27 / 120
第一章
26
しおりを挟む
夕暮れが過ぎた薄暗い部屋で、そっと寄り添っていた二人だったが、鉄堅は名残惜しそうに、葉月に告げた。
「そろそろ帰るよ、葉月ちゃん、また明日迎えにきても良い?」
「うん……夜、メールする」
葉月がそう言うと、鉄堅はとても幸せそうに微笑んだ。何度も切れかかった縁が、結び直され、確かに繋がっている、その幸福が鉄堅の胸に広がっていた。
メールをし合う事など、高校生ならばごく日常の一コマであるけれど、こと、葉月と鉄堅にとっては、それは日常ではなかったから。
小さな喜びが、少しづつ、日常の中に入っていくことが嬉しかった。このままずっと、当たり前になれば良いと、鉄堅は思った。
葉月と喋ることも、メールすることも、一緒に駅まで歩く事も、当たり前の日常になってほしい。飽きる程その日常を繰り返してみたい。
365日の中の何日を葉月と会えるだろう。毎日でも会いたいなんて思うのは欲張りだろうか。あまり多くを望みすぎたら、この幸福が壊れてしまったらいけない。
(自分の心の中の葉月ちゃんへ対する欲望など、際限なく大きくなってしまうから。自分を律して、葉月ちゃんが嫌がる事は絶対にしないでそばにいれるだけで良いのだから)
(でもいつか……もし叶うのならば、葉月ちゃんと同じ所へ帰りたい)
今はまだ学生で、親の庇護のもとにあり、恩恵を受けて生きている身だけれど、きちんと立身して、お金を稼ぎ、家を買い、その家に葉月がいたらどんなに幸せだろう。
こんな夢を密かに持ってるなんて葉月には言えないけど。
言ったら気持ち悪いと言われるかもしれない自覚はある。
(でも……いつか。葉月ちゃんと暮らすという夢を叶えたい)
傍らにいる、葉月を愛しく見つめ、鉄堅は、床に置いてあった自分の鞄を手にもった。
「じゃ、葉月ちゃん、帰るよ、目……だいぶ、赤みは引いたけど冷やしてね」
「うん、風呂に入ったら、冷やしとく」
「そうして、じゃ行くね、鍵かけてね」
「うん」
名残惜しくてついつい、言葉を探しては葉月へ投げてしまう。自分の必死さに、鉄堅は、密かに恥じ入りつつ、靴をはいた。
玄関のドアをあけ、最後に一目と振り替えると、葉月が、小さな声で、夜に。といった。
頷いて、扉を閉めて、外へ出ると、鉄堅はその場にへたりと、しゃがみこんだ。
「あぁ、葉月ちゃん…可愛ぃ」
夜にメールすることを楽しみにしていてくれるのだろうか。
面白いことを一つも言えないし、葉月ちゃんが喜んでくれる言葉を送れるかも解らないけど。でも、あんな風に待ってると言われるのは、鉄堅にとってはこの上なく嬉しい事だった。
◆◇◆
鉄堅が出ていった薄暗い玄関、葉月はポツンとたたずんで居たが、鍵を閉める事を思いだし、言われた通りにカチャリとロックをかけた。
リビングへ戻って電気をつけて、外に干してある洗濯物を、叩きながら取り込んで、畳にもっさりと置いた。
父とずっと二人暮らしだったから、葉月はある程度の家事全般ができた。凝った料理はできないけど、野菜を切って肉をやくだけだけど、父はいつも美味しいと喜んでくれる。
取り込んだ洗濯物を折り畳み、箪笥にしまう。その後は台所へ行って米を研いで炊飯器にセット、次は風呂洗い。
黙々と作業しながら、今しがたの鉄堅とのやり取りを思いだし、時々どうしようもない程の羞恥に襲われてしまう。
(恥ずかしい事を言ったかもしれない、何を口にしたかほぼ覚えてない)
告白をするなんて想定外だったし、自分が誰かに恋をするなんてもっと青天の霹靂だったし。しかも何よりも驚きなのは相手が鉄堅だなんて。
いや、驚きでもないのだろうか。ずっと実は心の奥底の潜在意識で鉄堅を選んでいたのかもしれない。
運命なんか嫌だと思ってたのに、今は、この広い世界で自分のたった一人がいることが誇らしく思えた。
(父さんに……)
鉄堅と付き合うことになったと、父に話すべきだろうかと考え、いやでもそれはまだ早いかと首をふり、赤面する。
「だってまだ、告白をしただけだし、まだそんな言うこと何も無いし」
ぽそぽそと、言い訳をしながら、服を脱いで風呂場に入った。掛け湯をして湯船に浸かると、疲れが湯に溶けていく。
真冬でもないから、そんなに身体は冷えていないはずなのに、お湯に浸かると、指先が冷たかったのだと感じる。
ちゃぷん、ちゃぷん、と足を動かし、膝を折り顎まで湯に浸かる。いつもと同じなのに、妙にソワソワするのは何故だろう。気持ちが上に行ったり下に行ったりふわふわしてて、急に恥ずかしくなるし、なんなんだこれ。
「……変なの」
恋をしたら、皆もこんな風になるのだろうか。頭の片隅にずっといる自分の恋人となった鉄堅に聞いてみたいと思った。
「そろそろ帰るよ、葉月ちゃん、また明日迎えにきても良い?」
「うん……夜、メールする」
葉月がそう言うと、鉄堅はとても幸せそうに微笑んだ。何度も切れかかった縁が、結び直され、確かに繋がっている、その幸福が鉄堅の胸に広がっていた。
メールをし合う事など、高校生ならばごく日常の一コマであるけれど、こと、葉月と鉄堅にとっては、それは日常ではなかったから。
小さな喜びが、少しづつ、日常の中に入っていくことが嬉しかった。このままずっと、当たり前になれば良いと、鉄堅は思った。
葉月と喋ることも、メールすることも、一緒に駅まで歩く事も、当たり前の日常になってほしい。飽きる程その日常を繰り返してみたい。
365日の中の何日を葉月と会えるだろう。毎日でも会いたいなんて思うのは欲張りだろうか。あまり多くを望みすぎたら、この幸福が壊れてしまったらいけない。
