塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白

文字の大きさ
63 / 80
第四部

15

しおりを挟む
「バジル。さっきの新米冒険者、まだそこにいるのか?」
 階下から呼びかけながら近づいてくる声。
 バジルがドアを開けて「いるぞ」と答えたら、相手が焦った声で怒鳴ってきた。
「早く降りてこい。そいつの相方がカチコミしてきた。ヤベえ魔法使いだ」
「え?」
 相方、魔法使い、という言葉にカミーユは反応したものの、カチコミの意味がわからない。
「もしかして迎えに来てくれたのかな」
 そう呟いたらバジルが違うだろ、と言いたげにげんなりした顔をした。

 下階に降りてみると、室内にいた冒険者たちは壁際でぐったりしていた。書類や小物もバラバラになっている。その真ん中で杖を片手にしたアレクが立っていた。
「アレク……」
 カミーユの顔を見ると険しかった表情がふわりと和らいだ。
「もう、びっくりするじゃないか。剣を抜いたらわかるように魔法をかけておいたけど、それがギルドの中で……とか荒事に巻き込まれたんじゃないかと気が気じゃなかったよ。聞いてみたら彼らは知らないの一点張りだし。嘘をつくからちょっと風魔法を使ったんだけど」
「すみません……」
 呼びに来たギルド職員は顔が真っ青だ。多分バジルが絡んでいるから誤魔化そうとしたんだろうけれど、アレクは一体何をやったんだろう。
「大人しくしてなきゃだめだって言ったよね?」
「大人しくしてたんだよ? 何も目立つことしてないし」
 カミーユがそう答えると、バジルが小声で「嘘つけ」と呟いていた。
「それで? どうして彼が剣を抜いたのか理由を教えてもらおうかな? 嘘ついたら今度は火魔法使っちゃうよ?」
 一見優しげな美貌の持ち主がほほえみながら強烈な圧をかけると、バジルのような大男でさえ怯えるんだということをカミーユは知った。

 階下はアレクの風魔法のせいでぐっちゃぐちゃだったので、二階の部屋に戻る。
 アレクが鳥の亜人だと聞いたバジルは震え上がっていた。鳥の亜人が伴侶に執着するのは亜人たちには常識らしい。
「申し訳ない。まさか鳥の伴侶とは知らないから……」
「大丈夫だよ、アレク。わたしは何もされてない。剣に手をかけようとしたから止めただけだよ」
「いやそれ、剣を向けられそうになったってことでしょ。大丈夫じゃないからね? でもまあ僕も下階の部屋ぐちゃぐちゃにしちゃったからそれでおあいこでいいかな?」
「もちろんだ。あの程度で済ませてもらえるなら安いものだ」
 ……鳥の亜人ってそんなに伴侶に過保護なの? というか、今まで伴侶に手出しした人に相当な報復があったってこと?
 カミーユはそう思いながら事情を説明した。
「まあ、ちょっと相手をよく見て欲しかったね。密偵だと疑うのは当然だろうけど。下手によそ者に噛みついてたら逆に怪しまれるだけだよ」
 アレクもカミーユと同じ推理にたどり着いたらしい。その理由を教えてくれた。
「このギルドは比較的新しいんだよ。ロラン殿下の出資で招致されたんだって。それまではこのルフェーブル領は冒険者には大不評な場所だったんだ。招致したのは亜人の雇用にも繋がるからというのが理由だったらしい。つまりこのギルドの亜人たちはロラン殿下に恩義を感じている」
 だよね? とアレクはバジルに目を向ける。バジルは渋々という顔で頷いた。
「だけど、そうやって集めた冒険者たちを領軍にぶつけちゃだめだよ。冒険者は軍人じゃないんだからね?」
「……だが……我々も覚悟はできている。外部からじゃまをしないでもらいたい」
 バジルは重々しく口を開いた。計画がすでにアレクにバレてしまっていると気づいて開き直ったようだった。
「ぶつけるって……まさか正面から?」
「冒険者たちとは別の集団が鉱山地区に近い村で待機していた。かなりの数の馬車と平民を装った者たちが。あっちはおそらく亜人救出のための部隊だろうね。冒険者たちは魔物討伐の妨げになっているから鉱山の管理者に抗議の目的で行って、それが激昂して武力衝突になる……みたいな筋書きかな」
 アレクの言葉にバジルがぐっと口を引き結んだ。図星だったのだろう。
 つまり冒険者たちは陽動なのか。
「……だけど、亜人は一カ所にいるわけじゃなくて、鉱山の中に入っている者もいるんだよね? 一度に全員を連れ出すことは難しいんじゃないかな」
 カミーユは疑問を口にした。
 冒険者たちが魔物の件で鉱山と揉めている間に別動隊が亜人たちを連れ出すとしても、所在がバラバラでは時間がかかりすぎるんじゃないだろうか。かといって鉱山を完全掌握するほどの兵力ではないはずだ。
 アレクがそれを聞いて頷いた。
「ああ、だから今が狙い目だったんだよ。鉱山は記念式典の間は亜人奴隷たちにも休暇を取らせるんだって。そうしないと人族の鉱山管理者や領兵たちは休めないでしょ? 亜人たちは住まいにしている集落に閉じこめておくんだとか」
 指摘されたバジルは黙り込んだ。
 ロラン殿下は十三年前のドミニク三世の挙兵を再現させるつもりだと言っていた。けれどあれは数で優位になるように情報操作で平民たちを動かして味方につけていた。あまりに無理がある。
「ただ、鉱山には交替で休暇中とはいえ多くの領兵が配置されていて、国境並みの魔法障壁もある。あれを解除するのは相当の力が必要だ。それともう一つ、鉱山地区の山林には瘴気が濃い。瘴気溜まりがある可能性が高い。救出部隊がそっちからの侵入を狙っているのなら魔物対策をしっかりした方がいい。むしろ救出側に冒険者が少ない方が問題だ」
「瘴気溜まり……? 一体どうやって調べた?」
「それは秘密だよ」
 瘴気というのは地面から薄く湧いている毒素のようなものだ、とカミーユは書物で読んだ。それに触れた植物を口にした草食獣やさらにそれを喰らった肉食獣が体内で瘴気を貯めると魔物化して魔獣と呼ばれる生きものに変容する。
 瘴気溜まりは瘴気の濃度が極度に高い場所だ。周辺には魔物が多くなり、植物も変容する。だから人は近づかなくなる。
 ほとんどの亜人は瘴気に耐性があるが、人族は瘴気に弱い。
 だから警備も手薄になっている。それでも魔法障壁はあるだろう。逆に亜人は魔力持ちが少なくて魔法には疎い。
「……そんなことはわかってる。だが、これは千載一遇の機会なんだぞ? コレを逃したら鉱山奴隷たちを一斉に開放するのは難しい。やるしかないんだ」
 アレクはバジルの怒号に全く動じずに答えた。
「……陽動には僕たちが二人で行く。救出部隊にギルドの冒険者たちを合流させるんだ。魔物が現れても冒険者たちなら対処できる。入り口は作っておいた」
「……え?」
 アレクは地図を拡げてほぼ空白の鉱山地区に印をつけていく。鉱山の位置、亜人の集落、駐留している領軍の駐屯地。管理者たちが暮らしている地区。亜人の子供たちがいる孤児院の場所。
 そして森林の中に唯一通っている細い道に印を加えた。
「このあたりの魔法障壁を解除しておいた。木に赤いリボンを結わえてあるからそれを目印にすればいい」
「まて。二人で領軍に喧嘩を売る気か? お前ら一体何者だ?」
 それを聞いてアレクが首を傾げる。
「あれ? それはまだ話してなかったの?」
「わたしは新米冒険者だとしか言ってない」
「そうかあ……そこはちゃんと頑張ってたんだね」
 アレクがふわりと微笑むと、バジルに向き直る。
「僕はサミュエル・アレクサンダー。ダイモス連合王国の王太子だ。彼は王太子配でこの国の先代国王の王子、カミーユだよ」
 今度こそバジルは顎が外れそうなくらい口を開いて固まっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

出来損ないΩの猫獣人、スパダリαの愛に溺れる

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
旧題:オメガの猫獣人 「後1年、か……」 レオンの口から漏れたのは大きなため息だった。手の中には家族から送られてきた一通の手紙。家族とはもう8年近く顔を合わせていない。決して仲が悪いとかではない。むしろレオンは両親や兄弟を大事にしており、部屋にはいくつもの家族写真を置いているほど。けれど村の風習によって強制的に村を出された村人は『とあること』を成し遂げるか期限を過ぎるまでは村の敷地に足を踏み入れてはならないのである。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【BLーR18】箱入り王子(プリンス)は俺サマ情報屋(実は上級貴族)に心奪われる

奏音 美都
BL
<あらすじ>  エレンザードの正統な王位継承者である王子、ジュリアンは、城の情報屋であるリアムと秘密の恋人関係にあった。城内でしか逢瀬できないジュリアンは、最近顔を見せないリアムを寂しく思っていた。  そんなある日、幼馴染であり、執事のエリックからリアムが治安の悪いザード地区の居酒屋で働いているらしいと聞き、いても立ってもいられず、夜中城を抜け出してリアムに会いに行くが……  俺様意地悪ちょいS情報屋攻め×可愛い健気流され王子受け

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

​転生したら最強辺境伯に拾われました

マンスーン
BL
現代日本人・東堂裕太が目を覚ますと、そこは異世界。クズな婚約者に魔力を限界まで搾取され、ボロボロになって森に捨てられる悲惨な青年・ルカに転生していた。 ​死を覚悟した裕太だったが、そんな彼を拾い上げたのは、帝国最強の武力を誇り「氷の死神」と恐れられる辺境伯・ラーク。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

処理中です...