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勘違いを続ける彼女と彼女が気になる彼。
暑いのは太陽だけのせいじゃない【悠木夏生視点】
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俺と森宮は所属している科もクラスも違う。なので学校にいても顔を合わせられずに終わる日だってある。同じクラスだったなら、もっと一緒にいられるのにと不満に思うことは多々ある。
森宮よ、なんでお前は普通科なんだ? とどこぞの戯曲のセリフみたいなことをボヤいても仕方がない。俺から近づくしかないのだ。
森宮が俺のことを男として意識していないってのは知っていた。何度も目の前で言われたし…その度に心折れそうになった。
しかしここで引くのは癪だ。この夏休みで俺は彼女と接近する! あわよくば交際にこぎつけたい!
そう思って、彼女が住み込みでバイトするという海の家のバイトに俺も応募した。森宮から念押しされた通り、夏のたこ焼き売りは暑いを通り越してめまいがする。去年これを森宮一人でこなしていたと考えると尊敬すらしてしまう。
周りを見渡せば水着姿で海を楽しむ人が大勢いるのに、自分の好きな子は汗を流しながらたこ焼きを焼いている。その姿を見ていたらサボっていられないなと言う気にさせられて、俺は呼び込みに力を入れた。
「たこ焼きいかがですかー? ひとつ450円でーす」
森宮からは交代でたこ焼きを売り歩こうと言われたが、俺はそれを却下した。
売り歩いている最中に変な男が寄ってきたらどうするんだ。海の家ならオーナーが居るから、いざという時はオーナーが庇ってくれる。だけど、目の届かない砂浜で無理やり拉致されてしまったらと考えただけでゾッとする。
……それ考えたら去年のアイツはよくも無事だったな…
「ねぇねぇお兄さん」
斜め下から声をかけられて首をそちらに動かすと、両腕でギュッと胸を持ち上げてやけに谷間を強調する女がいた。
俺はまたか…と少々辟易していた。夏の海で水着だからって開放的になりすぎなんじゃないか? 自分の体を安売りし過ぎだろう。
「お兄さんかっこいいね、モデルかなにかしてるの?」
「してませんけど」
客じゃないなら相手にする必要ないな。
俺はすっと横を通り過ぎようとしたのだが、女の手が腕に回ってきて引き止めにあった。
「ねぇ、せっかく海にいるのにたこ焼き販売とかダサいって。バイトなんかサボって遊ぼうよぉ」
「たこ焼き買わないならどっかに行ってください」
「えーつめたぁい」
これは仕事なんだ。そもそも仕事にダサいもなにもない。そこにあるのは賃金と労働力の交換だけだろう。
どこの誰かも知らない相手と遊んで何が楽しいというのか。賃金も発生しないのに……なんか俺も思考が森宮ナイズされてるな…。
「じゃあ全部買うから遊ぼ?」
「遊びません」
「なによ、つまんないの」
冷たく振り払うと背後で悪態つく声が聞こえたがいつものことだ。ああいう風に甘い声で近づいてくるやつはだいたい二面性があるんだ。相手にするのも時間の無駄。
「たこやき3つ頂戴」
「ありがとうございます。お支払い方法は?」
家族連れ客がたこ焼きを買い求めにやってきたので俺はすぐに商売モードに切り替えた。しっかり稼がなくては。森宮にかっこ悪い姿を見せたくない。
──去年の夏、俺は小学校時代からの友人に誘われてこの海にやってきた。
高校が別々になってしまった友人同士で久々に遊べることを楽しみにやってきたんだけど、アイツらは逆ナンされたことに舞い上がってしまっていた。俺は男だけで遊びたかったけど、友人たちは目先の女子に夢中になっていた。それを見てガッカリした俺は彼らから離れて行動することにした。
その時偶然、たこ焼きを売り歩いている森宮と遭遇したんだ。バイトにしか興味のない、裏表のない森宮の側が居心地よくて帰るまで彼女の側にいたんだっけな。
友達付き合いも、子どもの頃はまだ良かった。小学校までなら色気づいてるのは一部の女子だけだったから。
