9 / 13
近付く距離
しおりを挟む
一方、王家の思惑なんて気付きもしないナタリアは、全く怖くない王太子にすっかり心を開いていた。
「殿下、早速お菓子コーナーへ参りましょう!」
「ちょっと待ってもらえるかな」
色気より食い気のナタリアを悠然とした微笑みで制すると、フェルゼンはボーイからグラスを受け取り、鮮やかなグリーンの飲み物をナタリアに手渡してくれる。
「はい、ちゃんと水分も摂らないとね」
「ありがとうございます。わぁ、このドリンク、殿下の瞳と同じ美しい緑色ですね!」
目を輝かせながら、ドリンクとフェルゼンの瞳を見比べながらはしゃぐナタリアに、フェルゼンの頬は再び赤く染まった。
彼の瞳を平気で見られる人間は稀な為、そんな誉められ方をしたことが今までの人生で無かったのである。
「ありがとう。貴方の茶色い髪と茶色い瞳の方が美しいし、私はとても好きだよ」
ナタリアの髪も瞳も、在り来たりで平凡過ぎる地味な色合いだったが、フェルゼンには特別綺麗な色に見えているらしい。
本気で心からそう思っているし、ちゃっかり告白染みた台詞まで口にしている。
「え?そうですか?それはありがとうございます、殿下」
気遣いに決まっていると思いつつも、ナタリアはとりあえずお礼を言った。
自分の垢抜け無さは、自分が一番よくわかっている。
「私は本心から言っているんだけれどな。あと私のことはフェルゼンと名前で呼んで欲しい。貴方のこともナタリアと呼んでいいかな?」
ダンスの前より幾分砕けた口調で訊いてくるが、ただの子爵令嬢のナタリアに拒否という選択肢はない。
「それは構いませんが。あの、私ったらフェルゼン様を独占してしまって。他の方と踊らなくてよろしかったのですか?」
王太子を独占していることに気付いてしまい、ナタリアは急激に不安に襲われた。
令嬢達の反感を買っているのではないかと、心臓がバクバク鳴っているが、実際そんな令嬢などいやしない。
むしろ王太子に普通に接することが出来るナタリアを尊敬に似た目で見ているのだが、本人はわかっていなかった。
「私は誰よりもナタリアと共に過ごしたい。駄目だろうか?」
子犬のような瞳でフェルゼンに見つめられ、ナタリアは言葉に詰まってしまう。
「駄目・・・ではないですよ?」
「そうか!ではお菓子を食べよう!!」
急に元気になったフェルゼンに手を引かれて、並んだお菓子の前まで連れていかれてしまう。
そしてフェルゼンは少し悩んだ様子を見せながらも、マドレーヌを選ぶとナタリアの口元にマドレーヌを押し付けた。
「ナタリア、あーん」
「殿下、それはちょっと・・・」
「フェルゼンだよ?」
「フェ、フェルゼン様、自分で食べ・・・モゴッ・・・おいひいでふ・・・」
マドレーヌを強引に口に放り込まれ、膨らんだ頬をつつかれる。
「ナタリアはリスみたいで可愛いなぁ。ずっと見ていられる。ふふ、次のお菓子は何がいいかな?」
甘々な態度でナタリアを構い倒しているフェルゼンに、周囲は呆気にとられるしかない。
そんな妙な空気が流れる中、みんなの心を代弁する声が響いた。
「ちょっとフェルゼン!あなたそんな性格だったかしら!?」
ナタリアが声の方角を向くと、フェルゼンと同じ美しい金髪を綺麗に巻き、真っ赤なドレスを上品に着こなした令嬢が立っていた。
目鼻立ちがハッキリとしていて、メリハリのある体型に、ナタリアは目を奪われた。
なんて綺麗な方!
私は顔も体もぼやけているから、同性なのに見惚れちゃうわ。
私もこの方みたいな容姿だったら人生全然違っただろうけれど、私は地味に生きたいから適材適所なのかもね。
ナタリアが変な納得をしていると、フェルゼンが親しげに令嬢と話し出す。
「ああ、アメリ。具合は良くなったのかい?」
「そんなことはどうでもいいのよ!フェルゼン、一体どういうことなの!?私がダンスの為に駆け付けてみれば、その子とイチャイチャして!!」
取り乱すアメリを目にし、鈍感なナタリアでも理解してしまった。
なるほど、このアメリ様がフェルゼン様の本当のエスコート相手だったのね。
でも体調不良で今まで休んでいらっしゃったと。
回復して来てみたら、私とフェルゼン様が一緒にいたので気分を害された・・・
・・・まずくない?
これって絶対勘違いされてるわよね?
今度こそ夜会の定番、令嬢虐めが起きてしまうと慌てたナタリアは、なんとか弁解を試みることにした。
「あ、違うんで」
「アメリ、彼女はレンダー子爵令嬢のナタリア。さっき一緒に踊って、今はお菓子を楽しんでいるところなんだ」
ナタリアの腰を抱き寄せると、フェルゼンが弾む声でアメリにナタリアの紹介をした。
ナタリアの弁解を思いっきりかき消しながら。
ほええ!?
