バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ

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勘違いを続ける彼女と彼女が気になる彼。

熱が上がるのはお前のせいだ【悠木夏生視点】

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「悠木くーん」

 しつこい逆ナンにうんざりしながら淡々と断っていると、背後から森宮の声が聞こえた。俺はすぐさま逆ナンしてきた女達から離れると、駆け寄ってきた森宮のもとに近づく。
 どんな水着で谷間を見せつけられても、シンプルな夏用パーカーと短パン姿の森宮のほうが可愛い。華やかに装った女よりも、労働で汗をにじませた森宮のほうが魅力的だと思うのは俺が盲目になりすぎているせいだとわかっている。それでも彼女から目をそらせない。

「いま空いてるからふたりとも休憩行ってきていいってさ。賄いは海の家の冷蔵庫に置いてあるからね」

 何かと思えば休憩をわざわざ知らせに来てくれたらしい。いつもはバラバラの休憩なのに今日は一緒に休憩できるのか、と嬉しくなった俺だったが、森宮は軽く手を上げて踵を返してしまった。

「え? お前どこ行くんだ?」

 呼び止めると、彼女は背を向けたままその場で履いていたサンダルを脱いでいた。砂浜は火傷しそうなほど熱々になっており、サンダルがないときついのに大丈夫か? と心配したのもつかの間、彼女は信じられない行動に出たのだ。
 ジャッと音を立てて下げられたのは着ていたパーカーのチャックの音だ。開かれたそれを脱いだ彼女は裸…いや、白い紐の結び目が見えた。細い肩と真っ白い背中が俺の目に飛び込んだ。柔らかそうな曲線を上から下までまじまじと観察していると、森宮は続いて短パンをするりと脱いだ。白の水着がこれまた丸い尻を覆い隠しているが、その破壊力は抜群である。

「海で泳いでくるのさ!」

 くるりと振り返った彼女は真っ白なビキニ姿で、自信満々に泳いでくる宣言をしてきた。俺はそれにぽかんと固まるほかない。
 えっ…今こいつなんて言った? 泳ぐ? その心もとない水着で? ていうか白ビキニってお前…なんなのそれ、俺の理性を破壊しに来てる?

 三角ブラで包まれた胸はふんわり谷間を描いている。あっ、意外と胸大きいな森宮。めっちゃ柔らかそう……とぼんやりしていた自分だったが、ふと我に返った。
 ──だめだ。こいつを一人にしたら危険だ。いや、俺の理性も崩壊間近で危険だけど、他の男にナンパされてアレコレされる危険性もあるからだめだ…!

 ぐっと歯を食いしばると俺は彼女に近づき、腕にかかったパーカーを取り上げて彼女の肩に掛けた。森宮はキョトンとして俺を見上げてくる。無防備なその表情に俺は別の意味でめまいがしそうだった。

「……なに?」
「危険だ」
「熱中症のこと? 海入ってれば平気だよ。…悠木君、顔が赤いよ、頭クラクラしない?」
「…誰のせいだと」

 誰のせいだと思ってんだお前は! 好きな女が目の前でそんな格好してたら平然としていられるわけがないだろうが!!
 ほらまた無防備に俺の首に触れて熱とか測ってさ! そうじゃないだろ! 俺はお前のせいで熱が上がってんの! 熱中症じゃないの! お前は襲われたいのか!

「ばんじゅうと売上を店に置いたら海においでよ。一緒に泳ごう」

 そう誘われたら返事は「はい」か「YES」の二択しか無いだろう。
 ダッシュで海の家に引き返すと、折返しダッシュでずざぁとスライディングした。俺がいない間に男に絡まれたらかなわん!
 よし、ナンパ男に絡まれていないな!

「早かったね」

 森宮は俺の手を握ると海に向かって駆け出した。もうその後姿からしてやばい。
 今までたくさんの水着の女見てきたけど、それと比較して森宮の水着姿はほんとやばい。超絶かわいいし、エロいし。…本人にはエロいとか絶対言えないけど。絶対引かれると思うから。

「冷たくて気持ちいいね」

 くるっと振り返ったその眩しい笑顔よ。ビキニから横乳が見えて、視線がそっちに向かっちゃう。森宮さん、ほんと勘弁してください。

 森宮に俺の邪な感情を知られたくなくて、空いた手で目元を隠していた。うんそうだな、とかそんな返事を返したつもりだけど、俺の声はくぐもって言葉になっていないうめき声を漏らすだけだった。
 あぁ、なんかクラクラしてこのまま気絶してしまいそうだ。

「大変だ。早く海に入ろう」

 熱中症になりかけと未だに誤解されている。
 そうじゃないんです。お前のせいなんですと言えたらどれだけよかったでしょう。


■□■


 朝から晩まで森宮と一緒にいるのは楽しいけど、同時につらすぎる。これが交際している間柄なら、思う存分いちゃつけるんだろうけど、そうじゃないから尚更辛い。
 オーナーの奥さんから念押しされたとおり、俺達は健全な生活を送っていた。朝から夕方まではバイトして、夜は別の部屋で寝る。何も起きるはずもない。むしろ奥さんが森宮と寝てくれているから間違いを起こさずに済んでいるんだと思っている。下手したら無意識に手を出してしまいそうになり、俺は自分の理性を信じられなくなっていた。

 真剣な眼差しで課題を片付けている森宮の顔を正面から眺め、かわいいおでこにキスしたいな、二の腕が柔らかそう…とまた邪なことを考えていると、俺の視線に気づいた彼女が視線を上げた。

「悠木君わかんないところがあるの?」

 上目遣いで尋ねられてドキッとした俺はサッと彼女から目をそらしていた。何その顔、やっば…
 ていうか、格好も格好だよ。夏だからってタンクトップに短パンって…男の前なのに薄着過ぎない? 視線がそっちに向かっちゃうじゃないか。

「……あのさ、お前薄着過ぎねぇ?」
「…え? そう? 悠木君と似たような格好しているでしょ? 全然薄着じゃないよ」

 彼女は肩をすくめて「考えすぎだよ」と言った。
 考えすぎじゃない、お前が無防備すぎなんだ。
 そう言ってやろうかと思ったけど、彼女は奥さんからのスイカの誘いに浮足たった様子で席を離れてしまった。

 ……この夏で彼女と急接近しようと思ったけど、思ったようにうまく行かないもんだな。
 彼女を傷つけずに、かつ特別な存在になるためにはどうするべきなのか。……大輔に相談したら面白おかしくおちょくられそうだし、あいつふざけて森宮にちょっかいかけるからなぁ。一度森宮から眼鏡のレンズ破壊されなきゃおとなしくならないだろうか。

 俺はここにはいない親友のことを思い出し、深々とため息を吐き出した。


■□■


「夏生、これ美玖ちゃんとやってこい」

 バイト最終日を終えたその日の晩、民宿の廊下でオーナーに呼び止められたかと思えば、花火セットを手渡された。

「見てていじらしいからな。告白の一つくらいぶちかましてこい!」

 ベシンと背中を叩かれた俺は口の中をカラカラにさせながら森宮を花火に誘った。

「オーナーが花火買ってきたって」

 オーナー家族は花火しないの? と首を傾げる彼女を連れて近くの海岸に向かった。2人きりになれるきっかけを作ってくれたオーナーの気遣いに感謝しよう。
 砂浜に降り立つと袋から花火を取り出した。花火は小学生以来だ。あの頃は純粋にはしゃげたが、俺は別のことで緊張していて花火を楽しむ余裕が無い。

「わぁ、きれいな紫色」

 海の音とともに彼女のはしゃぐ声が聞こえた。真っ暗闇な砂浜に灯る花火。その明かりに照らされた彼女はいつもと雰囲気が違って見えた。いつもいる場所と違うからか、夜だからかはわからない。
 普段は可愛らしい彼女がとても綺麗に見える。俺は花火ではなく彼女を見ていた。視線をそらせなかったのだ。一分一秒でも目をそらすのが勿体ない。彼女をずっと見ていたかった。

「な、なに…?」

 俺の視線にビビったのか、森宮の声が怯えていた。
 びっくりさせてしまったかなと少し反省したけど、それでも視線をそらせなかった。

「……綺麗だな、と思って」
「は、花火が」
「違う。…森宮が」

 俺の口からスラスラと飛び出した口説き文句。
 森宮は目を丸くして俺の目を見返していた。彼女の瞳の中でチカチカと花火の炎が点滅している。
 やっぱり綺麗だ。
 花火が全て燃え尽きて真っ暗になるまで、俺は彼女から視線を外さなかった。新たに花火に火を灯すと、森宮は恥ずかしそうに視線を伏せてしまったけど、そんな彼女も可愛いと思ってしまった。


 民宿までの道中、隣で黙り込む彼女の手に触れた。少し触れて離れて、次は大胆に触れて、指を絡めて遊ぶようにして。森宮が触れられることを嫌がっていないことを確認するとその小さな手を握りしめた。
 そこで「好き」の一言を言えたら良かったけど、臆病な自分が顔を出してなにも言えなかった。彼女を怯えさせてしまうかもしれない、拒絶されるかもしれないと怖くなったのだ。

 ──今はただ、こうして彼女と手を繋いで歩けるだけでも俺には十分だった。
 まだ民宿にたどり着かなければいいな。もっと長い時間2人でいられたらいいなと願っていた。
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