塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白

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第四部

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 王都に戻ったカミーユたちを待ち構えていたのはエルネストだった。数通の書状をもってきて上機嫌で説明してくれた。
「どうやら無事におわったようだね。こちらの首尾も上々だよ。貴族たちは国王陛下の手前あからさまにはできないが、カミーユ王子にお会いしたいと当家に打診してきているよ。まあ、式典までお預けだから全部お断りしたけどね」
 カミーユが王子であることを明かしたのはダイモスを出立する直前だ。それによってシーニュの王宮では様々な思惑が入り乱れているという。そもそも、今王宮にいる者たちはドミニクの挙兵に加担し先代国王の処刑を行った。
 カミーユがなぜ王子だと名乗り出て建国記念式典にダイモスの特使として現れるのか。
 国力の差を考えればカミーユに危害を加えることはできないし、なにより後ろ暗いことがあるのは彼らの方なのだ。
 式典をぶち壊すために何かするのではないかと疑いも抱いているだろう。
 それでカミーユの動向を探ろうと侯爵家に声をかけてきたのだろう。
 けれど、カミーユはあくまで王太子妃としての来訪なので、アレクを蔑ろにして社交に励むつもりはない。彼らが帰国の目的を邪推して浮き足立つのならそれでいい。
「だいぶ足元がぐらついているけれどね。この式典で国王陛下は二人の王子のどちらを王太子とするか発表するつもりだという噂もあったんだけど、おそらく揉めるだろうね」
 長子のロラン王子を王太子にしない理由が「王家の瞳を持たない」ということだとはカミーユには信じがたいけれど、ロラン王子自身がそれが理由で領地に追いやられていたと言っていた。
 瞳の色で子供を疎むなんて、その子の罪ではないのに。
 カミーユの父も父親である先々代国王には似ていないことでとやかく責められたと聞いている。挙げ句の果てに偽物の王呼ばわりされて王位を追われてしまった。
 ……皮肉なことにわたしの瞳の色をドミニク三世は知っている。あの処刑の日にわたしの顔を見たのだから。わたしが王女ではなく王子だと知って、一番動揺しているのはあの人だろう。
「ロラン殿下の弟君はどのような方ですか?」
「父親の権威を笠に着て威張るようなところはあるけれど、施政者としてはまだ何か評価されるような段階じゃない」
「……つまり何も重要な仕事を任されてはいないと? お察しって感じだねえ。そろそろ何か功績を挙げて周囲に見せびらかすくらいやらないと、ロラン殿下を押しのける力があるとは言えないよ。瞳の色で王を選ぶというなら、カミーユを選ぶしかなくなる。それで王太子の指名ができないんじゃない?」
 アレクがエルネストの持って来た書状を見ながらそう問いかける。
「そうなると、ロラン殿下に何かの罪をでっち上げる可能性があるんじゃないかな。もし鉱山奴隷解放のために大がかりな衝突なんて起こしていたら……」
 ドミニク三世はロラン王子が亜人の従者から「ディマンシュの虐殺」の裏にあったからくりに気づいていることを知って、そうなれば彼が手駒を集めて鉱山の奴隷たちを救出しようと動くことも予想していた。
 ロラン王子が行動を起こせばそれを理由に廃嫡し、弟を王太子にできる。
 そのために軍を配置していたのだけれど、それと同時に瘴気溜まりの発生で疫病騒ぎが起きてしまった。
「だけど、今回の件で鉱山奴隷を解放したことはまだ明らかにされていない。あとでバレたとしてもカミーユたちが介入して奴隷を逃がして瘴気騒ぎを解決したってことになったら、ロラン殿下をどうこうできない。殿下の方はすでに最悪の場合ダイモスに亡命すると根回ししているから、身の危険を感じたら即動くだろうけど」
「実の御子にそこまでなさるんだろうか」
「あの方は腹違いとはいえ、実の兄から王位を奪った人だよ。カミーユ」
 エルネストが静かに指摘する。
 今回の帰国はロランにとって、「ディマンシュの虐殺」の真相を明らかにして父と正面から対峙する機会になるはずだった。
 けれど、それを利用して彼を廃嫡に追いやろうとしていたなんて。
「……明日の謁見、油断はしないほうがいい」
 エルネストの言葉にカミーユは黙って頷いた。

「まあ、いざとなったらロラン殿下も一緒に転送魔法でダイモスまで戻っちゃえばいいからね。だから何があってもカミーユたちは僕のそばから離れちゃダメだからね」
 国王ドミニク三世に謁見するために馬車で向かう間アレクはそう念押しした。馬車に同乗しているのは侍女のバルバラと従者のノアだけ。
「ロラン殿下には鉱山でのことは伝わってるんだろうか」
「バジルの話だと殿下の側近のクリフだっけ? あの狐の。彼が通話ができる魔法具を持っているから話は通ってるはずだ」
 ルフェーブル領に残ったバジルたちは領軍の兵士たちや鉱山管理の職員たちと共謀して代官を追い詰めようとしているらしい。
 何十年もドミニク三世の下で働いていた男だが、その分陰でちゃっかり私腹を肥やしているらしくてその証拠を揃えてきたのだそうだ。
 今回の瘴気溜まりの一件も十分な証拠になると言っていた。
 ……そういえば、瘴気で思い出したけれど、王宮に近づくにつれて……。
「あの……。アレクは瘴気を感じられる?」
 聞かれたアレクは首を横に振る。バルバラに目を向けても返事は同じだった。
「亜人は瘴気に強いせいか、瘴気に鈍いんだよ。どうかしたの?」
「何だか気配が濃くなってる気がするんだ」
「王都に瘴気溜まりがあるってこと?」
「溜まりというより、流れ?」
 王宮に通じる大通りの向こう、壮麗な門が見える。その手前の広場にカミーユは目を瞠った。
「……ここだったんだ」
「カミーユ?」
「父上が亡くなった場所……」
 そこはかつて公開処刑が行われた場所だった。いくつもの絞首台が並んでいて人々が集まっていた。先代国王夫妻とその息子たちと宰相と国王派の貴族たちとその家族。多くの人々が絞首台に並んだ。
 悲鳴と怒号が響いていて、怨嗟が渦巻いていた。
 カミーユが初めて見た外の世界。それがこの場所だった。
「瘴気が王宮に向かって集まっている感じがするんだ。まるで水が低い場所に流れ込むみたいに」
 この広場の地面から薄く感じる気配が王宮に吸い寄せられるように流れていく。もしかしたら他にも似たような場所があるのかもしれない。
 一度気配を感じられるようになると、その流れもカミーユにははっきりとわかった。
 記念式典が行われるのは王宮なのに。各国の要人が招待されているというのに。
 ……これは大丈夫なんだろうか。
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