塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白

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第四部

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 ロラン王子への報告も含めて事後処理をバジルたち冒険者に任せて、カミーユたちは王都に戻ることにした。王都での記念式典に参加しなくてはならないので、その準備もあるからだ。
 病の治療をしたことでカミーユのことをすっかり崇拝するようになった鉱山職員たちや領軍の兵士たちは今までどおり鉱山を封鎖したふりを続けて、奴隷たちが連れ出されたことの報告を引き延ばしてくれることになった。
 開放された鉱山奴隷たちはギルドが手配した廃村に送られて、今後の生活が決まるまではそこで匿われるらしい。ダイモスへの帰国を望む者がいたらアレクが話をつけるからと約束していた。
「これで全部だよ」
 そう言いながらアレクは鉱山から持ち出した大量の帳簿をギルドの事務室に積み上げていた。
 ディマンシュの虐殺で行方不明になった亜人は五百人前後。そして、今回保護した亜人奴隷は二百人程度。帳簿には鉱山での労働で命を落としたり、労働に向かないからと「処分」されたという記述もあった。
「幸い疫病騒ぎがあったから鉱山管理の上層部は全員逃げ出していて、調べ放題で助かるんだが……えげつないな」
 バジルは自分の仕事机の上に積み上げられた書類にうんざりした顔をしている。
 ロラン王子への報告のために証拠押さえをするのも今回の作戦の目的だった。
 だからアレクがごっそりと帳簿を持ち出して来たのだけれど、その量が多すぎた。
「まあまあ。亜人奴隷の名簿もあるし、これで言い逃れはできないんじゃない?」
「……それはそうなんだが……あ、いや王太子殿下にこの言葉遣いはマズいですか」
 バジルが咳払いして言葉を改めると、アレクは手をひらひらさせてそれを遮った。
「今さらだよ。それにカミーユならともかく僕は隣国の人間だからね。一冒険者として接してくれていいよ」
「はあ……では今まで通りで……」
 バジルはそう言いながらちらりとカミーユを見た。
「わたしも今まで通りでいいよ。あくまで新米冒険者だから」
「いや、あんた散々暴れ倒したじゃないか……おまけに瘴気溜まりを浄化するとか、瘴気当たりの病人を治癒するとか、そんな新米冒険者怖すぎるぞ」
 それを聞いてアレクがちょっとだけ笑みを引き攣らせた。
 あ。また思い出させてしまった。
「もうそれは言わないでほしい。わたしもちゃんと反省してるんだから。とにかく新米冒険者ってことで」
 バジルはアレクの表情に気づいてか気まずい様子で笑って誤魔化した。
「了解した。夫婦げんかの原因になりたくないからな」

 鉱山でカミーユが何をしでかしたのか気づいたアレクはそれはもう呆れを通り越して頭を抱えていた。
 ……そうだったよ。君は呪文も何も必要なしで聖魔法を使うんだった。
 アレクは聖魔法をちゃんと教わっていないカミーユに瘴気の浄化ができるとは思っていなかったらしい。
 結局、ロラン王子に手柄を譲るつもりで一冒険者として関わる予定だったのに、それで大きく狂ってしまったのだ。
 聖魔法の使い手は希少すぎて冒険者どころか一国の王が抱え込むような人材だ。冒険者を名乗ったらギルドに問い合わせが殺到して迷惑がかかってしまう。そう説明されてカミーユは自分がやらかしてしまったことに気づいた。
 そして、後々問題になるくらいなら、とカミーユの身分を明かす羽目になってしまった。
 これでドミニク三世を敵に回したことになってしまう。まだすぐには王都に伝わりはしないだろうが、いずれはカミーユが聖魔法の使い手だと知られることになる。

 バジルがふと思い出したようにアレクに問いかけた。
「……もし、この先また似たようなことがあったら? あんたたちは式典が終わったらダイモスに戻っちまうんだろう? どうすればいいんだ?」
「瘴気当たりだけなら患者を瘴気から離せば症状がそれ以上悪化することはない。完全に抜けるには時間がかかるけど。ここの領地経営や鉱山の管理をしているのは代官なんだろうけど、鉱山の採掘量を見直したほうがいいかもしれない。ドミニク三世陛下がこの地の領主になってから採掘量が年々増している。それだけ多くの人材を使っていただろうし、無理もしていただろう。だから瘴気当たり……君たちが言う疫病が発生した。元々鉱山や開拓地は瘴気溜まりが発生しやすいんだ。神が作ったものを破壊するひずみだと書物に書かれていた」
 瘴気の発生場所は山の中にある大きな深い亀裂だった。鉱山関係者の話だと疫病で死んだ者はその亀裂の底に放り捨てられたという。死体にも瘴気が招き寄せられる。
「もっとも、ドミニク三世陛下はそれを知っていた可能性が高い。この地の領主として瘴気溜まりと鉱山の関係を知らないとは思えないからね。魔獣や魔物が増えたり、瘴気当たりで人が倒れるとしても、それは必要悪だと鉱山を優先させたんじゃないかな」
 ドミニク三世は若いころから兄を追いやって王位に就こうという野心を抱えていた。王家の瞳を持たない兄より自分がふさわしいと。そのために派閥作りや人脈を得るために資金が必要だったのかもしれない。
 ……けれどそのために領民や罪のない亜人たちまで巻き込むのはどうなのか。自分は正義だと主張して王位に就くまでに、あの人はどれだけの人に犠牲を強いていたのだろう。
 カミーユの中のドミニク三世は、父や兄たちが処刑されたあの日自分に冷淡な声で問いかけてきた男という記憶しかない。
 五歳だったわたしにはそれは大きな大人の男性だった。逆行で顔は良く覚えていないけれど、今思えばあの人はうっすらと口元を歪めて微笑んでいたような気がする。

「じゃあ、そろそろ王都に戻るかな。ノアたちを呼んで来てくれるかい?」
 アレクがそう言うと外套を手に取った。バジルがそれなら馬の手配を、と立ち上がりかける。
「馬は要らないよ。転送魔法で帰るから。ダルトワ侯爵邸に魔法陣を置かせてもらってるんだ」
 転送魔法は行き先を魔法陣で固定しなくてはならない。ダルトワ侯爵邸は今後も行き来できるようにと魔法陣を置かせてもらうことになったらしい。多分にエルネストの要望も入っているのだろうが。
 だから来る時は馬だったが帰りは一瞬だとアレクは言っていた。
「……あんたもなかなか規格外の魔法使いだな」
 バジルが唸りながらそう呟いた。
 孤児院の子供たちはひとまず鉱山の外で里親を見つけるまで他の孤児院に移すことになった。亜人の子供たちは救出した鉱山奴隷の中に親が見つかった子もいたが、狐耳の獣相を持つトニは両親が判明したもののすでに亡くなっていた。
 ノアの両親もすでに亡くなっていた。ノアはトニのことが心配だから自分が面倒を見たいと言い出したので、連れて行くことにした。
 トニはカミーユのことが気に入ったらしくて懐いてくれているし、この国では獣相がある亜人は暮らしにくいだろう。必要な教育を与えていずれ独り立ちできるようにしてあげたいと思った。ただし、教育係はバルバラ以外のほうがいいかもしれない。
 そう思いながらカミーユはノアたちを迎えに行くことにした。
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