その言い方は余計に誤解されるヤツですよね!?
私に弁解のチャンスを!!
動揺を隠せないナタリアに、フェルゼンは更に追い討ちをかけた。
「ナタリア、彼女は侯爵令嬢のアメリだよ。僕の従姉で・・・」
侯爵令嬢!!
出たーー、小説通り!!
焦っているナタリアには、フェルゼンの紹介など頭に入ってこない。
アタフタしているナタリアに、アメリが真顔で近付いてきた。
ひぃー、殴られる?
泥棒猫とか言われちゃう!?
思わず目を閉じたナタリアを、温かく、いい香りのする柔らかい身体が包んだ。
「ありがとう!!ああ、もう、大好きよ!!」
目を開けば、ナタリアはアメリに抱き締められ、頬をスリスリされている。
は?
なにこれ?
意味がわからないんですけど・・・
ナタリアは困惑するしかなかった。
「殿下、早速お菓子コーナーへ参りましょう!」
「ちょっと待ってもらえるかな」
色気より食い気のナタリアを悠然とした微笑みで制すると、フェルゼンはボーイからグラスを受け取り、鮮やかなグリーンの飲み物をナタリアに手渡してくれる。
「はい、ちゃんと水分も摂らないとね」
「ありがとうございます。わぁ、このドリンク、殿下の瞳と同じ美しい緑色ですね!」
目を輝かせながら、ドリンクとフェルゼンの瞳を見比べながらはしゃぐナタリアに、フェルゼンの頬は再び赤く染まった。
彼の瞳を平気で見られる人間は稀な為、そんな誉められ方をしたことが今までの人生で無かったのである。
「ありがとう。貴方の茶色い髪と茶色い瞳の方が美しいし、私はとても好きだよ」
ナタリアの髪も瞳も、在り来たりで平凡過ぎる地味な色合いだったが、フェルゼンには特別綺麗な色に見えているらしい。
本気で心からそう思っているし、ちゃっかり告白染みた台詞まで口にしている。
「え?そうですか?それはありがとうございます、殿下」
気遣いに決まっていると思いつつも、ナタリアはとりあえずお礼を言った。
自分の垢抜け無さは、自分が一番よくわかっている。
「私は本心から言っているんだけれどな。あと私のことはフェルゼンと名前で呼んで欲しい。貴方のこともナタリアと呼んでいいかな?」
ダンスの前より幾分砕けた口調で訊いてくるが、ただの子爵令嬢のナタリアに拒否という選択肢はない。
「それは構いませんが。あの、私ったらフェルゼン様を独占してしまって。他の方と踊らなくてよろしかったのですか?」
王太子を独占していることに気付いてしまい、ナタリアは急激に不安に襲われた。
令嬢達の反感を買っているのではないかと、心臓がバクバク鳴っているが、実際そんな令嬢などいやしない。
むしろ王太子に普通に接することが出来るナタリアを尊敬に似た目で見ているのだが、本人はわかっていなかった。
「私は誰よりもナタリアと共に過ごしたい。駄目だろうか?」
子犬のような瞳でフェルゼンに見つめられ、ナタリアは言葉に詰まってしまう。
「駄目・・・ではないですよ?」
「そうか!ではお菓子を食べよう!!」
急に元気になったフェルゼンに手を引かれて、並んだお菓子の前まで連れていかれてしまう。
そしてフェルゼンは少し悩んだ様子を見せながらも、マドレーヌを選ぶとナタリアの口元にマドレーヌを押し付けた。
「ナタリア、あーん」
「殿下、それはちょっと・・・」
「フェルゼンだよ?」
「フェ、フェルゼン様、自分で食べ・・・モゴッ・・・おいひいでふ・・・」
マドレーヌを強引に口に放り込まれ、膨らんだ頬をつつかれる。
「ナタリアはリスみたいで可愛いなぁ。ずっと見ていられる。ふふ、次のお菓子は何がいいかな?」
甘々な態度でナタリアを構い倒しているフェルゼンに、周囲は呆気にとられるしかない。
そんな妙な空気が流れる中、みんなの心を代弁する声が響いた。
「ちょっとフェルゼン!あなたそんな性格だったかしら!?」
ナタリアが声の方角を向くと、フェルゼンと同じ美しい金髪を綺麗に巻き、真っ赤なドレスを上品に着こなした令嬢が立っていた。
目鼻立ちがハッキリとしていて、メリハリのある体型に、ナタリアは目を奪われた。
なんて綺麗な方!
