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工房への聞き込み
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翌日、二人は王立工房へ向かうことにした。
王立工房は王都の西端、職人街のさらに奥に位置している。
煉瓦造りの建物が並び、通りには鉄を打つ音が絶え間なく響いていた。
昼でもうっすらと煤煙が漂い、空気は金属の熱を含んで少し暑かった。
「すごい……まるで街全体が工房みたいですね」
アナスタシアが目を丸くして見渡す。
「この一帯は昔から鍛冶職人の区画なの。王立工房もこの中にあるわ」
「ここで作られた武具が、軍に渡っていくんですね」
「ええ。だから出入りにも厳しい審査があるのよ」
実際に王立工房に入るには、いくつもの審査を経なければならなかった。
門の前で身分証の提示を求められ、名前と所属部署、訪問の目的が逐一記録される。
その上で、監査局の印章が本物かどうかを照合され、同行者の身元まで細かく確認されるという徹底ぶりだ。
たとえ王都の監査局に属する者であっても、例外はなかった。
アナスタシアもまた、通行札を受け取るまでに三度同じ質問を繰り返されている。
王立工房は軍の武具を扱うため、情報の流出や不正の介入を何よりも警戒していた。
門を抜けた先には、石畳の通路が続いていた。
荷車に積まれた鉄材が行き交い、職員たちは皆、通行札を掲げたまま無言で作業にあたっている。
敷地の奥では、巨大な煙突から白い蒸気が立ちのぼり、風に混じって焦げた鉄の匂いが漂う。
セリーヌは通路を進みながら、左右の作業場に視線をやる。
職人たちは一様に黙々と手を動かし、誰一人として雑談をする者はいなかった。
やがて二人は、敷地の中央に建つ大きな建物の前に立った。
正面の扉の上には王家の紋章が掲げられ、その下に「管理棟」と刻まれている。
入口には受付の机があり、事務服姿の女性が帳簿を整理していた。
アナスタシアが一歩進み出て、丁寧に声をかける。
「すみません、監査局の者ですが。工房の様子の確認で参りました!」
女性職員は顔を上げ、二人の通行札に目をやると、少し目を見開いた。
「監査局の方ですね。お待ちしておりました。昨日の通達は拝見しております」
彼女は机の引き出しを開け、手早く紙を一枚取り出した。
「ご同行の方も記録しておりますので、どうぞこちらへ。ご案内いたします」
アナスタシアが頷き、セリーヌと共に建物の中へ足を踏み入れる。
外の熱気とは対照的に、室内は静かだった。
分厚い石壁が音を吸い込み、外から聞こえていた槌音が嘘のように遠のく。
受付の女性は、案内の途中で足を止め、二人に向き直った。
「今回、アナスタシア様が監査局のご所属ということで、特段の出入り制限はございません。ただし――」
彼女は少し声を落とし、真剣な眼差しを向けた。
「場所によっては危険な作業区もございます。溶鉱炉の近くなどは火花が飛び散りますし、通路の鉄材も熱を帯びています。移動の際は十分お気をつけください」
アナスタシアは軽く頭を下げた。
「ありがとうございます!気をつけます」
女性職員は小さく微笑み、軽く会釈を返した。
「それでは、どうぞ。私は受付に戻りますが、何かございましたら呼び鈴でお知らせください」
そう言い残して、彼女は静かに戻っていった。
アナスタシアは、女性職員の姿が見えなくなるのを確認すると、すぐに肩の力を抜いた。
そして、ぱっと明るい声を出す。
「さて、どこに何があるか、とりあえず工房内を歩いてみましょう!」
勢いよくそう言って、早くも通路の奥へ視線を向ける。
そこには扉がいくつも続き、それぞれに小さな札が掛けられている。
「材料庫」「精錬区」「検品室」――いかにも工房らしい配置だ。
セリーヌはそんな彼女の様子に小さく息を吐き、静かに言った。
「そうね。まずは全体の構造を把握しておくのが先決だわ」
彼女は肩に掛けていた小さな鞄を下ろし、近くの棚の隅に置く。
「荷物はここに置いていきましょう。あまり余計なものを持ち歩くと、職人たちの目につくわ」
アナスタシアも慌てて頷き、腰にかけてある書類袋を外して棚の隣に置いた。
セリーヌは視線を通路の奥に向ける。
「まずは材料庫を見てみましょう。あそこなら、搬入や記録の痕跡が残っているはず」
「了解ですっ!」
アナスタシアが軽く拳を握ると、革靴の音を響かせて歩き出す。
そうして、二人は工房の調査へと足を踏み出した。
王立工房は王都の西端、職人街のさらに奥に位置している。
煉瓦造りの建物が並び、通りには鉄を打つ音が絶え間なく響いていた。
昼でもうっすらと煤煙が漂い、空気は金属の熱を含んで少し暑かった。
「すごい……まるで街全体が工房みたいですね」
アナスタシアが目を丸くして見渡す。
「この一帯は昔から鍛冶職人の区画なの。王立工房もこの中にあるわ」
「ここで作られた武具が、軍に渡っていくんですね」
「ええ。だから出入りにも厳しい審査があるのよ」
実際に王立工房に入るには、いくつもの審査を経なければならなかった。
門の前で身分証の提示を求められ、名前と所属部署、訪問の目的が逐一記録される。
その上で、監査局の印章が本物かどうかを照合され、同行者の身元まで細かく確認されるという徹底ぶりだ。
たとえ王都の監査局に属する者であっても、例外はなかった。
アナスタシアもまた、通行札を受け取るまでに三度同じ質問を繰り返されている。
王立工房は軍の武具を扱うため、情報の流出や不正の介入を何よりも警戒していた。
門を抜けた先には、石畳の通路が続いていた。
荷車に積まれた鉄材が行き交い、職員たちは皆、通行札を掲げたまま無言で作業にあたっている。
敷地の奥では、巨大な煙突から白い蒸気が立ちのぼり、風に混じって焦げた鉄の匂いが漂う。
セリーヌは通路を進みながら、左右の作業場に視線をやる。
職人たちは一様に黙々と手を動かし、誰一人として雑談をする者はいなかった。
やがて二人は、敷地の中央に建つ大きな建物の前に立った。
正面の扉の上には王家の紋章が掲げられ、その下に「管理棟」と刻まれている。
入口には受付の机があり、事務服姿の女性が帳簿を整理していた。
アナスタシアが一歩進み出て、丁寧に声をかける。
「すみません、監査局の者ですが。工房の様子の確認で参りました!」
女性職員は顔を上げ、二人の通行札に目をやると、少し目を見開いた。
「監査局の方ですね。お待ちしておりました。昨日の通達は拝見しております」
彼女は机の引き出しを開け、手早く紙を一枚取り出した。
「ご同行の方も記録しておりますので、どうぞこちらへ。ご案内いたします」
アナスタシアが頷き、セリーヌと共に建物の中へ足を踏み入れる。
外の熱気とは対照的に、室内は静かだった。
分厚い石壁が音を吸い込み、外から聞こえていた槌音が嘘のように遠のく。
受付の女性は、案内の途中で足を止め、二人に向き直った。
「今回、アナスタシア様が監査局のご所属ということで、特段の出入り制限はございません。ただし――」
彼女は少し声を落とし、真剣な眼差しを向けた。
「場所によっては危険な作業区もございます。溶鉱炉の近くなどは火花が飛び散りますし、通路の鉄材も熱を帯びています。移動の際は十分お気をつけください」
アナスタシアは軽く頭を下げた。
「ありがとうございます!気をつけます」
女性職員は小さく微笑み、軽く会釈を返した。
「それでは、どうぞ。私は受付に戻りますが、何かございましたら呼び鈴でお知らせください」
そう言い残して、彼女は静かに戻っていった。
アナスタシアは、女性職員の姿が見えなくなるのを確認すると、すぐに肩の力を抜いた。
そして、ぱっと明るい声を出す。
「さて、どこに何があるか、とりあえず工房内を歩いてみましょう!」
勢いよくそう言って、早くも通路の奥へ視線を向ける。
そこには扉がいくつも続き、それぞれに小さな札が掛けられている。
「材料庫」「精錬区」「検品室」――いかにも工房らしい配置だ。
セリーヌはそんな彼女の様子に小さく息を吐き、静かに言った。
「そうね。まずは全体の構造を把握しておくのが先決だわ」
彼女は肩に掛けていた小さな鞄を下ろし、近くの棚の隅に置く。
「荷物はここに置いていきましょう。あまり余計なものを持ち歩くと、職人たちの目につくわ」
アナスタシアも慌てて頷き、腰にかけてある書類袋を外して棚の隣に置いた。
セリーヌは視線を通路の奥に向ける。
「まずは材料庫を見てみましょう。あそこなら、搬入や記録の痕跡が残っているはず」
「了解ですっ!」
アナスタシアが軽く拳を握ると、革靴の音を響かせて歩き出す。
そうして、二人は工房の調査へと足を踏み出した。
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