状況が変わったのは中学に入った辺りだろうか。俺の周りに集まるのは容姿に惹かれた女か、俺を女を引き寄せるための道具として利用する男の二通りだった。
そうじゃない人間は俺の周りにいる人間を恐れて遠巻きにして見てくのが大多数だった。小学校時代からの友人たちは会えば普通に話してくれるけど、どこか距離が出来て俺だけ孤立しているような気がしていた。友達のはずなのに彼らから妬まれている空気すら感じ取っていた。
そんな中で親しくなったのが桐生礼奈だ。同じ委員会で会話することがあり、なんだか同じ空気を感じ取ったのだ。
彼女もまた、恵まれた容姿のため憧れる一方でひどく妬まれていた。友人だと思っていた女子たちに裏切られるなど手酷い行為も受けていたし、その逆で男からのつきまとい行為に悩まされていたとも言う。
俺が礼奈と一緒にいることが増えたのは必然だった。仲間意識のようなものが芽生えたのだ。それに彼女と一緒だと、それがガードとなり女子に言い寄られる回数が減ったのが大きかった。
普通に学校に通っているだけなのにどうしてこうも視線にさらされて遠巻きにされたりしなきゃならないのだろうと腐ったりしなかったのは似た境遇の彼女が近くにいてくれたお陰だ。
礼奈は性別を超えた友人だと俺は思っている。口には出さないけど礼奈もきっと同じだ。
環境が変わって、人が変われば少しは改善するかなと期待して入学した高校。
──高校はそれ以上だった。
入学当初から無駄に注目を浴びて、よく知らない女に付きまとわれ、中学の頃の同級生に同窓会と言われて出てきたら合コン会場だったりと、他にもそういうことが繰り返され……俺は人間不信になりそうだった。
そうならなかったのは俺の苦労を自分のことのように理解している礼奈と、高校で親しくなった大輔のお陰だった。大輔は最初から人当たりがよく、軽薄そうに見えて実は友情に厚い男だ。俺がアイツを信用するのに時間はかからなかった。
礼奈も同じだ。俺と同じく大輔に色々と救われた礼奈は大輔に友情以上の感情を抱いている。3人でいたらそれだけでいい。もしも礼奈と大輔がくっついても、おまけとして一緒にいることを許してもらえるだろうと思っていた。
俺は自分の身と心を守るために殻に閉じこもろうとしていたが、そこに割って入ってきたのが森宮だ。
最初は変な女だなと思っていたけど、その一言では済まないのが森宮美玖という人間である。親しくもなんともなかった俺のことを庇ってくれたのは一度や二度じゃない。
森宮にどんな心積もりがあったのかは知らないが、彼女が俺のためにしてくれたことはなかなかできることじゃないと思う。
彼女は見返りを求めることなく俺の心の隙間にグイグイ入ってきて、今では心の大部分を占めていた。本人はその気はまったくないのはわかってる。なんと言ってもバイトという金稼ぎにしか興味のない森宮である。さすが普通科の変人と呼ばれる女。
そこが安心感であったけど、今ではもう少し俺に興味を持ってほしいと思ったり…少しくらい意識してほしい…
「ねぇねぇ、お姉さんここでは毎日働いてるの?」
持ち出したたこ焼きが全部売れたので在庫を取りに海の家に戻ると、大学生っぽい複数の男たちに声をかけられている森宮の姿があった。彼女は焼き途中のたこ焼きの生地を眺めながら気のない返事をしている。
「期間限定ですね」
「女子高生?」
「まぁ」
「休憩いつ?」
このナンパ野郎ども…! 俺の目の前で堂々とナンパしやがって…!
男たちの欲望にまみれた視線で彼女を汚されたくなかった俺は森宮の体を背後から抱き寄せた。
「あの、商品買わないなら長居しないでもらえますか? 他のお客の迷惑になるので」
森宮に手出しはせねぇぞ…!
ギッとナンパ大学生たちを睨むと、相手は眉間にシワを寄せていたり、とたんに白けた顔をして「なんだよ、彼氏付きかよ」とさっさと立ち去っていった。
ほーら海の家でもこうだ! 砂浜だと更に危険度アップ間違いなかっただろう! 俺の読みは的中した!