(自分の心の中の葉月ちゃんへ対する欲望など、際限なく大きくなってしまうから。自分を律して、葉月ちゃんが嫌がる事は絶対にしないでそばにいれるだけで良いのだから)
(でもいつか……もし叶うのならば、葉月ちゃんと同じ所へ帰りたい)
今はまだ学生で、親の庇護のもとにあり、恩恵を受けて生きている身だけれど、きちんと立身して、お金を稼ぎ、家を買い、その家に葉月がいたらどんなに幸せだろう。
こんな夢を密かに持ってるなんて葉月には言えないけど。
言ったら気持ち悪いと言われるかもしれない自覚はある。
(でも……いつか。葉月ちゃんと暮らすという夢を叶えたい)
傍らにいる、葉月を愛しく見つめ、鉄堅は、床に置いてあった自分の鞄を手にもった。
「じゃ、葉月ちゃん、帰るよ、目……だいぶ、赤みは引いたけど冷やしてね」
「うん、風呂に入ったら、冷やしとく」
「そうして、じゃ行くね、鍵かけてね」
「うん」
名残惜しくてついつい、言葉を探しては葉月へ投げてしまう。自分の必死さに、鉄堅は、密かに恥じ入りつつ、靴をはいた。
玄関のドアをあけ、最後に一目と振り替えると、葉月が、小さな声で、夜に。といった。
頷いて、扉を閉めて、外へ出ると、鉄堅はその場にへたりと、しゃがみこんだ。
「あぁ、葉月ちゃん…可愛ぃ」
夜にメールすることを楽しみにしていてくれるのだろうか。
面白いことを一つも言えないし、葉月ちゃんが喜んでくれる言葉を送れるかも解らないけど。でも、あんな風に待ってると言われるのは、鉄堅にとってはこの上なく嬉しい事だった。
◆◇◆
鉄堅が出ていった薄暗い玄関、葉月はポツンとたたずんで居たが、鍵を閉める事を思いだし、言われた通りにカチャリとロックをかけた。
リビングへ戻って電気をつけて、外に干してある洗濯物を、叩きながら取り込んで、畳にもっさりと置いた。
父とずっと二人暮らしだったから、葉月はある程度の家事全般ができた。凝った料理はできないけど、野菜を切って肉をやくだけだけど、父はいつも美味しいと喜んでくれる。
取り込んだ洗濯物を折り畳み、箪笥にしまう。その後は台所へ行って米を研いで炊飯器にセット、次は風呂洗い。
黙々と作業しながら、今しがたの鉄堅とのやり取りを思いだし、時々どうしようもない程の羞恥に襲われてしまう。
(恥ずかしい事を言ったかもしれない、何を口にしたかほぼ覚えてない)
告白をするなんて想定外だったし、自分が誰かに恋をするなんてもっと青天の霹靂だったし。しかも何よりも驚きなのは相手が鉄堅だなんて。
いや、驚きでもないのだろうか。ずっと実は心の奥底の潜在意識で鉄堅を選んでいたのかもしれない。
運命なんか嫌だと思ってたのに、今は、この広い世界で自分のたった一人がいることが誇らしく思えた。
(父さんに……)
鉄堅と付き合うことになったと、父に話すべきだろうかと考え、いやでもそれはまだ早いかと首をふり、赤面する。
「だってまだ、告白をしただけだし、まだそんな言うこと何も無いし」
ぽそぽそと、言い訳をしながら、服を脱いで風呂場に入った。掛け湯をして湯船に浸かると、疲れが湯に溶けていく。
真冬でもないから、そんなに身体は冷えていないはずなのに、お湯に浸かると、指先が冷たかったのだと感じる。
ちゃぷん、ちゃぷん、と足を動かし、膝を折り顎まで湯に浸かる。いつもと同じなのに、妙にソワソワするのは何故だろう。気持ちが上に行ったり下に行ったりふわふわしてて、急に恥ずかしくなるし、なんなんだこれ。
「……変なの」
恋をしたら、皆もこんな風になるのだろうか。頭の片隅にずっといる自分の恋人となった鉄堅に聞いてみたいと思った。
285
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【短編】初対面の推しになぜか好意を向けられています
大河
BL
夜間学校に通いながらコンビニバイトをしている黒澤悠人には、楽しみにしていることがある。それは、たまにバイト先のコンビニに買い物に来る人気アイドル俳優・天野玲央を密かに眺めることだった。
冴えない夜間学生と人気アイドル俳優。住む世界の違う二人の恋愛模様を描いた全8話の短編小説です。箸休めにどうぞ。
※「BLove」さんの第1回BLove小説・漫画コンテストに応募中の作品です
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました
ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。
落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。
“番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、
やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。
喋れぬΩと、血を信じない宰相。
ただの契約だったはずの絆が、
互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。
だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、
彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。
沈黙が祈りに変わるとき、
血の支配が終わりを告げ、
“番”の意味が書き換えられる。
冷血宰相×沈黙のΩ、
偽りの契約から始まる救済と革命の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる