バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ

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勘違いを続ける彼女と彼女が気になる彼。

ちょっと男子ィ、ちゃんと掃除してくださぁい。

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 うちの学校の赤点の基準は厳しい。普通は30点以下とされる赤点だが、うちの学校独自の不合格点が設けられているのだ。
 まず平均点以下はすべて赤点と判断されて課題を出される。その平均点の半分以下だった場合は補習となり、教室でみっちりお勉強する事になっている。
 そして私はその補習を免れたというのに、命じられたプール清掃。
 補習の人たちは座ってお勉強なのに、私は汚いプールの掃除をさせられるという。罰ゲームかこれ。1年生は学校生活にまだ慣れてないだろうし、3年生は受験だからって…2年生にお鉢が回ってきたのさ!

 普通科と特進科の2年で、委員会とか部活とかの特別な用がない赤点クリア組がプールサイドに集められ、デッキブラシを手渡される。そこに集まったみんな沈んだ顔をしていた。中間テストから解放されたのに、何が悲しくてプールの掃除をさせられるというのか。普通逆だろう。
 とはいえ不満をブチブチ言ってもプールはきれいにならない。私は黙々と作業を開始した。
 ふと周りを見ると、いつも彼らと一緒の桐生礼奈の姿がどこにもなかった。部活かなにかで不在なのだろうか。彼らはいつも3人一緒だったので、それが意外に思えた。
 そういえば、悠木君と一緒に作業するのは珍しいかも。いつも所属クラスが違うから別行動だから尚更。

 ──バシャッ
「ぷっ…!?」

 私がぼうっとしていたのが悪かったのだろうか。真正面からホースの水をぶっかけられてしまった。反射的にギュッと閉じていた目を開くと、そこにはやっべぇと言った顔をする男子数名がいた。彼らはびしょ濡れになっていた。どうやら掃除せずに水の掛け合いをして遊んでいたらしい。

「わ、わりぃ、こいつがホース奪おうとするから…」
「…ふざけないでくれる? 掃除して」

 睨みつけて文句を言うと、「わーこえぇ」と反省してなさそうな反応をされた。小学生じゃないんだから掃除の時間に遊ばないでよね全く……手の甲で濡れた顔を拭ったけど、髪からも滴り落ちてくる水に私は諦めた。掃除している間に乾くだろうと。

「きゃっ!」

 私が諦めてデッキブラシを握る手に力を込めると、背後で女子が悲鳴を上げた。しかしその悲鳴に恐怖の色はない。その後も「やだぁ」やら「ひゃぁ」やらなんだか恥じらうような女子の声が続く。
 異変を感じてなんだ? と振り返ると、私の視界いっぱいに白が広がった。

「うぐっ」

 洗剤に混じった汗の匂い。そして体温がほのかに感じられるそれに私は混乱した。なに!?
 持っていたデッキブラシの柄を離して、何事かと慌てていると、被せられたそれが下に引っ張られ、私はすっぽりと頭をだした。白かった視界がクリアになり、私の視界に広がったのは肌色だ。……ハリのある健康的な肌、きれいな形をした鎖骨、広い胸板……男の胸である。

「……あの」

 顔をあげれば、頬を赤らめた悠木君の顔があった。
 悠木君はナゼ半裸になっているのですか?

 自分の体を見下ろすと、そこには二回りくらい大きな体操服が被せられていた。どうやら悠木君の体操着のようである。
 ……私が水に濡れたから気遣ってくれたのだろうか。

「大丈夫だよ、そんなに水冷たくないし」

 それより半裸だと女子が色めきだつから、そっちのほうが危険だ。上から被せられた体操服を脱いで返却しようとしたら、それを抑え込まれた。

「駄目だ、お前の体操服濡れて透けてるんだって!」

 恥ずかしそうに視線をさまよわせる悠木君。うん、紳士なのはいいんだけどね…

「半裸の悠木くんよりマシでしょう。これインナーだから心配しないで」

 なにもブラがダイレクトに透けてるわけじゃない。色気のないクール素材のタンクトップが透けているだけだから見られても恥ずかしくないよ。それより上半身裸の悠木君のほうが恥ずかしがるべき案件だと思う。