私は顔も体もぼやけているから、同性なのに見惚れちゃうわ。
私もこの方みたいな容姿だったら人生全然違っただろうけれど、私は地味に生きたいから適材適所なのかもね。
ナタリアが変な納得をしていると、フェルゼンが親しげに令嬢と話し出す。
「ああ、アメリ。具合は良くなったのかい?」
「そんなことはどうでもいいのよ!フェルゼン、一体どういうことなの!?私がダンスの為に駆け付けてみれば、その子とイチャイチャして!!」
取り乱すアメリを目にし、鈍感なナタリアでも理解してしまった。
なるほど、このアメリ様がフェルゼン様の本当のエスコート相手だったのね。
でも体調不良で今まで休んでいらっしゃったと。
回復して来てみたら、私とフェルゼン様が一緒にいたので気分を害された・・・
・・・まずくない?
これって絶対勘違いされてるわよね?
今度こそ夜会の定番、令嬢虐めが起きてしまうと慌てたナタリアは、なんとか弁解を試みることにした。
「あ、違うんで」
「アメリ、彼女はレンダー子爵令嬢のナタリア。さっき一緒に踊って、今はお菓子を楽しんでいるところなんだ」
ナタリアの腰を抱き寄せると、フェルゼンが弾む声でアメリにナタリアの紹介をした。
ナタリアの弁解を思いっきりかき消しながら。
ほええ!?
その言い方は余計に誤解されるヤツですよね!?
私に弁解のチャンスを!!
動揺を隠せないナタリアに、フェルゼンは更に追い討ちをかけた。
「ナタリア、彼女は侯爵令嬢のアメリだよ。僕の従姉で・・・」
侯爵令嬢!!
出たーー、小説通り!!
焦っているナタリアには、フェルゼンの紹介など頭に入ってこない。
アタフタしているナタリアに、アメリが真顔で近付いてきた。
ひぃー、殴られる?
泥棒猫とか言われちゃう!?
思わず目を閉じたナタリアを、温かく、いい香りのする柔らかい身体が包んだ。
「ありがとう!!ああ、もう、大好きよ!!」
目を開けば、ナタリアはアメリに抱き締められ、頬をスリスリされている。
は?
なにこれ?
意味がわからないんですけど・・・
ナタリアは困惑するしかなかった。
131
あなたにおすすめの小説
ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!
satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。
私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。
私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。
お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。
眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!
急に王妃って言われても…。オジサマが好きなだけだったのに…
satomi
恋愛
オジサマが好きな令嬢、私ミシェル=オートロックスと申します。侯爵家長女です。今回の夜会を逃すと、どこの馬の骨ともわからない男に私の純潔を捧げることに!ならばこの夜会で出会った素敵なオジサマに何としてでも純潔を捧げましょう!…と生まれたのが三つ子。子どもは予定外だったけど、可愛いから良し!
うちに待望の子供が産まれた…けど
satomi
恋愛
セント・ルミヌア王国のウェーリキン侯爵家に双子で生まれたアリサとカリナ。アリサは黒髪。黒髪が『不幸の象徴』とされているセント・ルミヌア王国では疎まれることとなる。対してカリナは金髪。家でも愛されて育つ。二人が4才になったときカリナはアリサを自分の侍女とすることに決めた(一方的に)それから、両親も家での事をすべてアリサ任せにした。
デビュタントで、カリナが皇太子に見られなかったことに腹を立てて、アリサを勘当。隣国へと国外追放した。
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
馬小屋の令嬢
satomi
恋愛
産まれた時に髪の色が黒いということで、馬小屋での生活を強いられてきたハナコ。その10年後にも男の子が髪の色が黒かったので、馬小屋へ。その一年後にもまた男の子が一人馬小屋へ。やっとその一年後に待望の金髪の子が生まれる。女の子だけど、それでも公爵閣下は嬉しかった。彼女の名前はステラリンク。馬小屋の子は名前を適当につけた。長女はハナコ。長男はタロウ、次男はジロウ。
髪の色に翻弄される彼女たちとそれとは全く関係ない世間との違い。
ある日、パーティーに招待されます。そこで歯車が狂っていきます。
婚約破棄された私の結婚相手は殿下限定!?
satomi
恋愛
私は公爵家の末っ子です。お兄様にもお姉さまにも可愛がられて育ちました。我儘っこじゃありません!
ある日、いきなり「真実の愛を見つけた」と婚約破棄されました。
憤慨したのが、お兄様とお姉さまです。
お兄様は今にも突撃しそうだったし、お姉さまは家門を潰そうと画策しているようです。
しかし、2人の議論は私の結婚相手に!お兄様はイケメンなので、イケメンを見て育った私は、かなりのメンクイです。
お姉さまはすごく賢くそのように賢い人でないと私は魅力を感じません。
婚約破棄されても痛くもかゆくもなかったのです。イケメンでもなければ、かしこくもなかったから。
そんなお兄様とお姉さまが導き出した私の結婚相手が殿下。
いきなりビックネーム過ぎませんか?
侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい
花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。
ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。
あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…?
ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの??
そして婚約破棄はどうなるの???
ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。
魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす
三谷朱花
恋愛
ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。
ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。
伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。
そして、告げられた両親の死の真相。
家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。
絶望しかなかった。
涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。
雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。
そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。
ルーナは死を待つしか他になかった。
途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。
そして、ルーナがその温もりを感じた日。
ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる