騎士と違い、毎日勤務することはない。
クレール王国との戦争で騎士では軍隊を相手に戦えないことが分かったようで、皆、真剣に軍隊としての鍛錬を受けているという。
鍛錬の輪を抜け、大柄でガタイのいい青年がこちらに走ってきて、副隊長に何やら話をしている。副隊長が私の顔を見た。
「姫様、王太子殿下を紹介します」
王太子?
王太子と言われた青年は私の前に跪いた。
「バーレント王国の咲き誇る花であらせられます姫にご挨拶申し上げます。私はアレンス王国が王太子、ジークハルト・アレンスです。この度はお世話になりありがとうございます。そして陛下を危険な目に合わせてしまい申し訳ありませんでした」
ジークハルト? あの可愛かったジークハルト様なの?
私の記憶の中にあるジークハルト様と、今目の前にいるジークハルト様があまりにも違いすぎて驚いてしまった。確か最後に会ったのは彼が留学する前だった。あれから7年位経ったのか。それにしても大きく育ったものだ。
「ご挨拶ありがとうございます。バーレント王国、国王が次女、レティシアでございます」
身体に染みついたカーテシーをしてみた。
「レ、レティシア?」
おっ、ジークハルト様もレティシアに反応したようだ。
「先程から妃殿下や宰相閣下もレティシアという名前に反応しておられました。皆様亡くなったレティシア嬢に思い入れがおありのようですね」
かまをかけたわけではないが。口からそんな言葉が飛び出していた。
「あぁ、そうでしたか。そうですね。レティシア嬢は大輪の真紅の薔薇のような人でした。強く、華やかで、しかし思慮深く、頭のいい。国中の皆に慕われていました。あの人が生きていたらクレール王国に攻め込まれることはなかったと思います。武芸に秀で戦略にも秀でていました。私達は国の宝を失ってしまった……」
ジークハルト様は辛そうな表情で目を伏せた。
あの、ジークハルト様、それはかなり過大評価しすぎよ。あんな死に方だったから良いイメージを持ちすぎだわ。
私はそこまで素晴らしくないわよ。持ち上げられすぎてむず痒くなる。
しかも国の宝って? いつから宝になったのよ。
よくよく聞けば私は神のような扱いを受けているらしい。
亡くなってから3年。神格化されていた以前の自分に驚き、戸惑ってしまった。
この部屋は確か、重要な来賓用の部屋だ。重要な客扱いしてもらえてちょっと嬉しい。
扉をノックする音が聞こえてきた。
「失礼致します」
まさかこの声は?
入ってきたのは宰相であるゲイルの父だった。
「お待たせいたして申し訳ありません。バーレント王国の咲き誇る花であらせられます姫様にご挨拶いたします。私にアレンス王国の宰相をしております、ハインリッヒ・ゲイルと申します」
「丁寧なご挨拶ありがとう。レティシアです」
「レティシア?」
小さな声で呟き、顔を上げた。私が不思議そうな顔をしていたのだろう。
「申し訳ありません。亡くなった娘と同じ名前だったもので……」
「そうなのですか?」
「はい。姫様とは年齢も見た目も全く違うのですが、何故か娘とよく似ているような気がして……すみません」
暗い顔になったゲイルの父は目を伏せる。
「よろしくてよ。先程王妃殿下にも同じようなことを言われましたわ。何故だかわからないが全く似ていないのにレティシア嬢の面影があると涙を流されていました」
そりゃそうだろう。外見は別人だけど中身は同じなんだもの。まとう雰囲気は同じになってしまっても仕方ない。私自身は全く気づいてなかったが、ゲイル時代の私を知る人から見たら似ても似つかないのにそっくりなのだろう。
ゲイルの父から現在のアレンス王国の様子や新しく発足した軍隊の様子、そしてクレール王国や亡国ガイストの様子を説明された。
