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レティシア・バーレント
31話 初恋は……(ジークハルト視点1)
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私の初恋はレティシア・ゲイル公爵令嬢。兄の婚約者だった。
ゲイル公爵は宰相で、父上とは親戚で同じ歳。仲が良かった。
小さい頃からレティシア嬢は宰相に連れられ、よく城に遊びにきていた。
私達は中庭で一緒に遊んだものだ。レティシア嬢は運動神経が良く、どんな遊び方をしても私達兄弟は全く敵わなかった。
同じ歳の兄はそれが嫌で反発していたが、私はなんでも教えてくれるレティシア嬢が大好きだった。
大きくなったらレティシア嬢に求婚しよう。レティシア嬢は公爵家のひとり娘だから、婿をとらなくてはならない。それなら私が婿になる。勝手にそう決めていた。
だから、兄と婚約が決まった時は青天の霹靂だった。まるで全てが音を立てて崩れ去ってしまったようで、私はしばらく何もする気が起きなかった。
兄は怠惰な男なのにプライドだけは高い。父はきっと兄が国王になった時に、国が心配だったので、全てにおいてパーフェクトなレティシア嬢と婚約させたのだろう。ゲイル家には同じ家門から養子をとった。
婚約してからはレティシア嬢は王子妃教育で忙しくなり、一緒に遊べなくなった。それでも時間を見つけて、一緒に弓を射たり、馬に乗ったりして遊んでくれた。
レティシア嬢はどんどん綺麗になっていった。背が高く美人でどんなドレスも着こなせる。文武両道で剣も強く、何ヶ国語も話せる。私はダメな兄に代わって、一生レティシア嬢を支えたいと思うようになった。
「レティ、私はドメル王国に留学しようと思うんだ。レティに教えてもらったおかげでドメル語は普通に会話できるし、私も魔力があるから、ドメル王国で魔法を学びたい。アレンス王国に戻ったらそれをいかして、レティや兄上を助けたいんだ」
レティシア嬢は花がほころぶような笑顔になった。
「いいなぁ。私もドメルなら留学したいわ。たくさん魔法を覚えてきてね」
「うん」
「母の実家に行くといいわ。大切な私の義弟だから大事にしてあげてと連絡しておくわね」
義弟か。辛いな。
ドメルはレティシア嬢の母の故郷だ。魔法が盛んな大国だ。この世界には5大大国という大きな国が5つある。そのうちのひとつだ。我がアレンス王国は小国。小さな農業国だ。魔法もほとんど使える者はいない。ドメルから嫁いできたレティシアの母親は貴族の小さな子供達に簡単な魔法を教えていた。
と言っても、我が国は魔法が発達していない。もともと魔法が使える素地もないので、教えてもなかなか使えるようにはならなかった。それは、子供の遊び程度なものだった。
私と兄も習っていたが、兄は「魔法なんてレティシアが習うなら俺が使えなくても問題ないだろう」と変な理由をこじつけ、すぐにリタイヤした。要するに勉強するのが嫌だっただけた。勉強が嫌い、努力が嫌い。
父や母に叱られても「レティシアがやるからいい」と将来の仕事は全てレティシア嬢に丸投げするつもりだったようだ。やっぱり私がレティシア嬢を支えなくては。立派な男になるために私はドメル王国に旅立った。まさか、それがレティシア嬢と永遠に別れることになるなんて思ってもみなかった。
レティシア嬢が亡くなったと知らせを受けた時、私の人生から色が消えた。
すぐに戻ってこいと国王である父から文が届き、慌てて帰国した。
事件は父母や宰相、騎士団長が国を留守にしている間に起こった。
兄がレティシア嬢を殺したのだ。しかも冤罪だ。取り調べも何もせず、勝手に国王代理を名乗り、処刑した。
何もしていないレティシア嬢を処刑?
初めて聞いた時、頭の中が真っ白になった。
兄は恋人の男爵令嬢を自分の妃にするために側近と一緒になり、レティシア嬢を陥れた。許せない。そんなに男爵令嬢が好きなら王太子をやめて男爵令嬢と結婚すれば良かったんだ。それに、レティシア嬢がいなくなって、兄とその男爵令嬢とで国の舵取りができると思っていたのか?
許せない。絶対許せない。
私は兄が幽閉されている北の塔に向かった。
兄は塔の最上階にある部屋に幽閉されていた。
扉を開くと兄は部屋の隅に膝を抱いて座っていた。
「兄上?」
「ジ、ジーク! 助けてくれ! レティシアが、レティシアが来るんだ。許さない、取り憑いて呪い殺してやるって」
兄は痩せていて、顔は青白く、目は落ち込んでいた。
「仕方ないよ。兄上は許されないことをしたんだ。呪い殺されても文句は言えないよ」
良心の呵責に耐えきれず心を病んだのだろうか?
見張り番に聞いてみた。
「それが、ヴェルナー様以外にもあの事件に関わった側近達もレティシア様の幽霊が出てきたと言っているようです。そりゃ幽霊になる気持ちもわかりますよ。レティシア様はさぞかし無念だったでしょう。何ひとつ悪いことなどしていない。ずっと王家に尽くした結果が罪人の汚名を着せられて断首です。あんなにお優しいレティシア様を殺したんです。犯人達を呪い殺してやりたいと思っている人間が国中にいますよ」
見張り番は涙を流している。レティシア嬢は身分に関係なく誰にでも優しく声をかけていた。城内にはレティシア嬢を慕っている者が沢山いた。皆思うことは同じだろう。
「幽霊でもいいからお会いしたいな。兄上達のところになんか出なくていいから、私達のところに顔を見せてほしい」
「本当にそうです。今までのお礼を言いたいです」
見張り番は泣き崩れてしまった。
気が狂っている兄は放っておこう。きっとこのまま狂い死ぬのだろう。身から出た錆だ。
この事件の黒幕は公爵子息と男爵令嬢で、男爵令嬢を孕ませた公爵子息が自分の子供を次期国王にして、国を意のままにするためだったという。
男爵令嬢は魅了の魔法でも使えたのだろうか? 兄はすっかり色ボケしてしまったようだ。ふたりは国家転覆罪で死刑になった。他の側近達も男爵令嬢に惑わされ、レティシア嬢を虐げた罪で廃籍され鉱山での労働刑になったという。
私は兄に代わって王太子になった。毎日毎日毎日、兄の尻拭いと王太子教育で寝る暇もなかった。
忙しい日々を送るうちあっという間に3年が経った。そんなある日、友好国だったはずのクレール王国の軍隊が突然攻め込んできたのだ。
ゲイル公爵は宰相で、父上とは親戚で同じ歳。仲が良かった。
小さい頃からレティシア嬢は宰相に連れられ、よく城に遊びにきていた。
私達は中庭で一緒に遊んだものだ。レティシア嬢は運動神経が良く、どんな遊び方をしても私達兄弟は全く敵わなかった。
同じ歳の兄はそれが嫌で反発していたが、私はなんでも教えてくれるレティシア嬢が大好きだった。
大きくなったらレティシア嬢に求婚しよう。レティシア嬢は公爵家のひとり娘だから、婿をとらなくてはならない。それなら私が婿になる。勝手にそう決めていた。
だから、兄と婚約が決まった時は青天の霹靂だった。まるで全てが音を立てて崩れ去ってしまったようで、私はしばらく何もする気が起きなかった。
兄は怠惰な男なのにプライドだけは高い。父はきっと兄が国王になった時に、国が心配だったので、全てにおいてパーフェクトなレティシア嬢と婚約させたのだろう。ゲイル家には同じ家門から養子をとった。
婚約してからはレティシア嬢は王子妃教育で忙しくなり、一緒に遊べなくなった。それでも時間を見つけて、一緒に弓を射たり、馬に乗ったりして遊んでくれた。
レティシア嬢はどんどん綺麗になっていった。背が高く美人でどんなドレスも着こなせる。文武両道で剣も強く、何ヶ国語も話せる。私はダメな兄に代わって、一生レティシア嬢を支えたいと思うようになった。
「レティ、私はドメル王国に留学しようと思うんだ。レティに教えてもらったおかげでドメル語は普通に会話できるし、私も魔力があるから、ドメル王国で魔法を学びたい。アレンス王国に戻ったらそれをいかして、レティや兄上を助けたいんだ」
レティシア嬢は花がほころぶような笑顔になった。
「いいなぁ。私もドメルなら留学したいわ。たくさん魔法を覚えてきてね」
「うん」
「母の実家に行くといいわ。大切な私の義弟だから大事にしてあげてと連絡しておくわね」
義弟か。辛いな。
ドメルはレティシア嬢の母の故郷だ。魔法が盛んな大国だ。この世界には5大大国という大きな国が5つある。そのうちのひとつだ。我がアレンス王国は小国。小さな農業国だ。魔法もほとんど使える者はいない。ドメルから嫁いできたレティシアの母親は貴族の小さな子供達に簡単な魔法を教えていた。
と言っても、我が国は魔法が発達していない。もともと魔法が使える素地もないので、教えてもなかなか使えるようにはならなかった。それは、子供の遊び程度なものだった。
私と兄も習っていたが、兄は「魔法なんてレティシアが習うなら俺が使えなくても問題ないだろう」と変な理由をこじつけ、すぐにリタイヤした。要するに勉強するのが嫌だっただけた。勉強が嫌い、努力が嫌い。
父や母に叱られても「レティシアがやるからいい」と将来の仕事は全てレティシア嬢に丸投げするつもりだったようだ。やっぱり私がレティシア嬢を支えなくては。立派な男になるために私はドメル王国に旅立った。まさか、それがレティシア嬢と永遠に別れることになるなんて思ってもみなかった。
レティシア嬢が亡くなったと知らせを受けた時、私の人生から色が消えた。
すぐに戻ってこいと国王である父から文が届き、慌てて帰国した。
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兄がレティシア嬢を殺したのだ。しかも冤罪だ。取り調べも何もせず、勝手に国王代理を名乗り、処刑した。
何もしていないレティシア嬢を処刑?
初めて聞いた時、頭の中が真っ白になった。
兄は恋人の男爵令嬢を自分の妃にするために側近と一緒になり、レティシア嬢を陥れた。許せない。そんなに男爵令嬢が好きなら王太子をやめて男爵令嬢と結婚すれば良かったんだ。それに、レティシア嬢がいなくなって、兄とその男爵令嬢とで国の舵取りができると思っていたのか?
許せない。絶対許せない。
私は兄が幽閉されている北の塔に向かった。
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扉を開くと兄は部屋の隅に膝を抱いて座っていた。
「兄上?」
「ジ、ジーク! 助けてくれ! レティシアが、レティシアが来るんだ。許さない、取り憑いて呪い殺してやるって」
兄は痩せていて、顔は青白く、目は落ち込んでいた。
「仕方ないよ。兄上は許されないことをしたんだ。呪い殺されても文句は言えないよ」
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見張り番は涙を流している。レティシア嬢は身分に関係なく誰にでも優しく声をかけていた。城内にはレティシア嬢を慕っている者が沢山いた。皆思うことは同じだろう。
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