66 / 80
第四部
18
しおりを挟む
『……幸運の神様は準備ができている人を選ぶのよ。だから何があっても諦めないでね』
優しく穏やかな声が頭の中で響いた。
『わたしはあなたにダルトワ侯爵家の【祝福】をあげることはできないけれど、わたしとあの人の持つものは全てあなたの中にあるわ。それも祝福よ』
ああ、きっとあれはわたしの母だ。カミーユはそう確信した。
確かに親から伝えられるものはある。それは全ての親が子に与える祝福だ。
わたしは何も持っていないと思っていたけれど、そうではなかった。
……でも、死んだはずの母の声が聞こえるということは、わたしはどうなったんだろう。
「妃殿下。大丈夫ですか?」
ノアの声が間近で聞こえてカミーユは目を開けた。
目の前に井戸があって、どうやらそこでへたり込んだまま動けなくなっていたらしい。
「わたしは……気を失っていたのか?」
「トニが急に動かなくなったって知らせに来たんです。一瞬周りがぱっと明るくなったからおかしいなとは思ったんですけど……」
確かに明るくなったのは覚えている。そして意識が飛んでいたのはほんのわずかな時間のようで、差し込む日差しの明るさもほとんど変わっていない。。
そしてカミーユはさっきまで感じていた井戸の中の悪い気配が消え去っているのに気づいた。
……上手くいった? 浄化できている?
「ノア。子供たちに伝えて。この井戸はもう大丈夫だからって」
立ち上がりかけるとノアが慌てて身体を支えようと駆け寄ってきた。
「だめですよ妃殿下。急に動いたりしては」
「大丈夫だよ」
少しふらついたけれど、立てないほどではない。
「私がここにいた間に何か変わったことは?」
「近くの店に行って来たんですけど、店の人が奥で寝込んでいたりして、かなりの人が体調を崩しているみたいでした。意識のある人に聞いたら、領軍が鉱山を封鎖して仕入れも止まっているのだと……」
……領軍が鉱山に派遣されていたのは、襲撃を警戒してのことではなく、鉱山で疫病らしい症状が出たから隔離するためか? それとも領軍が来たあとでそうなったから鉱山を封鎖したのか?
式典の期間鉱山の管理をしている者たちに休暇を与えるというのも、倒れる者が多くて業務に支障がでていたのではないか?
「わかった。ノアは引き続き子供たちに水と食料を。じきにアレクも追いついてくるだろう。わたしは近隣の病人から治療する。回復すれば事情も聴けるはずだ」
思っていた状況と違いすぎる。けれど、はっきりしているのはこの地の領主であるドミニク三世は前回の疫病騒ぎ同様、原因を確かめず鉱山を封鎖する方法を取ったのだということ。
……亜人だけが倒れなかった、ということだけでも普通の疫病ではないことがわかるはずなのに。
「え?」
疫病ではなく瘴気当たりなら、自分の魔法で治療ができるはずだ。
ふとバジルたちがいるはずの山の方角を見て、先刻までの悪い気配が消え失せているのに気づいた。
「……あれ?」
カミーユは首を傾げた。
……わたしがやったのって、井戸の浄化だけ……だよね? なんで周りの瘴気が全部なくなってるんだろう。
その後は動ける子供たちに近隣の家を回って、具合の悪い人を見つけてもらった。
浄化のやり方は感覚的に掴めたので、カミーユは治療をしながら住民に話を聞いた。
どうやら倒れる者が目立ち始めたのはここ半月ほどのことらしい。すぐに領軍は鉱山地区からの人の出入りを止めた。けれど、治療を求める者たちがいくら訴えても医者や薬師の派遣をしてもらえなかった。
自分たちは領主に、国王ドミニク三世に捨てられたのだ、と口々に訴えた。
その後領軍の指揮官を捕まえて軍を制圧したアレクと、瘴気がなくなったのに気づいて鉱山奴隷となっていた亜人たちを救出し終えたバジルたちが合流してきた時は、カミーユは大勢の人々に囲まれていた。
「……何があったの?」
アレクが問いかけてきたけれど、カミーユは説明に窮した。
……瘴気を浄化したり病人を治癒したせいで、聖人だと崇められてしまったのだけど。それを言ったらまたお説教されそうな予感がする。
優しく穏やかな声が頭の中で響いた。
『わたしはあなたにダルトワ侯爵家の【祝福】をあげることはできないけれど、わたしとあの人の持つものは全てあなたの中にあるわ。それも祝福よ』
ああ、きっとあれはわたしの母だ。カミーユはそう確信した。
確かに親から伝えられるものはある。それは全ての親が子に与える祝福だ。
わたしは何も持っていないと思っていたけれど、そうではなかった。
……でも、死んだはずの母の声が聞こえるということは、わたしはどうなったんだろう。
「妃殿下。大丈夫ですか?」
ノアの声が間近で聞こえてカミーユは目を開けた。
目の前に井戸があって、どうやらそこでへたり込んだまま動けなくなっていたらしい。
「わたしは……気を失っていたのか?」
「トニが急に動かなくなったって知らせに来たんです。一瞬周りがぱっと明るくなったからおかしいなとは思ったんですけど……」
確かに明るくなったのは覚えている。そして意識が飛んでいたのはほんのわずかな時間のようで、差し込む日差しの明るさもほとんど変わっていない。。
そしてカミーユはさっきまで感じていた井戸の中の悪い気配が消え去っているのに気づいた。
……上手くいった? 浄化できている?