「脱ぐな!」

 私がもぞもぞ脱ごうとするも、ガバッと抑え込まれてしまい身動きが取れなくなった。その直後周りで「えぇぇっ」と女子の驚きの声が飛んでくる。

「…悠木君が半裸になってるけど」
「いいんだよ俺は!」

 いやいや、よくないでしょう。
 傍から見たら私達は抱き合っているように見えるらしい。ひそひそと抱き合ってる…やっぱりあのふたり付き合ってるの? と噂する声が聞こえてきた。周りの視線を浴びて、私は冷や汗を流す。
 こ、これはちょっとまずいのではないだろうか。押し返そうにも悠木君の地肌に直接触れるのは流石に気が引けてなにもできない。
 悠木君の身体が近い。な、なんだこれ…
 ドッドッドッと脈打つそれは、悠木君のものだろうか、それとも、私……

「ゆ、」
「ちょっとちょっと夏生、それはセクハラだよー」

 私が震える声で発言しようとしたら、デッキブラシの柄の先に手を重ねたその上に顎を乗せた眼鏡がこちらをからかうようにニヤニヤしてきた。

「やーい夏生のスケベー。ここぞとばかりに森宮さんに抱きついてやんのー」
「ち、ちがっ! これは森宮が体操服を脱ごうとしたから!」
「私のせいなの!?」

 眼鏡にからかわれて首まで真っ赤にさせた悠木君が私から腕を離した。私はそれにほんの少しがっかりしつつ、悠木君の言い分に突っ込んだ。私は自分の体操着はちゃんと着てますよ!? 私が露出したがりみたいな言い方よしてもらおうか!

「いいなぁいいなぁ。俺もかわいい女の子ハグしたいなぁ」
「礼奈に頼んでみたらどうだ」

 悠木君は眼鏡のハグ相手にここにはいない桐生礼奈を生贄として差し出そうとしていた。
 えっ…そんなことしていいの? 悠木君。君はライバルに塩を送っちゃうのか…! 君は桐生さんのことが…

「なんで礼奈? …あいつ怒りそうじゃね?」

 怪訝な表情を浮かべた眼鏡は、悠木君の案を却下した。ていうかハグさせてくださいとお願いして桐生さんが受け入れてくれるかも定かじゃないもんね。

「さぁ森宮さん、俺の腕の中に飛び込んでおいでー!」

 なんで私にお鉢が回ってくるのか。
 満面の笑みの眼鏡が両腕を広げて私を迎える体勢をとっていたが、私は白けた表情を返してあげる。

「行かない」
「んもーつれないなぁ!」

 なぜ私があんたに抱きしめられなくてはならないのか。
 不満そうな顔するな、だれが行くか。ふざけてないで黙って掃除してよ眼鏡。私はふっと視線をそらすと、落としたデッキブラシを拾い上げてプール底を擦り始めた。…体操着被っていると身動き取りにくいな…暑いし。でも脱ぐなって悠木君が言うし……

「あっちょっと、なにっなにするのっ」

 背後で眼鏡が慌てている。もうなに、うるさいな…
 私が胡乱に振り返ると、そこでは悠木君が眼鏡に熱い抱擁をかましていた。

「抱きつきたいなら俺が相手してやるよ」
「やめて、いくらお前の顔がきれいでも俺…男には」
「黙れ。お前の好きにはさせねえぞ」

 目が笑っていない悠木君が抱きしめる腕に力を込めると、眼鏡が恥じらうふりをしている。なんだ、まんざらじゃないのか。

「きゃー!」

 ギュウギュウに抱き合う男子2人を見た女子が黄色い声を上げる。テンション上がった一部の女子がはしゃいでいるのだ。

「うるせぇ! 騒ぐな女子!」

 騒ぐなっていうか、悠木君も眼鏡も掃除しようよ。私早く掃除終わらせたい。
 ふたりは様子を見に来た先生に叱られるまで、なにやらわちゃわちゃ戯れていた。私は早く終わらせたいので彼らを無視してモクモク作業に没頭したのである。


□■□


「悠木君、暑いからそろそろ脱ぎたい」
「しかたねーだろ、我慢しろ!」

 プール掃除を終えてプール場から移動する際、私が悠木君に体操着を返そうとしたら却下された。
 もういいじゃん、掃除終わったんだしさ。

「半裸で歩くのは感心しないよ」
「俺は男だからいいの」

 いや、そういう問題じゃなくて…悠木君とすれ違う女子たちのテンションが爆上がりで、彼女たちの視線がすごいんだよ。変なトラブルが後々舞い込んできそうだからさ……ただでさえ悠木君は変な女に絡まれる呪いにかかっているんだから、色気の無駄遣いはやめたほうがいいと思うよ。
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