『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月

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Ⅳ①

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 気がついたら壱兎は知らない部屋の大きなベッドの上だった。とりあえず起きてみた。調子は良さそう。目眩もしない。

 知らないパジャマを着ている自分に首をかしげる。自分は一体どうしたのだろう。その時、部屋のドアがガチャリと開いた。

「壱兎、おはよう」
 優しい低い声とともに入ってきたのは弘夢だった。壱兎は意味が分からず、ただ弘夢を目で追った。

「壱兎、覚えている?」
 弘夢がベッドに腰掛けて壱兎の髪を撫でてくる。壱兎は驚いてその手を振り払った。その動きに目を見開いて弘夢が静止する。互いに驚きが隠せない顔で見つめ合った。

「あ、えっと。発情期が来たのは分かる?」
 優しく聞かれたが、壱兎は首を横に振った。

 発情期って、どういう事だろう。壱兎は「アルファ拒食症」としてオメガフェロモンは完全に抑制剤で抑えていた。発情期も来ないはずだ。

 疑問ばかりが頭に浮かぶが混乱してしまい、言葉に出来ない。

「俺の運命の番が壱兎だ。出会ってすぐに壱兎の匂いに気が付いた。だけど、あまりに匂いが微弱で不安になり壱兎を調べた。アルファ拒食症の診断をもらっているのを知ってショックだった。生涯一人で過ごすつもりだったのだろう? ゆっくり関わっていこうと思っていた。俺のオメガとして目覚めてくれるのを待つつもりだった。なのに、アルファの威圧で壱兎の発情を誘発してしまった。ゴメン」

 項垂れる弘夢をただ見つめた。壱兎は恐る恐る自分のうなじを触った。噛み跡は、ない。

「噛んでいない。壱兎が俺を受け入れてくれたら噛ませて欲しい。生涯大切にする。番になろう」
 理解できない状況に、やっとのことで壱兎は疑問を口にする。

「待って。弘夢、待って。何で、僕が弘夢の番になるんだよ? 運命って、そんな都市伝説、有り得ないだろう? わけ、わかんねぇ」

「だって、フェロモンの匂いで明らかじゃないか。俺たちは運命だよ」
弘夢の言葉に余計に混乱する。

「そんなのお前の妄想だ……」

「壱兎には分かるはずだよ。どんなに多くの抑制剤を使っても、俺のアルファフェロモンが。それが運命ってことなんだ」

 壱兎はドキリとする。確かに弘夢からは良い匂いがする。けれど、『そうですか』と納得できるはずがない。

「匂いしか惹かれるものがないのが運命かよ。匂いさえ良ければ番になれると思ってんのか? お前、オメガフェロモン以外で僕のどこに惹かれるんだよ?」

 壱兎の言葉に弘夢が動きを止めた。その固まってしまった顔を見て、壱兎の心が急激に冷めるのが分かった。

「ばかじゃね? フェロモンの匂いにしか惹かれない相手と番かよ。そんなで一生添い遂げる相手になろうってのかよ。あ~~、やだやだ。アルファ様はお気楽ですね。もし僕と番になったとして、他に気に入った匂いが出てきたら『やっぱり運命はお前だった』ってそいつに言ってまた番の相手作るのかよ。で、僕は簡単に捨てられるわけだ。アルファなんてロクでもない!」

「そんな! 壱兎を捨てるとか無いから! こんなに惹かれる匂いは互いに唯一だろ? 運命は一人だ」
 必死な弘夢をみて壱兎は冷静になれた。

「話にならない。アルファのフェロモンを当てられればオメガは発情が誘発される。どれほど内服の抑制剤を使っていてもオメガは防御出来ない。だから緊急抑制剤注射キット持っているんだ。運命とかじゃない。むしろ発情したのが分かって緊急抑制剤を注射せず相手したっていうなら、僕の意志を無視した暴行と同じだ」

「は? 暴行? 壱兎、まって。そんなつもりじゃなくて……」

「僕に発情期期間の記憶がないのが幸いだ。不同意でそんなことしておいて運命でごまかすな。弘夢、自分のしたことをもう一回考えろよ」

 弘夢は愕然とした様子で立ち尽くしていた。

 壱兎は寝室に置いてあった自分の服に着替えて部屋を後にした。悔しくて悲しい気持ちで壱兎の心が悲鳴を上げそうだった。
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