「ノア。子供たちに伝えて。この井戸はもう大丈夫だからって」
立ち上がりかけるとノアが慌てて身体を支えようと駆け寄ってきた。
「だめですよ妃殿下。急に動いたりしては」
「大丈夫だよ」
少しふらついたけれど、立てないほどではない。
「私がここにいた間に何か変わったことは?」
「近くの店に行って来たんですけど、店の人が奥で寝込んでいたりして、かなりの人が体調を崩しているみたいでした。意識のある人に聞いたら、領軍が鉱山を封鎖して仕入れも止まっているのだと……」
……領軍が鉱山に派遣されていたのは、襲撃を警戒してのことではなく、鉱山で疫病らしい症状が出たから隔離するためか? それとも領軍が来たあとでそうなったから鉱山を封鎖したのか?
式典の期間鉱山の管理をしている者たちに休暇を与えるというのも、倒れる者が多くて業務に支障がでていたのではないか?
「わかった。ノアは引き続き子供たちに水と食料を。じきにアレクも追いついてくるだろう。わたしは近隣の病人から治療する。回復すれば事情も聴けるはずだ」
思っていた状況と違いすぎる。けれど、はっきりしているのはこの地の領主であるドミニク三世は前回の疫病騒ぎ同様、原因を確かめず鉱山を封鎖する方法を取ったのだということ。
……亜人だけが倒れなかった、ということだけでも普通の疫病ではないことがわかるはずなのに。
「え?」
疫病ではなく瘴気当たりなら、自分の魔法で治療ができるはずだ。
ふとバジルたちがいるはずの山の方角を見て、先刻までの悪い気配が消え失せているのに気づいた。
「……あれ?」
カミーユは首を傾げた。
……わたしがやったのって、井戸の浄化だけ……だよね? なんで周りの瘴気が全部なくなってるんだろう。
その後は動ける子供たちに近隣の家を回って、具合の悪い人を見つけてもらった。
浄化のやり方は感覚的に掴めたので、カミーユは治療をしながら住民に話を聞いた。
どうやら倒れる者が目立ち始めたのはここ半月ほどのことらしい。すぐに領軍は鉱山地区からの人の出入りを止めた。けれど、治療を求める者たちがいくら訴えても医者や薬師の派遣をしてもらえなかった。
自分たちは領主に、国王ドミニク三世に捨てられたのだ、と口々に訴えた。
その後領軍の指揮官を捕まえて軍を制圧したアレクと、瘴気がなくなったのに気づいて鉱山奴隷となっていた亜人たちを救出し終えたバジルたちが合流してきた時は、カミーユは大勢の人々に囲まれていた。
「……何があったの?」
アレクが問いかけてきたけれど、カミーユは説明に窮した。
……瘴気を浄化したり病人を治癒したせいで、聖人だと崇められてしまったのだけど。それを言ったらまたお説教されそうな予感がする。
43
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)
おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが…
*オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ
*『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
出来損ないΩの猫獣人、スパダリαの愛に溺れる
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
旧題:オメガの猫獣人
「後1年、か……」
レオンの口から漏れたのは大きなため息だった。手の中には家族から送られてきた一通の手紙。家族とはもう8年近く顔を合わせていない。決して仲が悪いとかではない。むしろレオンは両親や兄弟を大事にしており、部屋にはいくつもの家族写真を置いているほど。けれど村の風習によって強制的に村を出された村人は『とあること』を成し遂げるか期限を過ぎるまでは村の敷地に足を踏み入れてはならないのである。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
アルカナの英雄は死神皇子に嫁ぐ
霖
BL
難攻不落と言われたアルカナ砦を攻略し、帝都に名が届くほどの軍功を上げた辺境国王の庶子リセル。しかし英雄として凱旋したリセルを待ち受けていたのは、帝国の第三皇子ジュノビオの不可解な求婚だった。
実直皇子×お人好し美人
※ほかのサイトにも同時に投稿しています。
生まれ変わったら知ってるモブだった
マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。
貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。
毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。
この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。
その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。
その瞬間に思い出したんだ。
僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。
辺境の酒場で育った少年が、美貌の伯爵にとろけるほど愛されるまで
月ノ江リオ
BL
◆ウィリアム邸でのひだまり家族な子育て編 始動。不器用な父と、懐いた子どもと愛される十五歳の青年と……な第二部追加◆断章は残酷描写があるので、ご注意ください◆
辺境の酒場で育った十三歳の少年ノアは、八歳年上の若き伯爵ユリウスに見初められ肌を重ねる。
けれど、それは一時の戯れに過ぎなかった。
孤独を抱えた伯爵は女性関係において奔放でありながら、幼い息子を育てる父でもあった。
年齢差、身分差、そして心の距離。
不安定だった二人の関係は年月を経て、やがて蜜月へと移り変わり、交差していく想いは複雑な運命の糸をも巻き込んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる