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アナスタシアとの散策
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南門へ向かう道は、人と荷車でそこそこ賑わっていた。
昼の陽射しに石畳が光り、風に乗って焼き立てのパンの匂いが流れてくる。
「やっぱり外っていいですねぇ!」
アナスタシアは歩きながら、手に持った串焼きを嬉しそうにかじった。
「部屋に篭っていたら、こういう匂いすら忘れますよ」
「勤務中によくそんなに食べられるわね」
呆れ半分に言いながらも、セリーヌも紙包みを受け取り、ひと口かじる。
意外にも素朴で、香ばしい味だった。
通りには笑い声が飛び交い、どの店にも活気がある。
――事件があった場所とは思えないほどだ
「なんと!思ったより普通ですね」
アナスタシアがそう言い、セリーヌが周囲を見渡すと、八百屋の主人が気さくに声をかけてきた。
「おや、治安局の方でしょう? リュミエール商会の件、大変でしたねぇ」
「ご存知で?」
「ええ。でもねぇ、あそこは昔からきっちりしてる商会ですよ。きっと誤解ですよ」
「……誤解、ですか」
「証拠も出なかったんでしょう? それが何よりの証拠ですって」
主人はそう言って笑い、次の客に声をかけた。
アナスタシアが小声でつぶやく。
「なんか……思ってたのと違いますね」
アナスタシアが言うと、セリーヌは軽く息を吐いた。
「……きっと、商会が事前に手を回してたのね」
「手を回す、って?」
「評判が悪くならないように、話を通しているのだと思うわ。『誤解だった』ってことにしておけば、商会としてダメージは少ないしね」
「流石ですね、セリーヌさん!」
別に、セリーヌが指示したわけではない。
商会の人間たちが、リュミエールの為にと動いたのだろう。
そこに私情などなく、ただ“勤め”を果たそうとする者たちの姿があった。
アナスタシアは、興味津々といった様子で次々と店先に立ち寄っていった。
焼き菓子をつまみながら、八百屋の主人や露店の商人に声をかける。
「最近、何か変わったことはありませんか?」
「いや……特には――ああ、でもな」
ふと、果物籠を並べていた商人が思い出したように顔を上げた。
「そう言えば、最近、ここいらじゃ見かけない商会が頻繁に出入りするようになったんだ」
セリーヌがすかさず問い返す。
「商会? 名前はわかる?」
「確か……『オックスフォード商会』だったかな。原材料を扱うところだったはずだ」
聞いたことのない名前だった。
少なくとも、これまでの取引記録にも、監査局の報告にも一度も出てこなかったはずだ。
加えて、“原材料を扱う”という所にも違和感があった。
あれは扱いが難しく、採算の取りづらい分野だ。
仕入れや保管の手間に比べて利益が薄く、通常は大手の商会――たとえば、リュミエールのような規模でなければ成り立たない。
「これは……調べ甲斐がありそうですね!」
アナスタシアが目を輝かせる。
セリーヌはその勢いに、思わず小さく笑みをこぼした。
「ええ。でも、焦らずにね。こういう時こそ慎重さが大事よ」
「はーい!」
そう言ってアナスタシアは次の聞き込み先を探していた。
「……まったく、どこにそんな体力があるのかしら」
そう呟きながらも、その背中を追って歩き出す。午後の日差しが傾き始め、通りの影が長く伸びていた。賑わう声が遠くで響き、焼き菓子の甘い匂いが風に流れていく。
南門の街は、今日も変わらず動いていた。
昼の陽射しに石畳が光り、風に乗って焼き立てのパンの匂いが流れてくる。
「やっぱり外っていいですねぇ!」
アナスタシアは歩きながら、手に持った串焼きを嬉しそうにかじった。
「部屋に篭っていたら、こういう匂いすら忘れますよ」
「勤務中によくそんなに食べられるわね」
呆れ半分に言いながらも、セリーヌも紙包みを受け取り、ひと口かじる。
意外にも素朴で、香ばしい味だった。
通りには笑い声が飛び交い、どの店にも活気がある。
――事件があった場所とは思えないほどだ
「なんと!思ったより普通ですね」
アナスタシアがそう言い、セリーヌが周囲を見渡すと、八百屋の主人が気さくに声をかけてきた。
「おや、治安局の方でしょう? リュミエール商会の件、大変でしたねぇ」
「ご存知で?」
「ええ。でもねぇ、あそこは昔からきっちりしてる商会ですよ。きっと誤解ですよ」
「……誤解、ですか」
「証拠も出なかったんでしょう? それが何よりの証拠ですって」
主人はそう言って笑い、次の客に声をかけた。
アナスタシアが小声でつぶやく。
「なんか……思ってたのと違いますね」
アナスタシアが言うと、セリーヌは軽く息を吐いた。
「……きっと、商会が事前に手を回してたのね」
「手を回す、って?」
「評判が悪くならないように、話を通しているのだと思うわ。『誤解だった』ってことにしておけば、商会としてダメージは少ないしね」
「流石ですね、セリーヌさん!」
別に、セリーヌが指示したわけではない。
商会の人間たちが、リュミエールの為にと動いたのだろう。
そこに私情などなく、ただ“勤め”を果たそうとする者たちの姿があった。
アナスタシアは、興味津々といった様子で次々と店先に立ち寄っていった。
焼き菓子をつまみながら、八百屋の主人や露店の商人に声をかける。
「最近、何か変わったことはありませんか?」
「いや……特には――ああ、でもな」
ふと、果物籠を並べていた商人が思い出したように顔を上げた。
「そう言えば、最近、ここいらじゃ見かけない商会が頻繁に出入りするようになったんだ」
セリーヌがすかさず問い返す。
「商会? 名前はわかる?」
「確か……『オックスフォード商会』だったかな。原材料を扱うところだったはずだ」
聞いたことのない名前だった。
少なくとも、これまでの取引記録にも、監査局の報告にも一度も出てこなかったはずだ。
加えて、“原材料を扱う”という所にも違和感があった。
あれは扱いが難しく、採算の取りづらい分野だ。
仕入れや保管の手間に比べて利益が薄く、通常は大手の商会――たとえば、リュミエールのような規模でなければ成り立たない。
「これは……調べ甲斐がありそうですね!」
アナスタシアが目を輝かせる。
セリーヌはその勢いに、思わず小さく笑みをこぼした。
「ええ。でも、焦らずにね。こういう時こそ慎重さが大事よ」
「はーい!」
そう言ってアナスタシアは次の聞き込み先を探していた。
「……まったく、どこにそんな体力があるのかしら」
そう呟きながらも、その背中を追って歩き出す。午後の日差しが傾き始め、通りの影が長く伸びていた。賑わう声が遠くで響き、焼き菓子の甘い匂いが風に流れていく。
南門の街は、今日も変わらず動いていた。
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