12 / 25
三ヶ月で出来る事を
しおりを挟む
リュミエール商会の看板からは、ついに灯りが消えた。
重厚な木の扉には「営業停止中」の札が掛けられ、人気もなく、ただ風が吹き抜けるだけだった。
あれから数日。治安局の方でも、関連書類の処理がようやく終わり、形の上では「事件の終結」を迎えた。
だが、セリーヌの胸の奥にある疑念は未だに晴れなかった。
机の上に積まれた書類の束を見つめる。
押収品の目録、供述調書、監査局との往復文書。どれを見ても、決定的なものは何ひとつない。
「……やっぱり、気になってるんですね」
顔を上げると、ドアのそばにアナスタシアが立っていた。
「仕事の確認をしていただけよ」
セリーヌがそう言うと、アナスタシアは小さく肩をすくめて笑った。
「そう言う割に、ずいぶん難しい顔してましたよ?」
アナスタシアは部屋に入ってくるなり、机の端に手をついて身を乗り出した。
「気のせいよ。……それより、監査局の方は?」
「順調です!――と言いたいところですけど、正直、退屈ですね!」
彼女は勢いよく報告書の束を机の上に置いた。
「商会は完全に閉まってるし、出入りしている人たちもピリピリしてて、誰も口を開いてくれません。おかげで雑務ばっかりですよ!」
「営業停止期間中だもの。動きがないのは当然でしょう」
「そうなんですけど……。こう、なんというか、静かすぎて逆に落ち着かないんですよ。そわそわしちゃうというか……」
セリーヌは視線を机に戻し、短く頷いた。
「……私も同じ意見よ」
その一言に、アナスタシアの顔がぱっと明るくなる。
「ですよね! やっぱり変ですよね!よーし、じゃあこの三ヶ月、徹底的に調べましょう!」
「とは言っても……どこから調べたらいいのかしら」
セリーヌが呟くと、アナスタシアは「うーん」と腕を組み、考える。
だが、数秒後にはあっけらかんとした声が返ってくる。
「そんなの簡単ですよ! 片っ端から当たってみればいいんです!」
「じゃあ、どこからやるのかしら?」
セリーヌが少し呆れたように尋ねると、アナスタシアはぱっと顔を上げ、目を輝かせた。
「うーん……そうですねぇ……」
腕を組んで考えるふりをしたのも束の間、彼女は勢いよく手を打った。
「――じゃあ、外へ出てみませんか?」
「外?」
「ええ! ずっと詰所にこもってても、何も見えてこないですし!」
その提案に、セリーヌはわずかに目を細めた。
彼女が誰かと一緒に外に出ることは、ほとんどなかった。
用件があっても単独行動を好み、必要以上に人と足並みを揃えることはしなかった。
「……あなたらしい提案ね、いいわ。行きましょう」
セリーヌが椅子から立ち上がると、アナスタシアの顔がぱっと輝いた。
「ほんとですか!? じゃあ、今すぐ行きましょう!」
その無邪気な言葉に、セリーヌの表情がわずかに和らぐ。
彼女のそういう明るさが、沈んだ空気を少しだけ動かしてくれる。
机の上の書類をまとめながら、セリーヌはふと窓の外へ目を向けた。
「……三ヶ月。長いようで、短いわね」
「だからこそ、有効に使いましょう! それに私、監査官ですから――できるんです、色んな事を!」
胸を張るアナスタシアに、セリーヌは思わず小さく笑った。
「ありがとう、頼りにしているわ」
「任せて下さい!リュミエール商会に居候している以上、役に立って見せます!」
セリーヌは小さく頷く。
こうして、二人の長い三ヶ月が始まった。
重厚な木の扉には「営業停止中」の札が掛けられ、人気もなく、ただ風が吹き抜けるだけだった。
あれから数日。治安局の方でも、関連書類の処理がようやく終わり、形の上では「事件の終結」を迎えた。
だが、セリーヌの胸の奥にある疑念は未だに晴れなかった。
机の上に積まれた書類の束を見つめる。
押収品の目録、供述調書、監査局との往復文書。どれを見ても、決定的なものは何ひとつない。
「……やっぱり、気になってるんですね」
顔を上げると、ドアのそばにアナスタシアが立っていた。
「仕事の確認をしていただけよ」
セリーヌがそう言うと、アナスタシアは小さく肩をすくめて笑った。
「そう言う割に、ずいぶん難しい顔してましたよ?」
アナスタシアは部屋に入ってくるなり、机の端に手をついて身を乗り出した。
「気のせいよ。……それより、監査局の方は?」
「順調です!――と言いたいところですけど、正直、退屈ですね!」
彼女は勢いよく報告書の束を机の上に置いた。
「商会は完全に閉まってるし、出入りしている人たちもピリピリしてて、誰も口を開いてくれません。おかげで雑務ばっかりですよ!」
「営業停止期間中だもの。動きがないのは当然でしょう」
「そうなんですけど……。こう、なんというか、静かすぎて逆に落ち着かないんですよ。そわそわしちゃうというか……」
セリーヌは視線を机に戻し、短く頷いた。
「……私も同じ意見よ」
その一言に、アナスタシアの顔がぱっと明るくなる。
「ですよね! やっぱり変ですよね!よーし、じゃあこの三ヶ月、徹底的に調べましょう!」
「とは言っても……どこから調べたらいいのかしら」
セリーヌが呟くと、アナスタシアは「うーん」と腕を組み、考える。
だが、数秒後にはあっけらかんとした声が返ってくる。
「そんなの簡単ですよ! 片っ端から当たってみればいいんです!」
「じゃあ、どこからやるのかしら?」
セリーヌが少し呆れたように尋ねると、アナスタシアはぱっと顔を上げ、目を輝かせた。
「うーん……そうですねぇ……」
腕を組んで考えるふりをしたのも束の間、彼女は勢いよく手を打った。
「――じゃあ、外へ出てみませんか?」
「外?」
「ええ! ずっと詰所にこもってても、何も見えてこないですし!」
その提案に、セリーヌはわずかに目を細めた。
彼女が誰かと一緒に外に出ることは、ほとんどなかった。
用件があっても単独行動を好み、必要以上に人と足並みを揃えることはしなかった。
