塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白

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第四部

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 カミーユが何とか説明すると、アレクはさらに首を傾げていた。
「この王都はかなり歴史がある街だ。それだけの時間を経て今さら瘴気が発生するとは考えにくい。瘴気は神の作ったものを破壊が上回ったときのひずみだと考えられている……って前に説明したよね? 何か大がかりな土木工事とかあったのかな」
「……わたしにはわからない。王都にいたのは子供の頃だし、街に出たこともないから」
「そうだよね……。それに一カ所に集まるように流れ込むというのも自然現象としてはありえない。……だからって人為的に集める目的もわからないよね」
「そうだね……わたしの見間違いならいいのだけれど……」
 カミーユは馬車の前方に見えてきた王宮に目を向ける。今も壮麗な白い建物に吸い寄せられるように瘴気が流れている。
 見ているものを他の人と共有することができない限り、これをどう説明して良いのかわからない。ただ、不吉だとか良くないという感覚だけが強く感じられるだけで。
「見間違いとは思ってないよ。カミーユには希有な聖魔法の才能があるんだから。ただ僕にはその現象を説明できないってだけなんだよ」
 この馬車の中にいる四人のうち、亜人ではないのが自分だけだとカミーユは気づいた。それに自分の持つ力がどうやら珍しいもだということも。
「ダルトワ侯爵は何もご存じないのかな。後で聞いてみようか。おそらく光魔法や聖魔法については僕よりは詳しいはずだ」
「そうだね」
 鉱山で感じたものよりもはるかに気配は薄い。何も問題がないのならそれでいいけれど、エルネストに確認すれば何かわかるだろうか。
「あの妃殿下。どうなっているのかは僕にもわかりませんけど、集まっている位置で何かわかるのではないですか?」
 ノアも首を傾げているが、カミーユの言いたいことを理解しようとしてくれているようだった。
「王宮の中央あたり……の多分奥側。何がある場所かはわからないけれど……。あと、東側は気配が全くない」
「東側ってあの森の……?」
「多分あの森のずっと奥にわたしが住んでいた離宮があるはずだよ。まだ残っていればだけど」
 カミーユが五歳までを過ごした古い離宮。王が替わったからすでに取り壊されてしまっただろうか。ドミニク三世にとっては自分が手に入れようとしていた女性が他の男との子を産んだ場所だ。面白くはないだろう。
「……カミーユ……」
「ああ、気にしないで。わたしは別に何も辛いとは思っていないから。あの頃のわたしは外に出られないのが普通だと思っていたから」
 アレクが辛そうな顔をするので、カミーユは慌てて言葉を継いだ。
 自分が可哀想に思われるような立場だとは知らなかったし、他の生き方を知らなかっただけだ。塔に閉じこめられてからは周りの声が時折聞こえてきて、境遇を憐れまれていることも知ってしまったけれど。
「……瘴気があの森を避けるのだとしたら、カミーユ様の【祝福】が残っているのかも知れません。カミーユ様は王宮に入ったことは一度もございませんから」
 バルバラも目を眇めて森の方角を見ているが、彼女も亜人だからか瘴気の流れは見えないようだった。馬車の護衛たちもアレクがカーネルから連れてきた亜人なので大丈夫だろう。
「ということは、カミーユやダルトワ侯爵は瘴気の影響は受けにくいってことだよね。魔物や魔獣も光魔法や聖魔法を嫌うし、侯爵はカミーユの【祝福】つきのハンカチを持っているんだろう? ただ、他の貴族たちはどうなんだろう。瘴気への耐性は個人差があるとはいえ、影響はあるんだろうね」
「ロラン殿下はどうなさっているだろう。あの方は領地育ちで王都にはあまり縁がなかったと言ってらしたけれど」
 もしかして、カミーユが王宮にいたころから王宮に瘴気が集まっていたのだろうか。
 けれどあの頃には先代ダルトワ侯爵を始めダルトワ侯爵一門が王宮にいた。光属性魔法の使い手もいたはずだ。瘴気や瘴気によって変容した魔獣が光属性の使い手を嫌うのなら、影響は小さかったのかもしれない。
 ドミニク三世が即位した頃に、ダルトワ侯爵家一門は全員王宮を辞した。王都に屋敷を残していても王宮で働くことはなかった。優秀な文官ぞろいで、魔法研究にも長じた彼らが去ったことで政治が滞ることが多いという評判だったけれど、もしかしたら瘴気の影響もあるのだろうか。
 ……というよりも、ドミニク三世の周辺に瘴気絡みの事件が多いのは偶然なのだろうか。

 王宮の中の空気もどことなくくすんでいるような気がして、カミーユは不安になった。
 ……あの人に会うから気鬱になっているせいだろうか。それとも本当に瘴気が漂っているのだろうか。
 案内された控えの間に入ると、大きな風景画が飾られていた。湖畔の森、地面は青い花で埋め尽くされている。そして一頭の白い馬が遠くに佇んでいる。
 その絵に見覚えがあったカミーユはバルバラに問いかけた。
「これ……離宮にあった絵だよね? わたしはこの絵が怖かったんだけど」
 白い馬がじっとこちらを睨んでいるような気がして、子供の頃は怖かった。今見ればただの美しい風景でしかないのに。
「これはシモーヌ様の側室入りに際して先代侯爵が贈ったものです。領地の風景を思い出せるようにと。なぜこのような場所に……」
「……もしかして、カミーユが本物かどうか疑ってるんじゃない? この絵に何か反応するかどうか調べろと……」
 部屋の隅に控えている女官にアレクが目を向けると、気まずそうにそそくさと出ていってしまった。
「無理もないよ。わたしの顔を知っている人なんて一握りだから」
 入れ違いに侍女がお茶を運んできたけれど、アレクが首を横に振った。
 王宮で出されたものには手をつけない、と事前に打ち合わせていたのでノアも美味しそうな茶菓子を見ながらも黙って頷いていた。
 あとでノアには何か菓子でも買ってあげようとカミーユはこっそり考えた。
 そこへ今度は慌ただしい足音と、制止する声が聞こえてきた。バルバラがすっとカミーユとアレクの前に出る。

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