クレール王国の女王はなんとか解毒に成功し、回復に向かっているそうだ。ガイストから来た王配は捕らえられ、国家転覆罪や勝手に戦争を始めた罪で処刑され、今は元の側近達が戻り、国連に力を借りながら再生しているという。
近隣国に分配されたガイストはそれなりに馴染んでいるようだ。王族や高位貴族以外は、皆、貧困で税の取り立てや餓えに苦しんでいたため、違う国の一部になり、それが解消されたので、喜んでいるという。
ガイスト王がこの世界に与えていた害が取り除かれて良かった。
国連もアレンス王国が攻め込まれる前に動いてくれていれば良かったのに。
私達は軍隊の鍛錬場に案内された。
「姫様、おいででしたか」
副隊長が声をかけてきた。
「陛下をお守りできず、申し訳ありませんでした」
本当に申し訳なさそうに頭を下げている。
「父には護衛もついていたのだし、あなたが気に病むことはないわ。足の怪我もずいぶん癒えたようよ。ところで軍隊はどう?」
私の問いに大きく頷いた。
「アレンス王国は身体能力の高い者が多いので、すぐに戦力になると思います。今は騎士団も一緒に鍛錬していますが、いずれ
は我が国と同じように軍隊と騎士団は分けようと思っています」
「そうね。仕事内容が異なるし、軍隊は兼業でもいいものね」
バーレント王国の軍隊はほとんどが兼業だ。みんな普段は違う仕事についていて、有事の際に軍隊として稼働する。もちろん毎日の鍛錬は義務付けられているが、騎士と違い、毎日勤務することはない。
クレール王国との戦争で騎士では軍隊を相手に戦えないことが分かったようで、皆、真剣に軍隊としての鍛錬を受けているという。
鍛錬の輪を抜け、大柄でガタイのいい青年がこちらに走ってきて、副隊長に何やら話をしている。副隊長が私の顔を見た。
「姫様、王太子殿下を紹介します」
王太子?
王太子と言われた青年は私の前に跪いた。
「バーレント王国の咲き誇る花であらせられます姫にご挨拶申し上げます。私はアレンス王国が王太子、ジークハルト・アレンスです。この度はお世話になりありがとうございます。そして陛下を危険な目に合わせてしまい申し訳ありませんでした」
ジークハルト? あの可愛かったジークハルト様なの?
私の記憶の中にあるジークハルト様と、今目の前にいるジークハルト様があまりにも違いすぎて驚いてしまった。確か最後に会ったのは彼が留学する前だった。あれから7年位経ったのか。それにしても大きく育ったものだ。
「ご挨拶ありがとうございます。バーレント王国、国王が次女、レティシアでございます」
身体に染みついたカーテシーをしてみた。
「レ、レティシア?」
おっ、ジークハルト様もレティシアに反応したようだ。
「先程から妃殿下や宰相閣下もレティシアという名前に反応しておられました。皆様亡くなったレティシア嬢に思い入れがおありのようですね」
かまをかけたわけではないが。口からそんな言葉が飛び出していた。
「あぁ、そうでしたか。そうですね。レティシア嬢は大輪の真紅の薔薇のような人でした。強く、華やかで、しかし思慮深く、頭のいい。国中の皆に慕われていました。あの人が生きていたらクレール王国に攻め込まれることはなかったと思います。武芸に秀で戦略にも秀でていました。私達は国の宝を失ってしまった……」
ジークハルト様は辛そうな表情で目を伏せた。
あの、ジークハルト様、それはかなり過大評価しすぎよ。あんな死に方だったから良いイメージを持ちすぎだわ。
私はそこまで素晴らしくないわよ。持ち上げられすぎてむず痒くなる。
しかも国の宝って? いつから宝になったのよ。
よくよく聞けば私は神のような扱いを受けているらしい。
亡くなってから3年。神格化されていた以前の自分に驚き、戸惑ってしまった。
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