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とりあえず、今晩から葉栗は入院して、明日色々検査をして明後日には退院するらしい。その後は、大学に近い僕のアパートから道場へ通う。僕はもちろん付き添いをせねばで、レポートや、バイトのシフトを調整せねばならず、そして、楽しみにしていた雪夜君へお泊まりの断りのメールを送らねばならなかった。アパートへ1人帰ってきた僕は、雪夜君へ送るメールを何度も何度も書いては消しを繰り返した。どう書いても、気持ちがうまく書けなくて、最終的に心配させないような無難な文章に落ち着いた。
『雪夜君、今日は楽しかったです、お泊まりの約束をした月曜日なのですが、用事ができてしまって行くことができません、ごめんなさい、また連絡します』
こんなメール送りたくない。せっかく雪夜君が僕のために予定を開けてくれたのに。画面を見つめながら、涙が競り上がってきた。
数時間前に別れたばかりなのに、もう会いたい。これが運命のツガイというものなのだろうか、片時も離れていたくないのに。
震える指でメール送信を押した。
しばらくスマホをぼーっと見詰めていると、ブルブル震えだして、そういえば、マナーモードにしていたことを思いだし、慌てて手に取ると、着信は雪夜君からだった。
一瞬出るかどうか迷った。でも、声が聞きたくて通話ボタンをおした。未練がましいったらない。
「もしもし」
「なるみ? 大丈夫か? どうしたんだ?」
「雪夜君……あの、ごめんなさい」
「謝らなくていい、どうした? 何かあったのか」
優しい声。すがり付きたくなる声。だけど、だけど、迷惑をかけたくない。雪夜君にだけはかけたくない。
「僕……」
弟に怪我をさせてしまったと言いそうになって、口を噤んだ。そんなことを言ったらきっと心配させる。優しい人だから。涙がまたぽろぽろとあふれ、鼻をすすったら、泣いていることがバレてしまう。早く話を終わらせないと。
「葉栗は実家で年越しをするそうで、僕は大学のレポートが終わらないから勉強しなくちゃで、ごめんなさい」
「ほんとに?」
「えぇ」
これ以上喋ったらボロが出そうで、沈黙していると、雪夜君は解ったと言った。
「解った、残念だけど、仕方ないね、辛かったら連絡するんだよ?」
「はい」
「俺はなるみのこと本当に大切にしたいから」
「……」
「もう部屋にいるの?」
「はい」
「そっか、じゃぁ、勉強頑張ってね」
「ありがとうございます」
「うん、じゃ」
「はぃ」
プツリと通話が切れた。吐き気に急に襲われて、トイレへ駆け込んだ。嗚咽と嘔吐を繰り返した。胃液が競り上がってきて気持ち悪い。
どうして骨が折れたのが自分じゃなかったのか、よりにもよってこんな時に、何もかもが上手く行かない。
ティッシュペーパーで口をぬぐい、流して、少し汚れた服を脱いだ。ついでにシャワーを浴びてしまおうとズボンを脱ぐと、ヒザから血が出ていた。無傷だと思ってたけど、あちこち打ったみたい。
青あざが、腕や、脛に浮かんでた。でも、外側の傷なんか大したこと無い、そんなものは時がたてばなおるのだから。
心に受けた傷は治らない、ずっとずっと、かさぶたができるのに時間がかかる。
葉栗に怪我をさせてしまったこと、母親に頬を叩かれたこと、雪夜君と会えなくなったこと。心の中に楽しいことが一つもなくて、じりじりと焼かれていくようだと思った。楽しい思いが焼かれていく。僕がバカだったせいで。取り返しがもうつかない。
「雪夜くん……会いたい」
口からこぼれ落ちる願望は、叶わないから願望なのだ。大丈夫、今までも一人でなんとか生きてきた。これこらもそれが続くだけ。なのに、一度知ってしまった温もりをこの上無く恋しく思う。
「僕の運命のツガイ」
夢にまでみた、僕の僕だけのアルファ。雪夜君が僕の運命だなんて未だに信じられないけれど。運命でも、結ばれないことってあるんだな。と、他人事みたいに思った。
『雪夜君、今日は楽しかったです、お泊まりの約束をした月曜日なのですが、用事ができてしまって行くことができません、ごめんなさい、また連絡します』
こんなメール送りたくない。せっかく雪夜君が僕のために予定を開けてくれたのに。画面を見つめながら、涙が競り上がってきた。
数時間前に別れたばかりなのに、もう会いたい。これが運命のツガイというものなのだろうか、片時も離れていたくないのに。
震える指でメール送信を押した。
しばらくスマホをぼーっと見詰めていると、ブルブル震えだして、そういえば、マナーモードにしていたことを思いだし、慌てて手に取ると、着信は雪夜君からだった。
一瞬出るかどうか迷った。でも、声が聞きたくて通話ボタンをおした。未練がましいったらない。
「もしもし」
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優しい声。すがり付きたくなる声。だけど、だけど、迷惑をかけたくない。雪夜君にだけはかけたくない。
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弟に怪我をさせてしまったと言いそうになって、口を噤んだ。そんなことを言ったらきっと心配させる。優しい人だから。涙がまたぽろぽろとあふれ、鼻をすすったら、泣いていることがバレてしまう。早く話を終わらせないと。
「葉栗は実家で年越しをするそうで、僕は大学のレポートが終わらないから勉強しなくちゃで、ごめんなさい」
「ほんとに?」
「えぇ」
これ以上喋ったらボロが出そうで、沈黙していると、雪夜君は解ったと言った。
「解った、残念だけど、仕方ないね、辛かったら連絡するんだよ?」
「はい」
「俺はなるみのこと本当に大切にしたいから」
「……」
「もう部屋にいるの?」
「はい」
「そっか、じゃぁ、勉強頑張ってね」
「ありがとうございます」
「うん、じゃ」
「はぃ」
プツリと通話が切れた。吐き気に急に襲われて、トイレへ駆け込んだ。嗚咽と嘔吐を繰り返した。胃液が競り上がってきて気持ち悪い。
どうして骨が折れたのが自分じゃなかったのか、よりにもよってこんな時に、何もかもが上手く行かない。
ティッシュペーパーで口をぬぐい、流して、少し汚れた服を脱いだ。ついでにシャワーを浴びてしまおうとズボンを脱ぐと、ヒザから血が出ていた。無傷だと思ってたけど、あちこち打ったみたい。
青あざが、腕や、脛に浮かんでた。でも、外側の傷なんか大したこと無い、そんなものは時がたてばなおるのだから。
心に受けた傷は治らない、ずっとずっと、かさぶたができるのに時間がかかる。
葉栗に怪我をさせてしまったこと、母親に頬を叩かれたこと、雪夜君と会えなくなったこと。心の中に楽しいことが一つもなくて、じりじりと焼かれていくようだと思った。楽しい思いが焼かれていく。僕がバカだったせいで。取り返しがもうつかない。
「雪夜くん……会いたい」
口からこぼれ落ちる願望は、叶わないから願望なのだ。大丈夫、今までも一人でなんとか生きてきた。これこらもそれが続くだけ。なのに、一度知ってしまった温もりをこの上無く恋しく思う。
「僕の運命のツガイ」
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