「……あなたらしい提案ね、いいわ。行きましょう」
セリーヌが椅子から立ち上がると、アナスタシアの顔がぱっと輝いた。
「ほんとですか!? じゃあ、今すぐ行きましょう!」
その無邪気な言葉に、セリーヌの表情がわずかに和らぐ。
彼女のそういう明るさが、沈んだ空気を少しだけ動かしてくれる。
机の上の書類をまとめながら、セリーヌはふと窓の外へ目を向けた。
「……三ヶ月。長いようで、短いわね」
「だからこそ、有効に使いましょう! それに私、監査官ですから――できるんです、色んな事を!」
胸を張るアナスタシアに、セリーヌは思わず小さく笑った。
「ありがとう、頼りにしているわ」
「任せて下さい!リュミエール商会に居候している以上、役に立って見せます!」
セリーヌは小さく頷く。
こうして、二人の長い三ヶ月が始まった。
72
あなたにおすすめの小説
【完結】氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲
恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。
完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。
婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。
家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、
家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。
理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇!
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります
なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。
忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。
「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」
「白い結婚ですか?」
「実は俺には……他に愛する女性がいる」
それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。
私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた
――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。
ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。
「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」
アロルド、貴方は何を言い出すの?
なにを言っているか、分かっているの?
「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」
私の答えは決まっていた。
受け入れられるはずがない。
自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。
◇◇◇
設定はゆるめです。
とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
〖完結〗お飾り王妃は追放されて国を創る~最強聖女を追放したバカ王~
藍川みいな
恋愛
「セリシア、お前はこの国の王妃に相応しくない。この国から追放する!」
王妃として聖女として国を守って来たセリシアを、ジオン王はいきなり追放し、聖女でもない侯爵令嬢のモニカを王妃にした。
この大陸では聖女の力が全てで、聖女協会が国の順位を決めていた。何十年も一位だったスベマナ王国は、優秀な聖女を失い破滅する。
設定ゆるゆるの架空のお話です。
本編17話で完結になります。
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
「役立たず」と婚約破棄されたけれど、私の価値に気づいたのは国中であなた一人だけでしたね?
ゆっこ
恋愛
「――リリアーヌ、お前との婚約は今日限りで破棄する」
王城の謁見の間。高い天井に声が響いた。
そう告げたのは、私の婚約者である第二王子アレクシス殿下だった。
周囲の貴族たちがくすくすと笑うのが聞こえる。彼らは、殿下の隣に寄り添う美しい茶髪の令嬢――伯爵令嬢ミリアが勝ち誇ったように微笑んでいるのを見て、もうすべてを察していた。
「理由は……何でしょうか?」
私は静かに問う。
婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?
鶯埜 餡
恋愛
バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。
今ですか?
めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?
お前との婚約は、ここで破棄する!
ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」
華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。
一瞬の静寂の後、会場がどよめく。
私は心の中でため息をついた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる