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集中治療室の前で1時間程過ぎたとき、母親と義理父が駆けるようにして僕の元へやってきて、母親と目があった瞬間に、パチンっと頬を打たれた。頬から血が飛び散ったんじゃないかと思うくらい痛かった。目がチカチカして、その場から動けなかった。
「っ」
「謝りなさいっ!」
怖くてみれない、僕は言われるままに頭を下げた。義理父は、はぁっと重い溜め息を吐いて、参ったなとボソッと呟いた。
「葉栗はこれから大学で先行トレーニングに入るのに、4月になったら全日本だ」
「ごめんなさいあなた」
「君のせいじゃないだろ」
胃がキリキリした。誰のせいって、僕の僕だけのせいに決まってる。葉栗は注目のアスリートで、僕はただの学生だ。こんなことあっちゃいけない。
「ごめんなさい」
頭を上げるタイミングがわからなくて、ずっとうつ向いていると、集中治療室のランプが消え、中から先生が出てきた。
「先生、息子は?」
「安心して下さい、命に別状はありません、ただ、右腕の肘を複雑骨折していて、全治6週間リハビリを含めると半年から1年をみていただきたい」
「そんな…あの子は大事な大会が控えてるんです、もっと早くなんとかなりませんか」
「骨の強度を回復するのには時間がかかります」
「そんな」
「詳しい説明はこちらで」
看護スタッフが、母の背を労るようになぜながら、個室へと誘導していく。
僕はついていっていいのか解らずにその場にとどまった。他の看護師さんが気遣わしげに僕をちらりと見たが、誰も声をかけてはこなかった。
しばらくして、葉栗は一般病棟へと移され、意識がもどったと家族が呼ばれた。母と義理父の後について、僕も葉栗の病室へ入った。葉栗は、医師とはなしをしていたが、意識はしっかりしているのか、義理父と母とも話ができた。
僕は隅の方でじっとしていた。
「退院したら、実家に戻るしかないわ」
「柔道もしばらくは休むしかない」
落胆を隠し、母と義理父は、葉栗に陽気にかたりかけた。だが、葉栗は首を振った。
「いや、冬休みのうちは道場へは毎日行きたいんだ、こういうのは休むとリズムが崩れてよくないから、見てることも勉強になるし、大丈夫、鳴水が世話をしてくれる」
突然、葉栗に名を呼ばれ、びくっと身体を揺らした。葉栗と目が合う。僕は、生唾をごくりと飲み込んだ。
「なぁ、鳴水、俺をサポートしてくれるよな?」
「え、あ、うん」
「そうね、鳴水のせいでこんなことになったのだし、鳴水、葉栗君が望むことを何でもするのよ」
「休まず、道場へ行く姿勢は素晴らしいなさすが葉栗だ、父さんは応援するぞ、何か欲しいものないか?」
母と義理父が、葉栗の決断の素晴らしさに感動し、そして僕は葉栗を冬休みの間世話することになった。
心の片隅で、雪夜君との約束がポロポロと崩れていくのを感じた。なによりも嬉しかった約束。欲しい夢がつまった約束。だけれど、それはもう手には入らない。身体から穴が空いて、空気が、力が、抜けていくようだった。話がまた勝手に決まっていく。
僕のことを好きだと言うならどうして、僕の気持ちを蔑ろにするのだろう。言うことを聞く奴隷が欲しかっただけじゃないのか? こんなの愛じゃないよ。
でも僕、月曜日くらいから発情期がくるんだけどなんて、もう言える雰囲気ではなかった。
「っ」
「謝りなさいっ!」
怖くてみれない、僕は言われるままに頭を下げた。義理父は、はぁっと重い溜め息を吐いて、参ったなとボソッと呟いた。
「葉栗はこれから大学で先行トレーニングに入るのに、4月になったら全日本だ」
「ごめんなさいあなた」
「君のせいじゃないだろ」
胃がキリキリした。誰のせいって、僕の僕だけのせいに決まってる。葉栗は注目のアスリートで、僕はただの学生だ。こんなことあっちゃいけない。
「ごめんなさい」
頭を上げるタイミングがわからなくて、ずっとうつ向いていると、集中治療室のランプが消え、中から先生が出てきた。
「先生、息子は?」
「安心して下さい、命に別状はありません、ただ、右腕の肘を複雑骨折していて、全治6週間リハビリを含めると半年から1年をみていただきたい」
「そんな…あの子は大事な大会が控えてるんです、もっと早くなんとかなりませんか」
「骨の強度を回復するのには時間がかかります」
「そんな」
「詳しい説明はこちらで」
看護スタッフが、母の背を労るようになぜながら、個室へと誘導していく。
僕はついていっていいのか解らずにその場にとどまった。他の看護師さんが気遣わしげに僕をちらりと見たが、誰も声をかけてはこなかった。
しばらくして、葉栗は一般病棟へと移され、意識がもどったと家族が呼ばれた。母と義理父の後について、僕も葉栗の病室へ入った。葉栗は、医師とはなしをしていたが、意識はしっかりしているのか、義理父と母とも話ができた。
僕は隅の方でじっとしていた。
「退院したら、実家に戻るしかないわ」
「柔道もしばらくは休むしかない」
落胆を隠し、母と義理父は、葉栗に陽気にかたりかけた。だが、葉栗は首を振った。
「いや、冬休みのうちは道場へは毎日行きたいんだ、こういうのは休むとリズムが崩れてよくないから、見てることも勉強になるし、大丈夫、鳴水が世話をしてくれる」
突然、葉栗に名を呼ばれ、びくっと身体を揺らした。葉栗と目が合う。僕は、生唾をごくりと飲み込んだ。
「なぁ、鳴水、俺をサポートしてくれるよな?」
「え、あ、うん」
「そうね、鳴水のせいでこんなことになったのだし、鳴水、葉栗君が望むことを何でもするのよ」
「休まず、道場へ行く姿勢は素晴らしいなさすが葉栗だ、父さんは応援するぞ、何か欲しいものないか?」
母と義理父が、葉栗の決断の素晴らしさに感動し、そして僕は葉栗を冬休みの間世話することになった。
心の片隅で、雪夜君との約束がポロポロと崩れていくのを感じた。なによりも嬉しかった約束。欲しい夢がつまった約束。だけれど、それはもう手には入らない。身体から穴が空いて、空気が、力が、抜けていくようだった。話がまた勝手に決まっていく。
僕のことを好きだと言うならどうして、僕の気持ちを蔑ろにするのだろう。言うことを聞く奴隷が欲しかっただけじゃないのか? こんなの愛じゃないよ。
でも僕、月曜日くらいから発情期がくるんだけどなんて、もう言える雰囲気ではなかった。
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