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第四部
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ルフェーブル領の鉱山地区は領地の三分の一を占めている。大半が森林と山岳で人が元々住んでいない場所だった。そこで魔法具の材料になる魔法石の鉱脈が見つかったのは五十年ほど前だった。当時の領主に圧力をかけて王家が接収した形でこの地は王家の直轄領になった。
王の後嗣となる王太子の領地とされるようになり、マルク王の王子が成年となるまでは便宜的に後嗣となる王弟ドミニクが管理することになった。けれど、二十年前あたりから鉱山で疫病騒ぎが始まった。
近くに馬車を隠して、カミーユとアレクは徒歩で鉱山に向かっていた。森の中に物見台があったり、柵が見え隠れしている様はまるで要塞だ。ただ、その中心となるような砦はない。
普段なら鉱山と物資をやりとりする馬車が行き来しているらしいが、式典の期間は鉱山を閉めているというアレクの情報通りまったく行き来がない。
それでも警備を緩めはしていないだろう。そろそろ自分たちの姿も見張りに補足されているだろうとカミーユは警戒して剣に手を添えた。
「疫病を理由に鉱山とその周辺を封鎖して大がかりな柵や魔法障壁をつけたのも二十年ほど前だ。疫病を恐れて鉱山奴隷が逃亡しないようにというのもあったのかもしれない。けれど疫病は収まるどころか年々酷くなった。奴隷をいくら補充しても足りないくらいに。本当なら魔法石の鉱山を持つこの地は誰が領主になっても失敗しないと言われていた。だからドミニクは焦っただろうね。聖女の血筋であるダルトワ侯爵のご令嬢に目をつけたのもそれが理由かもしれない」
「……聖女……?」
確かにダルトワ侯爵家は過去に二人聖女を輩出していると聞いた。それ以外にも魔法使いとして優秀な人も多い。そして【祝福】を与えられる力を持つという噂。
……つまり母を愛していて口説いてきたというわけではないのか。そもそも母を口説いていた間に派閥の貴族令嬢から婚約者を選んでいたくらいだし。バルバラやエルネスト叔父上の言う通り母を騙そうとしていたんだ。
カミーユは重い気持ちになった。
「多分鉱山奴隷がかかった疫病と言われているのは、瘴気中毒じゃないかな。倒れるのは人族の奴隷ばかりだったらしいし。立て続けに人が倒れればうつる病じゃないかと疑うだろう」
カミーユはそれを聞いて納得した。この鉱山で起きた疫病は人族ばかりが罹ったと聞いている。亜人は瘴気には強い。
……聖女は瘴気溜まりの浄化ができると書物で読んだ。つまり叔父上が嘘までついてわたしの母に言い寄ってきたのはそれが狙いか。
「……もしかして、亜人を鉱山に集めればいいと思ったとか?」
「そういうこと。最初は多分普通に募集しようとしていたんじゃないかな。ただ、この国にも亜人は暮らしているけれど、大半が非力な鼠や狐などの亜人だ。鉱山で働く気にはならなかっただろう。思うように人員が集まらないから、それなら攫ってくればいい、と思いついたのかもしれないね」
カミーユは立太子式で見た光景を思い出した。眠らされた人々、馬車でどこかに連れ出されていく。そして、入れ違いにやってきた兵士たち。
「……ではディマンシュの人々を攫うのが本当の目的だったのか……」
「そうだね。マルク王は亜人が安心して暮らせる街のお手本をディマンシュに作ろうとしていたらしいんだ。だから、ディマンシュには亜人が多く集まって暮らしていた。ドミニクは考えたんだろうね。ちょうど街に隣国との演習を控えた国軍が通過する時期にあの悲劇を起こしたとしたら、その責任をマルク王になすりつけることもできるのではないかと。ただでさえ貴族の言いなりだと叩かれていた兄を追い落とすこともできる、と」
カミーユの背中をアレクが軽く叩いた。
「……さあ。もうそろそろ向こうも動きだすだろう。準備はいいかい?」
カミーユは頷いた。
「母が言うには、幸運の神様は準備ができている人を選ぶ、だそうだ」
わたしはもう処刑場でドミニク三世に怯えていた幼子ではない。あの男が亜人たちの自由を奪ってきたというのなら奪い返す。
わたしから奪った父と母の名誉を少しでも取り戻すために。
それが亜人の国に嫁いだ先代国王の遺児としての自分の立ち位置だ。
バルバラから叩き込まれた剣術。そして、母から受け継いだ【祝福】の力。塔の中で培ってきた知識。
「……準備なら、もう、過ぎるほどしてきた」
カミーユは目の前に見えてきた鉱山地区の大きな正門に目を向けた。アレクが隣で大きく頷いた。
「じゃあ始めよう」
王の後嗣となる王太子の領地とされるようになり、マルク王の王子が成年となるまでは便宜的に後嗣となる王弟ドミニクが管理することになった。けれど、二十年前あたりから鉱山で疫病騒ぎが始まった。
近くに馬車を隠して、カミーユとアレクは徒歩で鉱山に向かっていた。森の中に物見台があったり、柵が見え隠れしている様はまるで要塞だ。ただ、その中心となるような砦はない。
普段なら鉱山と物資をやりとりする馬車が行き来しているらしいが、式典の期間は鉱山を閉めているというアレクの情報通りまったく行き来がない。
それでも警備を緩めはしていないだろう。そろそろ自分たちの姿も見張りに補足されているだろうとカミーユは警戒して剣に手を添えた。
「疫病を理由に鉱山とその周辺を封鎖して大がかりな柵や魔法障壁をつけたのも二十年ほど前だ。疫病を恐れて鉱山奴隷が逃亡しないようにというのもあったのかもしれない。けれど疫病は収まるどころか年々酷くなった。奴隷をいくら補充しても足りないくらいに。本当なら魔法石の鉱山を持つこの地は誰が領主になっても失敗しないと言われていた。だからドミニクは焦っただろうね。聖女の血筋であるダルトワ侯爵のご令嬢に目をつけたのもそれが理由かもしれない」
「……聖女……?」
確かにダルトワ侯爵家は過去に二人聖女を輩出していると聞いた。それ以外にも魔法使いとして優秀な人も多い。そして【祝福】を与えられる力を持つという噂。
……つまり母を愛していて口説いてきたというわけではないのか。そもそも母を口説いていた間に派閥の貴族令嬢から婚約者を選んでいたくらいだし。バルバラやエルネスト叔父上の言う通り母を騙そうとしていたんだ。
カミーユは重い気持ちになった。
「多分鉱山奴隷がかかった疫病と言われているのは、瘴気中毒じゃないかな。倒れるのは人族の奴隷ばかりだったらしいし。立て続けに人が倒れればうつる病じゃないかと疑うだろう」
カミーユはそれを聞いて納得した。この鉱山で起きた疫病は人族ばかりが罹ったと聞いている。亜人は瘴気には強い。
……聖女は瘴気溜まりの浄化ができると書物で読んだ。つまり叔父上が嘘までついてわたしの母に言い寄ってきたのはそれが狙いか。
「……もしかして、亜人を鉱山に集めればいいと思ったとか?」
「そういうこと。最初は多分普通に募集しようとしていたんじゃないかな。ただ、この国にも亜人は暮らしているけれど、大半が非力な鼠や狐などの亜人だ。鉱山で働く気にはならなかっただろう。思うように人員が集まらないから、それなら攫ってくればいい、と思いついたのかもしれないね」
カミーユは立太子式で見た光景を思い出した。眠らされた人々、馬車でどこかに連れ出されていく。そして、入れ違いにやってきた兵士たち。
「……ではディマンシュの人々を攫うのが本当の目的だったのか……」
「そうだね。マルク王は亜人が安心して暮らせる街のお手本をディマンシュに作ろうとしていたらしいんだ。だから、ディマンシュには亜人が多く集まって暮らしていた。ドミニクは考えたんだろうね。ちょうど街に隣国との演習を控えた国軍が通過する時期にあの悲劇を起こしたとしたら、その責任をマルク王になすりつけることもできるのではないかと。ただでさえ貴族の言いなりだと叩かれていた兄を追い落とすこともできる、と」
カミーユの背中をアレクが軽く叩いた。
「……さあ。もうそろそろ向こうも動きだすだろう。準備はいいかい?」
カミーユは頷いた。
「母が言うには、幸運の神様は準備ができている人を選ぶ、だそうだ」
わたしはもう処刑場でドミニク三世に怯えていた幼子ではない。あの男が亜人たちの自由を奪ってきたというのなら奪い返す。
わたしから奪った父と母の名誉を少しでも取り戻すために。
それが亜人の国に嫁いだ先代国王の遺児としての自分の立ち位置だ。
バルバラから叩き込まれた剣術。そして、母から受け継いだ【祝福】の力。塔の中で培ってきた知識。
「……準備なら、もう、過ぎるほどしてきた」
カミーユは目の前に見えてきた鉱山地区の大きな正門に目を向けた。アレクが隣で大きく頷いた。
「じゃあ始めよう」
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