「悠木君、生地が焦げちゃうからそろそろ離して?」
腕の中にいた森宮が首を後ろに倒して俺を下から見上げてきた。
今更ながらに大胆なことをしてしまった自覚が出てきた俺は恥ずかしくなって素早く手を離す。
「! ご、ごめん!」
…俺はこんなにも動揺しているのに森宮は平然としている。少し位ドキッとしてくれても良くない?
それとも俺って男としての魅力ない?
現実に打ちのめされた俺は少しだけ凹んだ。
■□■
バイト開始して数日経過しても炎天下の暑さには慣れない。初日は着用していたTシャツを脱いで海パン一枚になった俺は水分補給した後再度たこ焼きを売り出しに出かけようとしたのだが、手前で森宮から呼び止められた。
「悠木君、日焼け止め塗ったほうがいいよ。待って私の日焼け止め貸してあげるから」
そう言われて手のひらにぶにゅっと大量に日焼け止めを出された。あぁ、塗る面積が広いからね…と思って自分の体に塗ろうとしたら、彼女は信じられない一言を口にした。
「背中塗ってあげるね」
「え」
小さな手が俺の背中にぺとりとくっつく。すり込むように日焼け止めを塗り込まれていた俺は固まる。
「去年日焼け止め塗っても焼けちゃったから、こまめに塗り直したほうがいいよ」
「……」
森宮…お前、彼氏でもない男にそういうことしたらだめだろう…!
ブワッと俺の中の熱が暴れて、訳のわからんことを口に出しそうだったので俺はこらえる。その間も俺の肩から腰にかけて彼女の手の感触がして俺の体は別の意味で熱くなった。
「あれっどうしたの! 顔が赤いよ!?」
森宮が「熱中症!?」と慌てて手を伸ばして首の体温を確認しようとしたのでその手をがしりと掴んで止めた。そんな事されたら俺はもう抑えが効かなくなる。
「…大丈夫」
「本当に? 無理してない? 私がたこ焼き売りに行ってもいいんだよ?」
「本当に大丈夫」
手のひらに残ったままの日焼け止めをやや乱暴に身体に塗り込んだ俺はばんじゅうを首から下げて海の家から出ていく。
森宮と接近したいからこのバイトしているけど、彼女を傷つけたいわけじゃないんだ。だから自分の欲を殺して抑え込んでいるのに彼女は簡単に抑え込んでいる理性を外そうとしてくる。
俺、理性抑えて無事にバイト終了できるかな……。
森宮よ、なんでお前は普通科なんだ? とどこぞの戯曲のセリフみたいなことをボヤいても仕方がない。俺から近づくしかないのだ。
森宮が俺のことを男として意識していないってのは知っていた。何度も目の前で言われたし…その度に心折れそうになった。
しかしここで引くのは癪だ。この夏休みで俺は彼女と接近する! あわよくば交際にこぎつけたい!
そう思って、彼女が住み込みでバイトするという海の家のバイトに俺も応募した。森宮から念押しされた通り、夏のたこ焼き売りは暑いを通り越してめまいがする。去年これを森宮一人でこなしていたと考えると尊敬すらしてしまう。
周りを見渡せば水着姿で海を楽しむ人が大勢いるのに、自分の好きな子は汗を流しながらたこ焼きを焼いている。その姿を見ていたらサボっていられないなと言う気にさせられて、俺は呼び込みに力を入れた。
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森宮からは交代でたこ焼きを売り歩こうと言われたが、俺はそれを却下した。
売り歩いている最中に変な男が寄ってきたらどうするんだ。海の家ならオーナーが居るから、いざという時はオーナーが庇ってくれる。だけど、目の届かない砂浜で無理やり拉致されてしまったらと考えただけでゾッとする。
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「ねぇねぇお兄さん」
斜め下から声をかけられて首をそちらに動かすと、両腕でギュッと胸を持ち上げてやけに谷間を強調する女がいた。
俺はまたか…と少々辟易していた。夏の海で水着だからって開放的になりすぎなんじゃないか? 自分の体を安売りし過ぎだろう。
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「してませんけど」
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俺はすっと横を通り過ぎようとしたのだが、女の手が腕に回ってきて引き止めにあった。
「ねぇ、せっかく海にいるのにたこ焼き販売とかダサいって。バイトなんかサボって遊ぼうよぉ」
「たこ焼き買わないならどっかに行ってください」
「えーつめたぁい」
これは仕事なんだ。そもそも仕事にダサいもなにもない。そこにあるのは賃金と労働力の交換だけだろう。
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冷たく振り払うと背後で悪態つく声が聞こえたがいつものことだ。ああいう風に甘い声で近づいてくるやつはだいたい二面性があるんだ。相手にするのも時間の無駄。
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家族連れ客がたこ焼きを買い求めにやってきたので俺はすぐに商売モードに切り替えた。しっかり稼がなくては。森宮にかっこ悪い姿を見せたくない。
──去年の夏、俺は小学校時代からの友人に誘われてこの海にやってきた。
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その時偶然、たこ焼きを売り歩いている森宮と遭遇したんだ。バイトにしか興味のない、裏表のない森宮の側が居心地よくて帰るまで彼女の側にいたんだっけな。
友達付き合いも、子どもの頃はまだ良かった。小学校までなら色気づいてるのは一部の女子だけだったから。
状況が変わったのは中学に入った辺りだろうか。俺の周りに集まるのは容姿に惹かれた女か、俺を女を引き寄せるための道具として利用する男の二通りだった。
そうじゃない人間は俺の周りにいる人間を恐れて遠巻きにして見てくのが大多数だった。小学校時代からの友人たちは会えば普通に話してくれるけど、どこか距離が出来て俺だけ孤立しているような気がしていた。友達のはずなのに彼らから妬まれている空気すら感じ取っていた。
そんな中で親しくなったのが桐生礼奈だ。同じ委員会で会話することがあり、なんだか同じ空気を感じ取ったのだ。
彼女もまた、恵まれた容姿のため憧れる一方でひどく妬まれていた。友人だと思っていた女子たちに裏切られるなど手酷い行為も受けていたし、その逆で男からのつきまとい行為に悩まされていたとも言う。
俺が礼奈と一緒にいることが増えたのは必然だった。仲間意識のようなものが芽生えたのだ。それに彼女と一緒だと、それがガードとなり女子に言い寄られる回数が減ったのが大きかった。
普通に学校に通っているだけなのにどうしてこうも視線にさらされて遠巻きにされたりしなきゃならないのだろうと腐ったりしなかったのは似た境遇の彼女が近くにいてくれたお陰だ。
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入学当初から無駄に注目を浴びて、よく知らない女に付きまとわれ、中学の頃の同級生に同窓会と言われて出てきたら合コン会場だったりと、他にもそういうことが繰り返され……俺は人間不信になりそうだった。
そうならなかったのは俺の苦労を自分のことのように理解している礼奈と、高校で親しくなった大輔のお陰だった。大輔は最初から人当たりがよく、軽薄そうに見えて実は友情に厚い男だ。俺がアイツを信用するのに時間はかからなかった。
礼奈も同じだ。俺と同じく大輔に色々と救われた礼奈は大輔に友情以上の感情を抱いている。3人でいたらそれだけでいい。もしも礼奈と大輔がくっついても、おまけとして一緒にいることを許してもらえるだろうと思っていた。
俺は自分の身と心を守るために殻に閉じこもろうとしていたが、そこに割って入ってきたのが森宮だ。
最初は変な女だなと思っていたけど、その一言では済まないのが森宮美玖という人間である。親しくもなんともなかった俺のことを庇ってくれたのは一度や二度じゃない。
森宮にどんな心積もりがあったのかは知らないが、彼女が俺のためにしてくれたことはなかなかできることじゃないと思う。
彼女は見返りを求めることなく俺の心の隙間にグイグイ入ってきて、今では心の大部分を占めていた。本人はその気はまったくないのはわかってる。なんと言ってもバイトという金稼ぎにしか興味のない森宮である。さすが普通科の変人と呼ばれる女。
そこが安心感であったけど、今ではもう少し俺に興味を持ってほしいと思ったり…少しくらい意識してほしい…
「ねぇねぇ、お姉さんここでは毎日働いてるの?」
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「期間限定ですね」
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「まぁ」
「休憩いつ?」
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ほーら海の家でもこうだ! 砂浜だと更に危険度アップ間違いなかっただろう! 俺の読みは的中した!
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「本当に? 無理してない? 私がたこ焼き売りに行ってもいいんだよ?」
「本当に大丈夫」
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